【65歳アルバイトの現実】#18

 グループホーム管理人編

  ◇  ◇  ◇

「俺って世間知らずだなぁ」と、おのれの無知をかみしめることがある。グループホームの管理人の面接を受けたときがそうだった。「報酬1万5000円。入居者の食事を作る仕事です」という募集広告に応募したら「面接においでください」との連絡を受けた。

 場所は都内の住宅街にある民間アパート。1階の部屋で社長の小川氏(仮名)が待っていた。グループホームという言葉から、若者が共同で住むシェアハウスをイメージしていたのだが、精神疾患を抱えた人たちの住まいだった。

 小川氏の会社が2階の7部屋と面接をした1階の部屋の計8部屋を借り上げ、利用者7人は2階に住んでいる。男性6人、女性1人。管理人は普段、1階に待機している。小川氏が言う。

「病気はあるけど親元を離れて自立したい方たちが利用なさっています。みなさん、昼間は仕事に出て、夕方に帰ってくる。仕事は管理人というより“寮母”と呼んだほうが分かりやすいかな。ただ、男性スタッフも働いています」

 利用者の部屋は1K。小川氏によると、この近辺の1Kの家賃相場は7万2000円で、利用者はこれに食費などを上乗せした料金を払っている。具体的に料金がいくらなのか質問したが、「行政からの補助が出ている人もいるので、一概に申し上げられません」とはぐらかされてしまった。

 仕事は午後4時から翌朝10時までの18時間。報酬が1万5000円と高額なのは拘束時間が長いからだ。単純計算で時給833円となる。

 管理人は午後6時までに食事を作り、利用者に料理をふるまう。食事時間は午後8時まで。その後の時間は自由に使い、翌朝4時に起きて朝食を作る。利用者が食べ終わったら片付けをし、10時に仕事が終了。面接を受けた部屋にテーブルがあり、ここが“食堂”だ。

「食材は協同組合が運んでくれます。料理は曜日ごとのレシピに従って作っていただければけっこう。寮母とはいえ、おふくろの味を工夫する必要はありません」

 食事の世話が終わるとあとは何をしてもかまわない。食堂にはWi-Fiもあるのでパソコンも利用可。プリンターも使える。管理人が眠るための簡易ベッドも置かれている。

「仕事としてはめちゃくちゃラク。そのため募集をかけるとけっこう応募をいただきます。余った時間を小説の執筆や絵画、ウェブデザインなどアート系の趣味に使っている人が多いようです」

 ただし注意点もある。深夜に利用者が「アパートの周辺の騒音がうるさい」「隣の部屋の物音で眠れない」と相談してくることも。その場合は寝床から起き出してトラブルに対処しなければならない。

 もっと大変なのは私的な相談。利用者は夕飯のあと、管理人に勤務先の仕事や人間関係について相談してくる。そうした悩みを聞いてあげることも仕事のうちだ。食事終了後の1時間くらいが相談タイムとなる。

「ポイントは話を聞く程度にとどめること。相手の悩みの深部に立ち入ると厄介なことになります。ただ、『忙しいのであとで聞きます』と軽くあしらうと、いじける人もいる。接客業を経験したコミュニケーション能力の高い人に向いている仕事です」

 面接の前に「自分は心優しい寮母になれるか」と自己診断したほうがいいだろう。(つづく)

(林山翔平)