妊娠・出産・育児は、人生の中で大きなイベントの1つです。家計においても大きな影響を与えますので、公的保険や給付などについて、押さえておくべきことがいくつかあります。その代表的なものに「妊婦健康診査(妊婦健診)の補助(または助成)」「出産育児一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」などがあります。   ところで、出産する方が専業主婦であった場合、夫が自営業者か会社員かによって、これらの補助金などに違いはあるのでしょうか。結論からいえば、「育児休業給付金」を除き、違いはありません。   本記事では、「妊婦健診の補助」「出産育児一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」について、1つずつ解説していきます。これから出産を迎える方、ご家族が出産をされる方の参考になると思いますので、ぜひ最後までお読みください。

妊婦健診の補助

妊婦健診は、母子の健康管理のため、とても重要です。しかし、妊娠は病気ではないため、健康保険などの医療保険が適用されず、妊婦健診の費用は全額自己負担となります。
 
この全額自己負担になる妊婦健診の費用に対し、多くの自治体が補助を行っています。例えば、ある自治体では、妊婦健診の費用を補助するための受診券(自治体によって名称が異なります)を14枚(多胎児のときは19枚)交付しています。
 
補助の内容については、自治体によって異なる可能性がありますので、お住まいの自治体でご確認いただくのが良いでしょう。
 
この補助を受けるための要件は、「その地域に住所(住民登録)がある妊婦」というのが一般的です。つまり、夫が自営業者であるか会社員であるかにかかわらず、妊婦健診の補助を受けられるということです。
 

出産育児一時金

国民健康保険または健康保険に加入している方(被保険者)が出産した場合、出産育児一時金が支給されます。健康保険の被保険者に扶養されている方(被扶養者)が出産した場合は、家族出産育児一時金が支給されます。
 
ここでのポイントは、夫が自営業者であるか会社員であるかによって、妻であるご自身の公的医療保険における立場が異なるということです。具体的には、以下のようになります。
 

・夫が自営業者である場合:国民健康保険の被保険者
・夫が会社員である場合:健康保険の被扶養者

 
この点は、後述する「出産手当金」においても重要になりますので、ご留意ください。
 
出産育児一時金と家族出産育児一時金について、基本的な内容に違いはありません。令和5年4月1日以降の出産育児一時金・家族出産育児一時金の支給額は、以下のとおりです。
 

・在胎週数22週以降の出産(産科医療補償制度加入機関):1児につき50万円
・在胎週数22週以降の出産(産科医療補償制度未加入機関):1児につき48万8000円
・在胎週数22週未満の出産(産科医療補償制度加入機関):1児につき48万8000円

 
以上のことから、出産育児一時金(家族出産育児一時金)において、夫が自営業者であるか会社員であるかによって、給付額に違いはないといえます。
 

出産手当金

出産手当金は、出産により働くことができず、収入がない場合に、生活の保障として支給されるものであり、公的医療保険の給付の1つです。
 
国民健康保険には、出産手当金の給付について、明確な規定はありません。先述の出産育児一時金が「法定給付」とされているのに対し、出産手当金は「任意給付」と考えられています。
 
任意給付とは、保険者(自治体など)が給付をするかしないか、給付する場合はその内容を決定し、給付するというものです。ただ、国民健康保険には出産手当金がないと考えるのが一般的です。
 
健康保険には、出産手当金の規定があります。しかし、出産手当金が支給されるのは、被保険者が出産するときであって、被扶養者が出産するときではありません。つまり、ご自身が健康保険の被保険者でない場合、出産手当金を受け取ることができません。
 
以上のことから、出産手当金は、夫が自営業者であろうと会社員であろうと、専業主婦の方が出産された場合は支給されず、両者に違いはないといえます。
 

育児休業給付金

育児休業給付金とは、育児休業期間中に、雇用保険から支給される給付金です。育児休業給付金には、「出生時育児休業給付金」と「育児休業給付金」があります。
 
出生時育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合に、一定の要件を満たすと受け取ることができる給付金です。育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たすと受け取ることができる給付金です。
 
ここでのポイントは、雇用保険の被保険者であるかどうかです。専業主婦は、雇用保険の被保険者ではありません。自営業者も、原則として、雇用保険の被保険者ではありません。会社員は、雇用保険の被保険者です。
 
以上のことから、育児休業給付金においては、夫が自営業者であるか会社員であるかによって、給付を受けられるかどうかが変わります。夫が自営業者である場合は、育児休業給付金を受け取ることはできません。
 
一方、夫が会社員の場合であって、産後パパ育休または育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たすと育児休業給付金を受け取ることができます。夫が産後パパ育休または育児休業を取得しなければ、両者に違いはありません。
 

まとめ

本記事では、「妊婦健診の補助」「出産育児一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」において、専業主婦の方が妊娠・出産をする際、夫が自営業者であるか会社員であるかによって違いがあるのかについて、解説していきました。
 
夫が自営業者であっても会社員であっても、出産する方が専業主婦であれば、公的保険からの給付や自治体の補助に大きな違いはありません。唯一の違いといえば、夫が育児休業を取得した際の「育児休業給付金」の有無です。しかし、夫が育児休業を取得しなかった場合、受けられる給付や補助に違いはありません。
 
本記事で紹介した給付や補助は、基本的なものです。自治体によっては、ここでは紹介していない支援制度を設けていることがあります。お住まいの自治体で受けられる補助がないかどうか、一度確認してみることをおすすめします。
 

出典

厚生労働省 「国民健康保険の加入・脱退について」
全国健康保険協会 「被扶養者とは?」
厚生労働省 「国民健康保険の給付について」
全国健康保険協会 「出産に関する給付」
厚生労働省 「育児休業給付の内容と支給申請手続」
厚生労働省 「Q&A 〜育児休業給付〜」
 
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー