NTTは8日、メタル設備縮退後の2035年に想定する固定電話契約数(約500万回線)を対象にした四つの新たな電話サービス方式の収支に関する詳細を示した。電話を全てNTT東日本、NTT西日本の光回線で提供した場合、他事業者のみが提供する地域で新規整備が必要な一方、加入者の収入ではコストがまかなえず年770億円の赤字が発生すると指摘。既存の携帯通信の活用でコスト効率が飛躍的に上昇し、赤字額を年30億円に抑制できるとした。(編集委員・水嶋真人)

NTTが試算した新たなユニバーサルサービスの必要コスト(電話)

NTT東西の固定電話契約数(加入電話とINSネットの合計)は23年末時点で前年比8・2%減の1272万件。試算ではこの減少傾向を基に、老朽化でメタル設備を縮退せざるを得なくなる35年の固定電話回線数を約500万回線と算出し、NTTの光回線整備済みエリアと未整備エリアに割り振った。

電話を全てNTT東西の光回線で提供した場合の年間赤字額770億円の内訳は、自社の光回線提供済みエリアで生じる赤字が年320億円、未整備エリアに新規設備を設置した上で生じる赤字が同450億円とした。メタル設備のみで電話サービスを提供している地域に新たに光回線を敷設するために多大な費用がかかる。

一方、人口カバー率が99・99%ある携帯通信を用いたワイヤレス固定方式のみで提供した場合の赤字額は年60億円に減る。「既存の携帯通信エリアを最大限活用することでコスト効率が向上する」(城所征可NTT経営企画部門統括部長)からだ。内訳は携帯電話事業者が携帯通信エリアを新規整備した上で生じる赤字が同50億円、ビル影などの電波不感地域にNTT東西が光回線電話を提供した際の赤字が同10億円とした。

さらに、ワイヤレス固定方式と光回線電話を合わせて国内カバー率を100%にする方式では年間赤字額が30億円に減る。携帯各社の携帯通信エリアでは赤字は発生しないと想定。携帯各社の電波が届かない未整備地域の6割でNTT東西の光回線が提供済みのため、新規設備投資が大幅に減る。

NTT法では、全国どの世帯でも公平に安定して利用できるユニバーサル(全国一律)サービスに関するNTTの責務について「電話のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な確保に寄与する」と規定する。NTT法を見直す中でユニバーサルサービスのあり方についての議論も進んでおり、NTTは携帯通信を軸とした形に変更するよう提案していた。

これに対し、有識者は新たな四つの提供方式の収支に関する根拠を示すべきだと主張。携帯通信回線が時間帯や場所で通信速度が変化するなど品質が一定でないことが課題だとの声も出ていた。