『余命10年』(22)の藤井道人監督の初の国際プロジェクト、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(5月3日公開)。台湾で話題を呼んだジミー・ライの紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」を原作に、日本と台湾、18年前と現在を舞台に紡ぐせつなくも美しいラブストーリーを映画化。台湾と日本でオールロケにて敢行され、日本での撮影は日本人スタッフが、台湾の撮影では現地のスタッフが参加した本作は、世界最速で公開した台湾では、現在時点の興行収入は今年公開された台湾映画(合作を含む)No.1の大ヒットを記録している。

台湾の人気俳優シュー・グァンハンと日本の若手実力派の清原果耶がW主演。日本と台湾を舞台に、初恋の記憶と人生の岐路に立たされた主人公の旅を描いていく本作は、泣けるラブストーリーでありながら、旅もの、青春ものとしても様々な世代に刺さるポイントが満載。そんな世代を超えて楽しめる本作をいち早く観た、ムービーウォーカー社の社員による座談会を実施。40代からは「月刊シネコンウォーカー」編集長の佐藤、30代からは「MOVIE WALKER PRESS」編集部の黄とデジタル鑑賞券「ムビチケ」担当の任、20代代表として「MOVIE WALKER PRESS」編集部の山下の4人が参加し、それぞれが心打たれたポイントを交えながら見どころを語り合った。

物語のはじまりは18年前の台湾。高校生のジミー(グァンハン)は、日本から来たバックパッカーのアミ(清原)と出会う。天真爛漫でどこかミステリアスなアミにいつしか恋心を抱いていくジミー。アミもまた、ある秘密を抱えながらもジミーへ想いを寄せていく。しかし、アミの帰国により突然訪れた別れ際、2人は“ある約束”を結ぶ。時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、18年前に出会ったアミとの忘れられない初恋の記憶と果たせなかった約束を胸に、日本への一人旅を決意する。旅の途中で出会う人々との交流をきっかけに、止まっていたジミーの時間が少しずつ動きだす。ジミーが旅の果てに知る、アミが隠していた想いとは…。

■「映画全体の雰囲気に自分の学生時代の思い出がフラッシュバックしました」(佐藤)

佐藤「学生時代、香港に留学していて、バックパッカーの経験もある僕にとっては、ジミーとアミが出会いのシーンから自分が過ごした時間が蘇ってグッときました。香港も台湾と空気感が似ていて、例えば、ジミーがバスケットをしていたカラオケ屋の中庭。亜熱帯の匂いというのかな、自分が訪れたゲストハウスで漂っていた異国の地の洗剤の香りなどを思い出しました。アミがバイト先のみんなと夕ご飯を食べるような店にもよく行ったし、映画全体の雰囲気に自分の学生時代の思い出がフラッシュバックしました」

任「台湾には旅行で2回ほど行ったことがあるのですが、ジミーとアミがランタンを飛ばした場所にも行きました。私は一人旅だったのですが、恋人や家族や友だち、誰かと一緒にランタンを飛ばしている様子も実際に見ていたので、映画で2人がランタンを飛ばすシーンはよりキラキラして見えたし、やっぱりうらやましいなって思いました。36歳になったジミーが今度は日本でランタンのフェスティバルに訪れます。時の流れ、心境の変化を感じてグッときました」

山下「台湾に行った経験のない僕は、青春映画として楽しみました。自分にとって18歳はそれほど前の話ではないので、“こういう時間がずっと続けばいい”なんて思っていた時期だなと、ちょっと感慨深いというか、感傷に浸る感覚がありました。ジミーがアミに会いに行く物語だと思って観ていたので、旅の本当の目的がわかった瞬間が一番グッときたポイントですね」

黄「私がグッときたポイントは2つあります。1つはジミーが18年の時間を超えて会いたい人に会いに行くというところ。私自身が海外出身ということもあり、コロナ禍では家族と会えない時間を長く過ごしましたし、旅にも行けませんでした。会いたい人と会えない気持ち、外に出たいという気持ちがジミーの状況と重なりました。もう1つは道枝くん演じる18歳のバックパッカーの幸次との別れのシーン。連絡先は交換したけれど、“もう会えないかもしれない”という関係性に、自分の過去の旅を思い出して、せつなくなりました。旅先での出会いならではだなと感じました」

■「恋愛映画として正しいプロセスを丁寧に描いた作品だと思いました」(任)

佐藤「一期一会的な感じだよね。恋愛映画としてはすごくピュア。恋愛が始まる前の入門っていう感じかな。僕はやっぱり、仕事をバリバリやってきた人がちょっと疲れて、自分の人生を振り返った時に思い出した会いたい人に会いに行くという結論に至るところ。次のステップに行くまでの人生の小休止を描いた作品という印象。恋愛映画というよりも、バリバリ働いている人の自問の時間のような感覚で楽しみました」

