「やさしいお金の専門家/金融・経済アナリスト」として、お金にまつわる情報をわかりやすく届ける横川楓さん。マネーコンテンツ制作や企業や官公庁のアドバイザー、セミナー講師を努めるほか、雑誌・WEB・テレビなどメディアでも「等身大の目線」で発信をしている。2015年からお金の知識の啓発活動を始めた横川さんに、お金に興味を持ったきっかけや、特に若い世代に向けて発信する理由を聞いた。

■制度を使って暮らしが変わった経験
――横川さんがお金に興味を持った理由を教えてください。
【横川楓】まず母方の祖父が会計事務所を経営していたというのがひとつ。あと、小学生のときに両親が離婚して、家族3人で暮らしていたマンションから、祖父の家に引っ越したんですね。庭には池があって、犬を4匹飼っている大きな家で小学生時代を過ごしましたが、突然母が家計として独立することになり、すごくボロいアパートに引っ越すことになりました。

【横川楓】ドアの建て付けが悪くて、猫が勝手に入ってきたこともあるようなアパートで、中学生だった私は「え、こんなところに住むの?」と衝撃でした。でも高校生になると、近くにきれいな公営住宅が建ち、ひとり親世帯の支援制度を使って引っ越すことになりました。制度を使って引っ越しができたこと、お金のあるなしで住む家や暮らしが変わったことが、私のなかで大きな経験でした。

【横川楓】私は母からお金や制度の話を聞いていましたが、周りには大学生になっても確定申告や年金の学生納付特例、奨学金について知らない子も多くいました。知りたいと思って、制度を利用しようと国のサイトを見たり、お金に関する本を読んでもわかりづらいんですよね。そこで、お金に関する知識をわかりやすく伝えたい、それによって自分と同じように制度を利用して暮らしを変えられる人が増えるのではないか、と思うようになりました。

■若い世代にこそお金の知識を
――ご自身のミッションについてはどのように考えていますか。
【横川楓】お金のことをわかりやすく、そして今の世代にあった知識を届けることを意識しています。私が大学生ぐらいのときに読んだお金の本は、女性が専業主婦になってお金を管理して、家や車を買うことを前提とした本が多く出回っていました。そんな前提は、今の私たちの世代にはあいません。

【横川楓】NISAについて発信するときは、つみたて投資枠は年間120万円、1カ月で10万円を投資できますが、若い世代でお金をそれだけ投資に回せる人はなかなかいない。そういった視点を大切にしながら発信しています。

――特に若い世代や女性に焦点を当てている理由は?
【横川楓】女性に対して等身大で届けられるのは、やはり女性だと思うからです。また、大人になると否が応でもお金に関して知識を得なきゃいけない瞬間や、ライフイベントに直面してお金が必要になることがあります。一方で若い人はお金について知らない人が多いものの、資産運用は若いうちから始めたほうがいいし、早くから貯めたほうが貯金額も増えます。だから「若いころからやっておいたほうがいい」ということを、子どもも含めた若い世代に知ってほしいと思っています。

――お金の情報を発信していく上で、横川さんが大切にしていることがあれば教えてください。
【横川楓】やはり「等身大の目線」というのを一番大切にしています。あとは媒体のターゲットに合った情報を届けることも意識していますね。お金をどのぐらい持っているのか、どういった読者層なのかをしっかり考えています。

――たしかに必要なお金の知識や、お金の使い方は、本人の年齢や年収などでも変わりますね。
【横川楓】たとえば就活生向けの講義だと、企業年金がある会社に入るか入らないかでどう違うのか、といった話をします。就活のタイミングで年金について気にしている人は少ないと思いますが、一生に関わることかもしれません。知られていないけど、知っておいたほうがいいことが、実はたくさんあります。

――横川さんの今後の展望や野望を教えてください。
【横川楓】お金の知識や制度を、わかりやすく伝えるためのコンテンツ作りに力を入れたいです。国や金融機関、すでにあるお金のコンテンツは、お金のことを何も知らないという人からしたらハードルが高く難しいと感じるものも多いので、たとえば漫画などエンタメ要素を取り入れて、お金について自分から調べないような層にも届けていきたいです。また授業や講演では届けられる人数も限られているので、コメンテーターなどたくさんの人に知ってもらえる機会を増やして、より多くの人にお金の知識を発信できたらいいなと思っています。

この記事のひときわ#やくにたつ
・お金や制度の知識は生活に直結する
・世代によって必要は知識は変わる

取材=浅野祐介、撮影=樋口涼