ロート製薬<4527>がおよそ1年半ぶりにM&Aに踏み切ることになった。同社は2024年6月に、シンガポールの漢方薬製造販売会社のユーヤンサンを買収すると、2024年4月に発表した。
ナリス化粧品(大阪市)傘下のベトナムの化粧品メーカー・ナリス・コスメティックス・ベトナムの子会社化を発表した2022年9月以来で、皮膚治療薬を手がける米国のメンソレータムの買収(1988年)以降の主なM&Aとしては、これが11社目となる。
同社は「ロートグループ総合経営ビジョン2030」と合わせて策定した「事業領域ビジョン」で「一般用医薬品」「スキンケア」を核に、「機能性食品」「その他医療用眼科」「再生医療」「開発製造受託 」などの事業の拡大に力を入れており、ユーヤンサンの買収もこの方針に沿ったものといえる。
このM&A戦略と並行して、同社は2020年代になってスタートアップなどへの出資や資本業務提携を加速させており、2021年に2社、2022年1社、2023年に3社、2024年はすでに4社に出資するなど、スタートアップの持つ先端的な技術の導入に意欲的だ。
今後は、M&Aと出資が事業拡大の両輪として進んでいくことになりそうだ。
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オーガニックとM&Aで事業領域を拡大
ロート製薬はコーポレート・アイデンティティとして「NEVER SAY NEVER」を掲げる。「人がやらないことをやる」「難しいからこそ、あえてやる」という挑戦心が成長の原動力となており、「NEVER SAY NEVER」は同社のDNAだという。
その言葉の意味は歴史を見ると分かる。同社は1899年に大阪で信天堂山田安民薬房を創業し、胃腸薬「胃活」を発売したあと、10年後の1909年に点眼薬のロート目薬を発売。さらに1975年には米国のメンソレータムから商標専用使用権を取得し、外皮用剤分野に参入(メンソレータムの買収は1988年)した。
1993年には日焼け止め「サンプレイサンスクリーンクリーム」を発売しサンケア市場に、1995年にはコンタクトレンズ用剤「ロートCキューブ」を発売しコンタクトレンズ用剤市場にそれぞれ参入。
創業100周年となる1999年にはコンタクトレンズ「ロートI.Q.」を発売し、コンタクトレンズ市場にも参入するなど、幾度となく新たな市場開拓に挑戦してきた。
M&Aに関してはメンソレータムから14年ほどたった2002年、さらに5年後の2007年にそれぞれ1社ずつ企業買収を実施。2015年から2024年までの10年間では8件のM&Aを実施しており、オーガニック(自社の経営資源を活用して成長すること)とM&Aを組み合わせて事業領域の拡大に取り組んできたことが分かる。
年 | ロート製薬の沿革と主なM&A |
---|---|
1899 | 大阪で信天堂山田安民薬房を創業。胃腸薬「胃活」を発売 |
1909 | 点眼薬のロート目薬を発売 |
1949 | ロート製薬を設立 |
1954 | 胃腸薬「シロン」発売 |
1959 | 大阪市生野区に現本社と工場が完成 |
1961 | 大阪証券取引所市場第二部に上場 |
1962 | 胃腸薬のパンシロンを発売 |
1962 | 東京証券取引所市場第二部に上場 |
1964 | 東京証券取引所、大阪証券取引所の市場第一部に指定 |
1975 | 米国のメンソレータムから商標専用使用権を取得。外皮用剤分野に進出。皮膚治療薬「メンソレータム」と、医薬部外品「メンソレータム薬用リップスティック」を発売 |
1988 | 米国のメンソレータムを買収 |
1993 | 日焼け止め「サンプレイサンスクリーンクリーム」を発売。サンケア市場に参入 |
1995 | コンタクトレンズ用剤「ロートCキューブ」を発売。コンタクトレンズ用剤市場に参入 |
1999 | 創業100周年 |
1999 | コンタクトレンズ「ロートI.Q.」発売。コンタクトレンズ市場に参入 |
2002 | 脂質代謝領域をコア事業とするムジーファーマを買収 |
2005 | 薬用メンソレータムメラノバスター(現・メラノCC)を発売 |
2006 | 漢方薬の和漢箋を発売 |
2007 | 医薬品などの開発や、製造受託を行う目黒化工(現・クオリテックファーマ)を買収 |
2015 | 生薬製剤などの製造販売を行う摩耶堂製薬を子会社化 |
2016 | 南アフリカの化粧品や日用品の製造販売AJ Northを子会社化 |
2016 | ブラジルの目薬製造販売会社OPHTHALMOSを子会社化 |
2020 | 眼科領域の後発医薬品開発の日本点眼薬研究所(現・ロートニッテン)を子会社化 |
2021 | 関節治療の研究開発を手がけるオリンパスRMS(現・インターステム)を子会社化 |
2021 | 痔治療薬「ボラギノール」の天藤製薬を子会社化 |
2022 | ベトナムの化粧品メーカーナリス・コスメティックス・ベトナムを子会社化 |
2024 | シンガポールの漢方薬製造販売会社ユーヤンサンを子会社化 |
スタートアップなどへの出資を活発化