任「すごくピュアで恋愛としてはそれほど進展しないけれど、出会って、恋に落ちて、デートに行って、ちょっとしたすれ違いがあって、また会おうねと別れる。恋愛映画として正しいプロセスを丁寧に描いた作品だと思いました。18歳のジミーがとにかくかわいい!デートを考えながら鏡の前で髪型を変えてバタバタする姿とか甘酸っぱくてキュンとしました」

黄「デートシーンは全部よかったですよね。王道なデートをしながら、ジミーがアミの気持ちを探るところ、言葉のやりとりがすごくかわいかったです」

佐藤「かなりピュアな子だよね、ジミーって。結構奥手って感じ」

黄「恋愛に対しては奥手なほうだと思います。ジミーの葛藤や心のなかでのシチュエーションのリハーサルとかは、あの年代だからこそ、という感じがしてキュンキュンしました」

任「本当にかわいかった。妹の少女漫画を借りて女心を研究するとか、たまりません!」

山下「恋愛って結ばれるまでが一番キラキラしていて楽しかったりするので、むしろなにも始まっていないところがいいなって思ったし、そこを丁寧に描いているのもいい。旅先での恋愛という意味では映画『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』っぽい感じもしました。ジミーとアミの言語の違いがジミーの不器用さとリンクしている気もして。伝えられないけれど伝えたくてしょうがない、そんなジミーのもどかしさを感じて、かわいいなって思いました」

佐藤「確かに恋愛の不器用さはすごく出ている作品だったよね」

黄「ジミーとアミが観に行った映画が岩井俊二監督の『Love Letter』というのも、恋愛映画の要素としてすごく大きいと思います。岩井監督作品と言えば、最初に頭に浮かぶのは『Love Letter』という人が中華圏では特に多くて。私の世代ではラブストーリーのバイブルのような存在です。それが世代的にもグッとくるもポイントの一つ。今年の映画に1995年の作品が登場するという、18年前といまがリンクしているように感じられてすごくよかったです」

■「台湾独特のノスタルジックな感じがすごくよかったです」(任)

佐藤「行ってみたいと思うシーンも結構あったよね?」

黄「私は36歳のジミーが乗った電車が雪国に入る瞬間。泣きそうになるくらい美しいシーンだったし、息を呑みました」

任「音が一瞬消えるような感じがすごくよかったです」

黄「私は香港に近い南の出身。雪が全然降らない地域なので、雪をあまり見たことがありません。雪への憧れも強いので、あのシーンはファンタジーのようにも感じました。雪合戦したくなる気持ちもわかります!」

佐藤「ジミーと幸次の雪合戦もすごく青春って感じがしたシーンだよね(笑)」

任「台湾独特のノスタルジックな感じがすごくよかったです。昔からある建物にいまの生活が根付いていて、それがいまの人の生活にすごくマッチしている。どこか懐かしくて居心地のよさを感じるのは台湾ならではかなと。いわゆる“エモい”みたいな感覚がありました。日本と台湾のパートは時代も違うから、よりいい対比になっているような気がして。薄着で暖かい気候の台南と雪でいっぱいの冬の日本。より一層台南の暖かさが伝わるので、次は台南に行きたいって思いました」

佐藤「エドワード・ヤンの映画もそうだけど、台湾の青春映画ってバイクの2人乗りシーン多いよね?」

任「私が台湾に行った時は、2人乗り多いんだなって思いました。ただ、私が見かけたのは仕事帰りのおじさん2人組ばかりでしたけど(笑)」

黄「グループデートの時とかは、鍵を混ぜて一緒に乗る人を決めるみたいなこともやるらしいですね。台湾のドラマや映画ではよく見ます」

任「私は、ジミーが訪れる新潟のランタンフェスティバルのシーンもすごく好きです。黒木華さんが演じていたネットカフェのアルバイト店員、由紀子の温かい感じは、台湾を思い出しました。それがジミーとアミの台湾でのランタンの思い出とも重なってよりすてきに感じました。私自身、台湾旅行中に、日本語の話せる台湾の人にめちゃくちゃお世話になって。電車に乗っていた1時間半くらいずっとそのおじいちゃんと話をして、ご飯までご馳走になった思い出があります」

佐藤「台湾の人ってめちゃくちゃ日本人に優しいよね」

任「本当に。だからアミがカラオケ店の人たちに受け入れる感じもすごくしっくりきました。日本から来たというだけで、話している人の表情がパッと明るくなるくらい、受け入れる度量を体験済みなので、そういう部分もよく出ている作品だなって思います」

黄「ちょうど1990年代〜2000年代の台湾は、日本のカルチャーに対してもすごく興味を持っていた時代というのもあったと思います。トレンドみたいな感じです」

佐藤「キャストもすごくよかったよね。道枝くんとかチャラっとした青年を演じるのがすごくうまかった。旅先のノリって感じもしてすごくリアルだなって。旅先だと性格まではわからないけれど、人を見る時のフィルター感というのかな。あのくらいの距離感がちょうどいいというか。奥底は知らないけれど、目的が同じで何時間くらいを一緒に過ごす。旅先で出会う人感が抜群でした」

