今年3月、『踊る大捜査線』プロジェクトの再始動が発表された。今秋公開の新作映画は柳葉敏郎主演のスピンオフ作品とのことだが、当然ながら織田裕二主演の劇場版第5弾への期待も高まっている。そこで劇場版第5弾の公開を願って、過去4作品を振り返りつつ、もし第5弾が公開されるとしたらどういった内容になるか、予想してみた!〈サムネイル/左:『踊る大捜査線 コンプリートDVD-BOX』(ポニーキャニオン、2005年11月25日発売)。右:『DVD 踊る大捜査線 1』(ポニーキャニオン、2000年12月20日発売)〉

興行収入173.5億円、日本の実写映画で堂々1位の『踊る大捜査線』

「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてんだ!」

織田裕二演じる刑事・青島俊作がこう叫んでから、早いもので四半世紀以上。『踊る大捜査線』が復活するとの一報にファンたちは色めき立った。

1997年に放送された連続ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)は、視聴率の全話平均が18.2%で、当時の水準で考えるとスマッシュヒット程度。

『踊る〜』が“化けた”のは劇場版になってからだった。

冒頭の名言を生んだ1998年の『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』は、興行収入101億円を記録。そして、2003年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は、興行収入173.5億円に。これは公開から20年以上経った現在も、日本の実写映画における堂々1位の記録である。

その後、2010年に『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』、2012年に『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』が公開されてシリーズは完結していた。

今回発表されたのは、青島の盟友・室井慎次(柳葉敏郎)を主人公にしたスピンオフ映画のみだが、ティザー映像の最後には≪THE ODORU LEGEND CONTINUES≫とのメッセージ。

『”踊るプロジェクト”映画最新作 <スーパーティザー映像>』。東宝MOVIEチャンネルより

となると、ファンたちが期待しているのは当然、織田演じる青島刑事が主人公の劇場版第5弾だろう。そこで第5弾公開を願って、まずは過去4作品を振り返っていきたい。

伝説的記録を打ち立てた『1』『2』、和久を失い新生した『3』『FINAL』

ドラマ版の『踊る〜』は、それまでの刑事ドラマの華だった“派手さ”をなくしたことが革新的だった。

従来の刑事ドラマはダイナミックなカーチェイスや、拳銃をドンパチ撃ち合う銃撃戦といった派手さが魅力。けれど『踊る〜』はそういった演出を極力排除し、警察をひとつの大企業のように置き換え、青島たち湾岸署(所轄)の刑事を末端の平社員のように描いていった。

小さな事件を必死で捜査したり、警視庁(本庁)の雑用を押し付けられたりする悲哀や奮闘を、リアルかつコミカルに見せていったのだ。

もちろん劇場版シリーズでもその持ち味を踏襲。

たとえば第1弾『THE MOVIE』の冒頭で、張り込みのようなことをしている青島。シリアスな演出のため、さも大事件の容疑者を追っているのかと思えば、ゴルフコンペに参加する警視庁副総監を送る運転手役を押し付けられていただけ。コントのようなオチを付けているわけだ。

ちなみに冒頭シーンで観客をミスリードしてコミカルに落とすという手法は、劇場版全4作に共通しており、第2弾以降の“お約束”のようになっていく。

実写邦画最大のヒットとなった『THE MOVIE 2』でも、『踊る〜』らしさが随所に光る。

序盤はコメディ要素多めに描きつつ、中盤から終盤にかけて徐々にシリアスさを増幅させ、いつの間にか一大スペクタクルになっているというグラデーションがお見事。こういった構成も4作品に共通する要素だが、『THE MOVIE 2』の出来栄えは、最高到達点にしてひとつの完成形だったように感じる。

そして『THE MOVIE 2』で忘れてはいけないのが、いかりや長介演じる和久平八郎のラストシーン。

ドラマ版で定年を迎え刑事ではなくなっていた和久だが、劇場版では退職者再雇用制度を利用した指導員として湾岸署に勤めており、実質、刑事のような行動を取っていた。

そんな和久が『THE MOVIE 2』の最後で指導員も辞め、青島と室井に警察の未来を託して去っていく。演者のいかりやが公開翌年の2004年に逝去したことを考えると、「頼むぞ、警察を。……なんてな」と笑顔を見せ、立ち去っていく後ろ姿は否応なしに涙腺を刺激されるのだ。