そして近年、活発化しているのがスタートアップなどへの出資だ。
2021年に機能性食品素材の開発、販売を手がけるファーマフーズ(京都市)と資本業務提携したあと、同年に飲食店舗の企画運営事業を展開するカフェ・カンパニー(東京都渋谷区)とも資本業務提携を締結。
2022年には台湾のスマートフォンを活用した診断デバイス、アプリの開発販売のアイセンサーに、翌2023年にはオーストラリアの過活動膀胱の新たな解決策となる医療機器を開発するAustralis Scientificにそれぞれ出資。
さらに2024年にはアイルランドの美容医療機器や化粧品の製造販売会社のエマ・エステティクスと資本業務提携を結び、同年に韓国の治療用アプリ開発のスタートアップS-Alpha Therapeuticsと資本提携するなど海外展開にも力を入れている。
直近の2024年3月28日に発表したヘルスケアやフィットネスのアプリ「FiNC」の企画や運営を手がけるFiNC Technologies(東京都千代田区)への出資は、企業の健康経営の実現を支援するための提案などを行うのが狙いだ。
FiNC Technologiesは、蓄積したデータの分析やこれまでの知見を基にした企業の健康経営に関する実績があることから、出資し連携を強化することにした。
同日に資本提携を発表したS-Alpha Therapeuticsは、アンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)の解決策の開発に取り組んでおり、出資とともにライセンス契約(眼科領域)も結び、S-Alpha Therapeuticsが持つ技術やノウハウを活用して事業領域を拡げる考えだ
この他のいずれの案件も食品や化粧品、ヘルスケアなどの事業を連携して拡大するのが狙いで、経営ビジョンに沿った動きと言える。
年 | ロート製薬の主な出資や資本業務提携 |
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2021 | 機能性食品素材の開発、販売のファーマフーズ(京都市)と資本業務提携 |
2021 | 飲食店舗の企画運営事業を手がけるカフェ・カンパニー(東京都渋谷区)と資本業務提携 |
2022 | 台湾のスマートフォンを活用した診断デバイス、アプリの開発販売のアイセンサーに出資 |
2023 | 微細藻類ユーグレナやクロレラなどを活用した食品、化粧品などの開発販売会社のユーグレナ(東京都港区)と資本業務提携 |
2023 | 低糖質、低塩分の食品開発を進めるおいしいプラス(東京都渋谷区)と資本業務提携 |
2023 | オーストラリアの過活動膀胱の新たな解決策となる医療機器を開発するAustralis Scientificに出資 |
2024 | アイルランドの美容医療機器、化粧品の製造販売会社のエマ・エステティクスと資本業務提携 |
2024 | 医療、ヘルスケアに関するIT活用事業を手がける順天堂大学発スタートアップInnoJin(東京都文京区)と資本提携 |
2024 | 韓国の治療用アプリ開発のスタートアップS-Alpha Therapeuticsと資本提携 |
2024 | ヘルスケアやフィットネスのアプリ「FiNC」の企画や運営を手がけるFiNC Technologies(東京都千代田区)に出資 |
業績予想を3度上方修正
ロート製薬の業績は好調で、2024年3月期は3期連続の増収営業増益となる見込みだ。また四半期ごとに業績が好転しており、これまでに業績予想を3度上方修正した。
2023年3月期決算時点では、2024年3月期の売上高は2590億円(前年度比8.5%増)、営業利益は350億円(同3.1%増)の予想だった。
この予想に対し2024年3月期第1四半期決算時に売上高を40億円、営業利益を20億円引き上げ、同第2四半期決算時に売上高を70億円、営業利益を15億円引き上げ、さらに同第3四半期決算時に売上高を20億円、営業利益を15億円引き上げた。
この結果、2024年3月期は売上高2720億円(同14.0%増)、営業利益400億円(同17.8%増)と、2ケタの増収営業増益を見込む。
いずれも日本国内の事業が好調に推移したのが上方修正の理由で、スキンケア商品の「メラノCC」 や 「肌ラボ」、目のサプリメント「ロートV5」などが牽引したほか、インバウンド(訪日観光客)需要や「ボラギノール」を主力商品とする天藤製薬も寄与した。
米国、欧州、アジアも10%前後の増収となっているものの、売り上げ規模の大きい日本の伸びが17%を超えている(2024年3月期第3四半期決算時点)ことが、業績を大きく押し上げた。
ロート製薬のグループに入ったユーヤンサンの2023年6月期の売上高は327億300万円(発表当時の為替レート=1シンガポールドル110円で換算)で、次期以降にこの売上高がロート製薬の業績に加わってくる。
一方、スタートアップ出資による業績への影響はいずれも軽微だが、新しい市場が開拓できれば、将来の経営を支える可能性もある。
M&Aと出資という事業拡大の二刀流が機能すれば、さらなる成長が見込めそうだ。
文:M&A Online