任「もう会わないかもしれないけれど連絡先を交換するんだって(笑)。あれはすごくいまどきだと思いました。幸次との出会いでやっとジミーの純粋な笑顔が見られたのがすごく印象的でした。アミの話をして雪合戦をして、なんか心を開いている感じがしました。ジミー自身の18歳のころと比べる、あのころの気持ちを思いだすという意味では、軽いノリの幸次だけど、すごく重要な出会いのシーンな気がします。2人の掛け合いを見て、18歳のころのジミーと友だちがわちゃわちゃゲームをするシーンが蘇りました。そして、グァンハンさんの演じ分けのすごさを改めて感じるシーンでもありました」

■「20代男性から見てもすごくかわいいと思いました!」(山下)

佐藤「グァンハンさんは、アジア圏では“国民の彼氏“って言われているんだよね?」

黄「2019年のドラマ『時をかける愛』でも高校生から30代までの役を1人で演じています。10代では不器用さと少年ならではのやんちゃさをうまくだしていて、大人パートでは優しさにあふれる完璧な彼氏感が出ていて。ドラマのストーリーがおもしろいうえに、放送された時期はコロナ禍で不安な日々が続いた時期ということもあり、その完璧な彼氏感、優しさがみんなの心を癒したんです。グァンハンさん自身もすごく自然体な人で、前に出ない謙虚な感じも、人気の理由だと思います」

任「あんなに違和感なく18歳と36歳を演じ分けられるなんて本当にすごい!私は18歳のジミーがかわいくて大好きです」

黄「たまらないですよね!」

山下「僕は清原さんが演じるアミの一歩先回りする年上の女性感がすごく印象に残っています。セリフとかにも常に絶妙に一枚上手な感じがあって、“ずるいな”って感じるシーンがたくさんありました」

黄「お姉さん感があったんですよね。アミの言葉に対するジミーの反応がすごくかわいくて」

任「わかります!」

黄「寝坊してお母さんに八つ当たりしているところとか。ジミーがプンプンしちゃってなんてかわいいんだって」

任「すごくかわいいのに、アミの前ではスマートにお茶を出したりして。頑張っている姿が余計にいじらしいというか、かわいさが増すというか」

山「20代男性から見てもすごくかわいいと思いました!」

佐藤「ジョセフ・チャンがサラッと出ていたのもびっくり」

黄「ジミーのお父さん役のチュ・チョンホンさんも、台湾ではすごく有名なベテラン俳優です。日本も台湾もすごくキャストが豪華だと思いました。豪華な俳優陣もそうですが、藤井監督初の国際プロジェクトはすごくバランスのいい合作になったと感じています。合作映画はどちらかに偏る傾向が多いけれど、日本と台湾、両方の味はちょっとずつ違うけれど、この作品で一緒になった時にいい相乗効果を生みだしているなって。日本と台湾両方のよさが感じられる珍しい作品だと思います」

佐藤「確かに。ストーリー上もそうだけど、台湾では賑やかではつらつとしたシーンを描き、日本では雪とか旅情というのかな、せつない部分を描いていて。それぞれの国民性などもいい感じでマッチしていたような気がします」

任「確かに。台湾でははつらつとした感じ、日本ではしっとりとせつなさが全開。すごくいい対比になっていてお互いのよさが際立っていますよね」

■「人生も旅も続いていくなかでの出会いが楽しみになりました」(黄)

佐藤「おすすめポイントはいっぱいあるけれど、個人的には、人の優しさにあとから気づくところに泣ける作品。アジア映画なのでハリウッド映画とは違う心の機微が共感しやすいと思います」

任「恋愛に悩んでいたらジミーとアミのやりとりに共感すると思うし、仕事や人生で道を見失ってモヤモヤしている人にはなにか新しい一歩を踏み出すきっかけ、勇気をもらえるような作品だと思います。自分がいま悩んでることによって、映画に着目する点が変わる、そんな映画です」

山下「映像的な魅力もたくさん詰まっている作品です。ラブストーリーという側面だけでなく、青春映画、旅ものとしても観れるし、美しい映像から滲みでてくる感情がすごく鮮やかで引き込まれます。ジミーの旅の目的を想像しながら、楽しんでほしいです」

黄「私は36歳のジミーに近い年齢なので、18歳のころの自分を思いだしながら36歳に向かう勇気をもらった気がします。映画のなかでアミが“ずっと旅が続きますように”と言っていたように、これから先も人生も旅も続いていくなかでの出会いが楽しみになりました。そんなインスパイアを与えてくれるすてきな作品です。そしてやっぱりイチオシはグァンハンさんの演じ分け。18歳のジミーにキュンキュンして、36歳のジミーには寄り添ってあげたいという気持ちになれます!」

任「わかります!本当にすてき」

佐藤「絶賛だね」

山下「グァンハンさんが人気の理由がリアルにわかった気がします(笑)」

構成・文/タナカシノブ