阪神タイガースを38年ぶりの日本一に導いた岡田彰布。仕事にも人生にも効く岡田語録を収録した新著『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gkken)より名将・仰木彬監督との約束を一部抜粋、再構成してお届けする。

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仰木さんとの約束


08年みたいに、シーズンの後半になってきてチームが上にいればいるほど、劇的な勝ち方をすると、それはそれでまた不安にはなるんやけどな。9月に3試合連続サヨナラ勝ちというのがあったけど、自分ではずっとなんかおかしいなと感じてた。

それがまあ、監督として責任を取らなあかんと、ユニホームを脱ぐことにつながっていった。そこまでの29年間、プロでやってきて、選手で16年、コーチと監督で13年、ユニホームを脱がんかったのは、仰木さんとの約束よ。

オリックスの現役最後の年、95年かな。「がんばろう神戸」で優勝した。そのときはもう自分でも辞めようと思っていた。最後の2カ月くらいは、仰木さんに言われて、二軍に行った。

「試合で若いヤツを使いたい。二軍で若いヤツを見たってくれ。これからはコーチとして、力を貸してほしい」

と言われた。納得して二軍に行った。もう自分の調整ではなくて、コーチのようなことをした。仰木さんなりに、最後の花道を作ってくれたと思っている。仰木さんから声が掛からなかったら、指導者にはなっていなかった。


2005年、オープン戦で仰木監督と握手する岡田監督 写真/共同通信


やっぱりこの世界に入ったのは、最初はあこがれからやろね。今みたいにメジャーとか、そんなことは現実にはなかった時代やから。プロ野球というのが、野球をやっている以上は最高の、あこがれの世界やった。

阪神に入ったときは、目標を達成したなと感じたけど、次の瞬間には、大変なとこに入ったなというのが正直な気持ちやった。小さいころから野球やってて、ずっとレギュラーやったけど、阪神に入って、初めてレベルの違いを感じた。

でもこの道でしか生きていけない。ほかのことは何もできんしなあ。それからは毎年毎年の積み重ねやった。


ファンの力でヒット打てた? そんなんうそや


タイガースファン。その後押しいうのは、ものすごいもんがあると思うよ。だけど最近の選手は、簡単に言いすぎる。

「ファンのみなさんの応援で、その力でヒットが打てました。ファンの後押しで、ホームランが打てました」

そんなん、あるか? プロである以上、年々うまくなっていって、技術を見せる、そういう姿をファンに見せるというのは、当たり前のことよ。

おれなんか自分の前でホームランとか出たらファンが大騒ぎするから、自分の打席のときにうるそうてしゃあなかった。集中できんから、1球目は打たんかった。

ファンのためとか、そんなん考えへんよ。なんのためにプロ野球の試合をするのか。勝つためにやるだけや。プロ野球の試合の目的はただ1つ。勝つためよ。

シーズン中にゲームをやってて、来年のことなんか考えられへんよ。来年のことをやるんは、シーズンが終わってからのこと。1年1年が勝負よ。


プロ野球の世界では毎年選手・スタッフが変わり続ける 写真/shutterstock


このメンバー、このやり方で勝てるというのは、その年だけのこと。今年いけたから、来年もいけるというんは大間違い。同じ考え方でいったら、次の年はほとんど負けるやろ。

ユニホーム脱いだときには、ベンチの中にいるとき以上に、いろんなもんが見えた。ベンチにいると、そこから一方向しか見えんわな。ところがネット裏の記者席からは、両方のベンチを均等に見ることができる。ベンチにいると、相手のベンチだけを見て、どうしてくるかなあと、相手ばかり見てた。離れると五分五分で見られるよな。


前回と違って思い切ってチームを変えられた


「もう少しこうしたら勝てるのになあ」

そう思っても記者席からは、どないもできん。やっぱりユニホーム着てやるほうが、野球いうんは楽しいもんやな。

今回、改めて『オリの中の虎』を読むとやはり、一回目の監督のときは野村監督、星野監督の次という意識がものすごく見える。2003年に星野監督で優勝した。翌2004年からおれが監督として引き継いだチームは、ある意味完成されとった。


1985年の日本一の際は岡田監督は選手として貢献した 写真/shutterstock


ベテランが多かった。35歳を超える、最盛期の選手が中心やった。だから簡単には触りにくい。03年は三塁ベースコーチやった。選手の力量はよく分かっていた。

「伸びしろが少ない。今がピーク。しばらく簡単には勝てないぞ」という戦力が分かるから、きつかった。難しさともどかしさがあった。2010年からのオリックス監督時代は、ソフトバンクという絶対的な強さを持ったチームがいた。

今回の2023年。監督としてのスタートは、まったく違っていた。直前までは記者席でずっと、チームを見ていた。コロナもあって余計に、じっくりと試合を見て観察できた。

「もうちょっとこうしたらいいのになあ」という思いがあった。05年からずっと優勝していないということもある。本当の白紙からスタートできた。思い切ってチームを変えられる。自分がやりたいと感じていたことを、思い切りやれる。そうして日本一になった。

「ありがとうございます」とファンに対する感謝の気持ちも、自然に言葉となって出た。


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『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gkken)

岡田彰布

2024/3/14

1,540円

224ページ

ISBN: 978-4054069817

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もう「アレ」とは言わない。そら連覇を目指すよ。
38年ぶりの“アレのアレ”に導いた虎の名将が、
いまだから明かす「岡田の考え」。
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★おれのほんまの気持ち、書くわ
「優勝して出たのは涙より感謝の言葉」
「出来ることを普通にやる、出来ないことをしようとするな」
「作戦はブランコに乗って考えた」
「短所を直すよりも長所を伸ばしてやる」
「采配とは失敗したときに慌てず対応すること」
「言葉よりも行動で信頼を伝える」
「大切なのは“引き出し”をたくさん持つこと」