100人に1人の割合で発症するといわれる「吃音」吃音は話す際に言葉が詰まったり同じ言葉を繰り返したりする症状で、7〜8割の人が成長とともに治るとされていますが、大人になっても症状が残る場合があります。
「吃音があっても前向きにやりたいことに挑戦したい」吃音症の若者3人がその場所として選んだのはカフェでの接客でした。

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辻勇夢さん(19):
「え、えっと…14時からのお客様でしょうか?こちらが、えーっとカフェですので、えー案内しますので、では順番にお願いします」
※辻さんの正しい漢字は『一点のしんにょう』

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長崎市に今月5日、1日限定でオープンしたカフェ。「注文に時間がかかるカフェ」は、吃音がある若者の夢を応援しようと全国各地を移動しながら開催されています。接客するのは吃音症の大学生と高校生です。

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入店時、スタッフはこう書かれたパネルをお客さんに示し、読み上げます。

《吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障がいの一つです。遮ったり推測して代わりに言ったりせずに言い終わるまで待っていてください。緊張していて どもっているわけではないので「緊張しないで」「リラックスしてゆっくり話せばいいよ」とアドバイスしないでください》

吃音のことを分かって欲しい

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「注文に時間がかかるカフェ」は、今から3年前に東京から始まった取り組みで、これまでに23都道府県に広がっていて、長崎県内では今回が初めての開催です。

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「注文に時間がかかるカフェ」発起人の奥村安莉沙さん(自身も吃音):
「私自身は吃音があってやりたいことを諦めてきた人生だったので、彼らにはそういう思いをして欲しくないなという風に思っています」

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スタッフの一人、辻勇夢さん(19)がお客さんに自身のことを話します。

「自分は5〜6歳の頃に初めて言葉が出ないと認識しだして、その当時って『みんなと一緒にいたい』というか、人と違うことに対してすごく嫌悪的な気持ちがあったんですね」

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3人兄弟の次男として生まれた辻勇夢さんは、しっかり者で人を笑わせるのが好きな性格でしたが、小学校の入学式で吃音の症状を自覚しました。

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辻さん:
「自分の名前が全く出なくて、吃音の症状が出ちゃって。その場でちょっと自分がどもったことで、クラスの中で笑いが起きてしまって。何かその状況にすごく耐えられなくて、その場ですぐ泣きだしてしまった」

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吃音に悩んできた辻さんですが、高校時代に吃音であることを友人に明かしたことが大きな転機となりました。

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辻さん:
「“自分は吃音なんだよね”っていうようなことを初めて話したら、すごく理解してくれて、自分が吃音ってことを話していいんだって思ったんですよね」

たくさんの人と話せるのが楽しみ

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カフェのオープン当日。辻さんを含め3人の若者が人生初の接客に挑みます。「吃音について多くの人に理解してもらうこと」も目標です。

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辻さんは自身のエプロンに「明るく笑顔で接客します!!最後まできいてくれるとうれしいです!!」と記したメッセージカードをつけました。

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辻さん:
「人と話す時は笑顔で話すというのを自分の中で心がけているので、そういったのを今回のカフェの接客でもしっかりと活かしていけたらなと思って、こう書きました」

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大学3年生 松枝 明さん:
「緊張もあるんですけど、きょうはどもってしまっても大丈夫だなっていう気持ちがあるので、たくさんの人と話せるのがすごく楽しみです」

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高校3年生 山田 彩仁榎さん:
「今まで吃音の事を気にして、あんまり好きなように人と話せなかったから、この場所では自分の言葉で楽しくお話したいなと思っています」

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(3人が手を合わせて)
「じゃあきょう皆さん緊張すると思いますが、明るく笑顔で接客がんばりましょう」「ファイト」「おー!」「よしっ」

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吃音である自分を受け入れて前に進む勇気を出した3人。接客でスムーズに言葉が出ない瞬間もありましたが、訪れたおよそ30人のお客さんと積極的にコミュニケーションを取っていきます。

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辻さん:「えっとちなみに今回はどちらから?」
お客さん:「長崎です」
お客さん:「私、長与から」
辻さん:「ありがとうございます」

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辻さん:
「自分だけ(吃音で)特別扱いで周囲に変な風に思われるんじゃないかっていうのが気にもなって…なんか複雑な気持ちが、中学校がそれが特にあって」
お客さん:
「特別なのが逆につらいよね」

辻さんの家族もカフェを訪れた

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辻さん:
「ホットティーのお客様」
「お待たせしました」

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息子に接客されるのはもちろん初めて。父・伴幸さんも吃音の症状があり、人前で話すことの難しさは身をもって経験してきました。だからこそ、今回の息子の行動力を誇らしい気持ちで見守っていました。

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父・伴幸さん:
「自分の息子のそういう活動を見ているのがドキドキ。ただ本人も楽しそうにしていたので本当にやってよかったんじゃないかな」

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母・明美さん:
「すごく頑張ってるし、前向きだし、すごくいい経験をさせてもらってるなって」

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勇夢さん:
「話すとものすごくあっという間だなという風に感じましたね。やっぱりすごく自分が伝えたいことっていうのを発信できた面ではすごく自分にとっても成長できたと思うので、自分で自分をほめるのもなんですけど、よくやったなと思っています」

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「注文に時間がかかるカフェ」そこは「たまに時間が止まるカフェ」
けれどそこにはお互いがお互いを理解しようとする優しい時間が流れていました。