貿易港の活性化は荷役や通関だけでなく、陸上輸送や修繕など多岐にわたる仕事を生み出し、地域の活性化に貢献することが期待されます。
長崎港は歴史的な背景を持ち、アジアとの交易の要としての役割を果たしてきましたが、コンテナ取扱量で他の港に劣っています。その背景や課題などをまとめます。

【住吉光アナウンサー(以下:住)】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン。今週も平家達史NBC論説委員とお伝えします。

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【平家達史NBC論説委員(以下:平)】今回のテーマは「コンテナ船と長崎」です。

20世紀最大の発明のひとつ──コンテナ

【住】一般にコンテナを使った輸送はあまり馴染みがないのですが、どんなものを運ぶことが多いんでしょうか?

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【平】海上輸送貨物のうち、コンテナで運ばれてくるものは、貿易額ベースでおよそ6割です。工業製品を始め、食糧品や電気製品、衣類など、身の回りのほとんどの物がコンテナで日本に運ばれてきています。

【住】コンテナはどれくらいの大きさなんですか?

【平】標準的なコンテナの大きさは、長さ6.1メートル、幅2.4メートル、高さ2.6メートルです。

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コンテナは「20世紀最大の発明のひとつ」と言われています。《規格化されたコンテナ》を使うことにより、港における荷役の効率化をもたらしただけでなく、海上輸送と鉄道やトラックによる陸上輸送との連携がスムーズになりました。1つのコンテナに、ワインは7,000本、靴は5,000足入るそうです。

海運大手3社が設立した「ONE DEJIMA」のねらい

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そのコンテナを扱う輸送会社に「オーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)」という会社がありますが、2017年に、日本郵船・商船三井・川崎汽船の3社が共同出資してシンガポールに設立された会社です。

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そして、その「オーシャン ネットワーク エクスプレス」が、長崎市に事業所「ONE DEJIMA(ワン デジマ)」を構え、先月22日に県や市と立地協定を結びました。

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シンガポールに本社を置くONEは、世界120か国とネットワークを築き、200隻以上のコンテナ船を運航しています。「ONE DEJIMA」では、世界のコンテナ船の需要状況を知るための『市場調査』や『人事関連のサポート』を行うほか、将来的には国内外の企業からの業務受注も目指しています。

ONE DEJIMA 遠山直人代表取締役CEO:
「地域発のグローバル会社を目指していきたいと思います」

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長崎県も長崎市も、大学生の県内就職やUターンやIターンに繋がればと期待を寄せています。

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大石賢吾長崎県知事:
「魅力ある雇用の場の創出につながるんじゃないかなと思います」

「ONE DEJIMA」は、年内に20人の雇用を目指していて、事業拡大とともに、増員する計画です。

《鎖国時代の出島》のようにグローバルな仕事のゲートウェイに

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来月業務がスタートするONE DEJIMA。長崎市のオフィスには、こんなこだわりが──

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遠山 代表取締役CEO:「これ元々コンテナだったんですよ」

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コンテナを再利用した壁面は、桜をイメージした「マゼンタ」色で塗装しています。船の甲板をかたどった机に、長崎の海を連想させる波打つデザインです。

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ONEが長崎に進出したのは “雇用の受け皿”になりたいという思いからでした。

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遠山 代表取締役CEO:
「地方発でグローバルな会社、雇用の受け皿がないと日本全体が弱っちゃうなと思って。出島に代表されるような歴史を持っている《文化と海運業との親和性》それと《優秀な人材の受け皿》になれると。
『鎖国時代の出島』が日本にとってのゲートウェイだったように、我々も長崎からグローバルな仕事をしていく上でのゲートウェイになりたいなと」

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2024年3月に長崎市の出島で開かれた『海運事業のこれからを考えるサミット』では、ONEの経営戦略担当者も長崎への期待感を語りました。

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ONE 岩井泰樹マネージングディレクター:
「どんどん伸びていく世界人口・世界経済を支える形で、我々もグローバルに事業を拡大していきたいと思っています。長崎の人にもそれを支えていただくような仕事をしていただければと思っています。
魅力のある職場にして長崎の人たちに選んでいただけるような会社、期待に応えられるような会社にしていければなと思っています」

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世界のコンテナ業界を牽引する人材が、長崎から輩出される日が来るかもしれません。

【住】長崎でグローバルな仕事ができるチャンスが増えたことで、人口流出の歯止めになるといいですね。

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【平】これからのONEDEJIMAの事業拡大に期待したいところです。ところで、私が気になっているのが、長崎港のコンテナ取扱量の少なさです。

長崎港の取扱量が 博多港、伊万里港に劣る理由

コンテナはTEUという単位で数えます。

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標準的な大きさのコンテナ1個分を1TEU(Twenty-foot Eqiavalet Unit)と数えます。長崎港では、2022年度に輸出では1,277、輸入では3,362が取り扱われています。

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一方、佐賀県の伊万里港では、輸出6,521、輸入2万4,661、福岡県の博多港では、輸出21万2,466、輸入は37万5,200の取扱量があります。

【住】長崎港と比較すると、輸出量は伊万里港は5倍、博多港は166倍。輸入量も伊万里港は7倍、博多港は111倍と差がありますね。

【平】長崎港での取扱量が増えると物流が盛んになり、経済の活性化につながることが期待されますが、何故、ここまで取扱量に差が生じているのか?長崎市と商工会議所が事務局を務める長崎港活性化センターにその理由を教えてもらいました。

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長崎港活性化センター 吉田涼子事務局長:
「長崎港は直行便が“プサンのみ”で他の港より少し弱いところになっているかと思います。生鮮食品ですとリードタイム(商品が納品されるまでの時間)を短くすることが優先になりますので、どうしても韓国、中国、台湾、東南アジア、北米とかに直行便がある博多港がまず選ばれる形になっています。
また地理的に近いので、県北(の企業)だと伊万里港を選ばれる状況が続いている」

長崎で「貿易しよう」という会社が少ない

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“輸入港”として長崎港がなかなか選ばれないなか、長崎港活性化センターでは “輸出”で利用してもらおうと20年前から助成制度を設け、県内企業への呼びかけを続けています。

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吉田 事務局長:
「大きな輸出・輸入っていうのに繋がるような産業、次の産業が生まれないかなとは思っているんですけども『そうなったときにはぜひ長崎港を使ってください』というようなセールスをずっと続けてはいますね」

【住】直行便がプサン航路のみに限られていることに加えて、県内では『コンテナを使って貿易しよう』という企業が少ないことも課題になっているんですね。

【平】長崎港とプサン港の直行便は、現在、週2便のみで、決して多いとは言えないのが現状です。長崎港活性化センターでは、今年の夏にセミナーを開催予定で、企業からの貿易に関する相談に応じる予定です。

【住】船舶貨物の仕事は多岐にわたりますから、貨物の増加も長崎の活性化につながりそうですね。

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【平】長崎港に出入りする船が増えれば、荷役や通関といった仕事のほか、陸上輸送の仕事なども増えます。さらに長崎には造船所が多いですから修繕にも期待できるかもしれません。もちろん、荷物の増加に対応する港の設備や道路整備といったインフラ整備は必要です。

1571年の開港以降、海外との交易により繁栄してきた長崎港です。出島は鎖国時代の唯一の西洋への窓口であり、西洋文化だけでなく、運び込まれた物資も日本に大きな影響を与えました。明治以降も最重要港湾に指定されていた長崎港ですからアジアに近いというメリットを活かし、現代の「出島」として貨物の増加にも期待したいところです。