そこから空白の数年間を経て、『THE MOVIE 3』と『THE FINAL』の制作が発表されたときも、世間が沸き立っていたと記憶している。

とはいえ、大きな懸念点も……。そう、いかりや演じる和久がいないことだ。

しかし、その心配は杞憂に終わる。『THE MOVIE 3』から伊藤淳史演じる和久の甥っ子(和久伸次郎)が登場し、新人刑事として青島の部下となったのである。

叔父が刑事としての在り方をメモした「和久ノート」を形見として持っており、ことあるごとに内容を読み上げるため、出演していなくても要所要所で和久(=いかりや)の存在を感じられた。

そしてラストとなる『THE FINAL』は、テレビ版から描いてきたテーマをより深く、より濃く描いたような結末だった。

以下ネタバレになるが、本作では、『THE MOVIE 3』から登場していた小栗旬演じる警察のエリート官僚が黒幕だったことが明らかになる。腐敗した警察組織に憎悪し、復讐と改革を起こすために殺人・誘拐の犯罪計画を実行していたのだ。

後述するがこのエリート官僚の秘められた過去は凄惨だった。罪を犯してしまったものの、現行の警察組織を変えようとしている青島&室井と根っこの気持ちは同じだったのである。

劇場版第5弾予想――青島刑事と新人刑事のダブル主人公のバディもの!?

ここからは、織田裕二主演の最新劇場版が制作されることを願って、“第5弾が公開されるとしたらどういった内容になるか”を考察していきたい。

じつは『THE FINAL』公開1か月前の2012年8月に掲載されたインタビューで、当時44歳の織田はこんなことを語っていた。

「青島が和久さんぐらいの年齢になって、定年を迎えるころってどんな感じだろうと思っていたから、まさか今回で終わりだとは」

青島刑事の生年月日は織田本人とまったく一緒の設定なので現在56歳。仮に第5弾公開が数年後であれば、60歳近くになっている。公務員の定年は60歳から65歳まで段階的に引き上げられていくが、青島も定年が見えてきた年齢になるということだ。

12年前の織田のコメントや青島刑事の年齢を考えると、“青島の定年退職”がひとつの大きなテーマになるに違いない。

ドラマ版でいかりや演じる和久が青島に、現場で刑事としての信念や矜持を叩き込んでいったように、今度は青島が新人に刑事としての在り方を伝えていくというストーリーになるのではないだろうか。

湾岸署の新人刑事といえば、和久の甥っ子・和久伸次郎を思い浮かべるかもしれないが、現時点で彼は刑事歴10年以上の中堅になっているはずなので、まったく別の新キャラクターが登場する可能性がありそうだ。

もしかすると、青島演じる織田とその新人刑事を演じる俳優のダブル主演という形で、バディものの作品になるかもしれない。

青島は新人を立てるようにあえて一歩引こうとするも、やっぱりパッションを抑えきれずになんだかんだで現場の最前線で奮闘する。……そんな定年間近でも変わらぬ青島と大型新人のシナジーが描かれたら、往年のファンも胸熱だろう。

また、ユースケ・サンタマリア演じるキャリア組・真下正義は、『THE FINAL』時は湾岸署署長になっているが、その6年前の交渉課課長時代にある大きな失態を犯していた。小栗演じるエリート官僚の姪っ子が誘拐された事件で、上層部からの指示に従い犯人との交渉を打ち切ってしまい、その少女が殺害されるという最悪の結末を招いてしまっていたことが、『THE FINAL』終盤で明かされたのだ。

ふだんはナヨナヨしておちゃらけていることの多い真下だが、取り返しのつかないその悲劇に改めてきちんと向き合い、一皮むけて“漢”を見せてくれる姿を期待するファンは多いだろう。

最後に、深津絵里演じる刑事・恩田すみれの存在についても触れておきたい。

ファンの間では有名な話だが、『THE FINAL』の終盤ですみれの身体が一瞬透けている演出があり、そのシーン以後、彼女は登場していない。これは本広克行監督があえて、“恩田すみれ死亡”という解釈もできるようにしたという趣旨の発言をしており、生死が不明となっているのだ。

そのため、すみれは元気に刑事を続けているのか、それとも亡くなってしまっているのかというのもファンにとってはかなり気になるポイント。はたしてすみれは登場するのか……!?

――コミカルに警察組織や所轄刑事のリアルを描き、同時にとことんシリアスに問題提起をしてきた『踊る大捜査線』のリブート、楽しみで仕方ない。叶うなら、また織田演じる青島刑事の雄姿をスクリーンで拝みたいものだ。

文/堺屋大地