職場の上司や同僚にイライラ...。リラックスしてコミュニケーションを取りたいと思っているのに、マイナスな感情に囚われてしまうのは何故なのでしょうか? 感情をコントロールし、イヤな気持ちを手放す方法を、精神科医の和田秀樹さんが紹介します。

※本稿は、和田秀樹著『感情的にならない本』(PHP文庫)より、一部を抜粋・編集したものです。


いつも「同じ人」に引っかかっていませんか?

感情的になりやすい人は、「またやってしまった」と思うことがしばしばあります。

たとえばA課長と部下のB君は、よくこんなパターンになります。

「A課長とはどうしても合わない。ふつうに受け答えしていても、かならずカチンと来るようなことばをぶつけられてしまう」だからB君は、名前を呼ばれただけで「さっさと話を済ませよう」と考えます。

「B君と向き合っているとだんだん苛立ってくる。あのノラリクラリのいい訳を聞いているうちに腹が立ってしまう」だからA課長は、問いただしたいことがあっても「今日は事務的に済ませよう」と考えます。

両者とも「感情的にならない」ように注意しているのですが、なかなかうまくいきません。

A課長には嫌味をたっぷりと浴びせられ、B君はムシャクシャした気分になります。B君がいつものいい逃れを繰り返すので、A課長は「もういい」とさっさと打ち切ってしまいます。両者とも、「なんでいつもこうなるんだ」とまた腹が立ってきます。

ほんとうに、「なんで」でしょう?

感情コントロールの下手な人は、いつも同じパターンを繰り返します。特定の相手とぶつかり合う、わかっていても感情的になってしまう、しかもそういう自分をコントロールできない、あとで後悔する、この繰り返しです。

こういうのは、失礼ないい方かもしれませんが「学習がない」ということにならないでしょうか。知識や情報、技術や経験といった世界では「学習がない」と気がつけば自分でも反省しますが、感情の世界ではどうも、同じ失敗を繰り返しても相手のせいにしてしまうことが多いような気がします。

「だって、悪いのは相手なんだから」という発想です。「あいつのせいで、いつも(自分は)イライラさせられる」といった、自分は被害者であるかのような気持ちになります。


押されれば、押し返そうとするのが「感情」

あなたがつい感情的になってしまう相手は、上司にも部下にも同僚にもいるでしょう。

その人たちはきっと、自分の優位性にこだわる性格だと思います。だからあなたに対して、強圧的だったり挑戦的だったりします。たとえ部下や後輩でも、自分のほうが仕事はできる、あなたに指図されたくないという気持ちがあります。

ただ、そのときあなたにも自分の優位性へのこだわりが生まれてしまいます。これは感情的にムリもないことです。相手が部下や後輩なら、「こんなやつになめられてどうするんだ」という気持ちになるのは当然のことです。

上司や先輩だとしても、強圧的にこられると「ちょっと待て」という気持ちになります。「自分だってずいぶん雑な仕事をしているじゃないか」といいたくなるのです。これも感情的には自然な流れです。

つまり、感情というのは押されれば押し返そうとします。相手が強く出てくれば、こちらも負けまいと強く出てしまいます。そこによほど力の差がないかぎり、どうしてもそうなります。

あるいは性格的に気弱な人は、相手が強く出れば引っ込んでしまうこともあります。でもその場合は、あとで不機嫌になります。自分が情けなく思えてくれば、自己嫌悪さえ抱くでしょう。これは最悪の感情です。

でも、あなたが少しも感情的にならず、ゆったりした気持ち、くつろいだ気分で向き合える相手もいますね。そういう人たちは決してあなたに強圧的になることはないし、かといってへりくだったり、卑屈になったりすることもありません。

そこから対人関係(感情関係)のコツを見つけることができるはずです。


「それもそうだね」とひと呼吸置いてみよう

あなたがリラックスしてつき合える人は、自分の考えを押しつけたりはしません。でも、なにもしゃべらないという意味ではありません。いろんな話をしてくれるし、ときには自分の意見もはっきり口にします。

それに対して、あなたはいつも賛成するわけではありません。ときには「わたしは違うと思うな」と反論することもあります。

そういうときでも、自分の意見に固執しないのがあなたをリラックスさせる人です。「それもそうだね」とか、「なるほどなあ」「そういう考え方もあるね」といった柔らかい受け止め方をします。

こういう態度はものすごく大事なことです。自分の意見はあくまで1つの見方。他人の意見もまた1つの見方。その場で決着をつける必要はありません。おたがいに「そういうこともいえるかなあ」と思うのでしたら、とりあえずウヤムヤなままに終わらせて困ることはありません。

自分の優位性にこだわる人は、このウヤムヤというのが苦手です。はっきり白黒の決着をつけたがります。もちろん黒(負け)はイヤですから白(勝ち)にこだわります。ここで押し合いが始まるのです。

ところが「それもそうだね」といわれると押し合いも引き合いも始まりません。いわれたほうは自分の意見をとりあえず聞いてもらえたので、ひとまず満足するからです。「でもまあ、この人のいってることもわかるんだ」と気持ちが穏やかになります。

「それもそうだね」というのは、どんな場面でも使えることばですね。嫌いな相手がなにをいおうが、たしかに「それもそうだね」です。でも、ときと場合によってはそんな理屈は認めるわけにいきませんから、「そんなことあるか」と反論しています。この反論がうまくいかない要因です。