三浦璃来&木原龍一インタビュー 前編(全2回)

 2023−2024シーズンは前半をケガで欠場しながらも、3年連続で世界選手権の表彰台に立った「りくりゅう」こと、フィギュアスケートペアの三浦璃来と木原龍一。インタビュー前編では、世界選手権の話題を中心に、ペアとしての絆を深めた今季について語ってもらった。


東京都内でインタビューに応じた三浦璃来(右)と木原龍一(左)

【絆を再確認できたシーズン】

ーーケガで欠場したシーズン前半、そして四大陸選手権2位、世界選手権2位とすばらしい成績を収めたシーズン後半を振り返って、今季はどのようなシーズンとなりましたか?

木原龍一(以下、木原) すごく苦しいシーズンでした。ケガで練習もできませんでしたし、自分たちが出場したかった試合にも出られなかったので、とにかく耐えるシーズンだったかなと思います。

 でも、そのなかでもお互い支え合って進むことができた。昨季までは僕が(三浦)璃来ちゃんを引っ張る場面が多かったんですけど、今季は逆に助けてもらう場面が多かったので、お互いの絆を再確認できてよかったかなと思います。

三浦璃来(以下、三浦) ケガからのスタートで、龍一くんが言ってくれたように昨季までは私が引っ張られる立場だったのですが、今季は龍一くんがネガティブな発言をすることが多かったので、私がどうやって支えたら元のポジティブな龍一くんに戻るんだろうと考えました。私自身も精神的に成長ができたかなと思っています。

ーー木原選手はどんな部分でネガティブになっていたのでしょう?

三浦 練習自体はうまくいっているのに、ちょっとタイミングが合わなかったりすると「なんでタイミングが合わないんだろう......」という感じで。

木原 主に自分のジャンプで苦しんでいて。3カ月も滑れなかったので、ジャンプの感覚を戻すのにすごく苦労しました。ジャンプには自信を持っていたんですが、今シーズンは腰の怖さもありましたし、なかなか自分のタイミングを戻すことができなくて。

 どうしたらいいんだろうという思いを抱える日が多く、ネガティブになっていたのかな。ペア要素の不安よりは、自分のジャンプが跳べないという葛藤が大きかったと思います。

ーー三浦選手は木原選手を支える時に一番何を心がけていましたか?

三浦 言葉でのサポートを今まで私がたくさんしてもらったので、私も同じように「龍一くんはできるんだよ」と声かけをしていました。

ーーサポートを受けた木原選手はいかがでしたか?

木原 ネガティブになっている時は、そういう言葉がなかなか入ってこなかったりするんですけど、つらい時にサポートしてもらったことで立ち直るきっかけになりました。

【「いい練習」が今季の収穫】

ーー絆が深まったほかにも、今季成長できたと感じることはありましたか?

三浦 今年の四大陸選手権は準備不足で納得のいく演技ができなかったんですが、そこからどう修正したらいいかをすごく話し合って、四大陸から世界選手権までの間の6週間は本当にいい練習を積むことができました。その練習を続けていければ、結果を残せるようになるという自信をつけることができました。

ーー具体的に、いい練習とはどのような練習でしょうか?

木原 (「グランドスラム」を達成した)昨シーズンはすごくいいシーズンでしたが、練習中にミスが出てしまった時にお互い「なんでミスしたんだろう」と引きずって、練習の進みが悪くなってしまう場面が多かったんです。でも、今シーズンはミスを気にするのではなく、「じゃあどうやったらよくなるんだろう」と常にチームで話し合ってきたので、時間のロスが圧倒的に減って毎日進歩することができました。

「オリンピック前の練習のようだね」とコーチからも言っていただきましたし、いい練習の大切さというのをあらためて思い出せてよかったかなと思います。コーチから「もしふたりが万全な状態で、この6週間だけでなくシーズンを通してこういう練習ができたら、僕たちは絶対また元に戻るし、負けないよ」というお話もありましたし、僕たち自身もそれを感じました。

【今季できなかったことを全部取り戻す】

ーー来シーズンが楽しみですね。三浦選手は世界選手権フリー本番前の練習で肩を亜脱臼されたそうですが、どういう状況だったのでしょうか?

三浦 フリーの6分間練習で、スロー3回転ルッツを転倒した時に......。

木原 (着氷した瞬間に)オーバーローテーションしたんですよね。

三浦 で、うしろに手をついた時に肩が上がってしまって亜脱臼してしまいました。

ーー演技中はそれをまったく感じませんでした。

三浦 たぶん、アドレナリンと痛み止めを飲んでいたので乗り越えられたのかなと思います。

ーー三浦選手のケガは今どんな状態ですか?

三浦 亜脱臼だったので1度目の脱臼よりはひどくなくて、医師からは「安静にしていれば世界選手権前の状態に戻るよ」と言っていただいています。

木原 しっかりMRIを撮って最初に脱臼した時の状態と見比べたところ、予想していたよりは重症ではなかったので、しっかり外旋位固定をして6週間安静にしていればケガ以前の状態に必ず戻ると説明を受けました。

ーーちゃんと安静にしていますか?

三浦 はい、してます!

ーー早くよくなりますように。世界選手権のフリーの演技後、三浦選手の表情が印象的だったんですけどそれは痛みではなく純粋に悔しさで?

三浦 そうですね。6週間、本当にいい練習を積んできて、世界選手権でもフリーで逆転(優勝)する勢いでやっていたので、私のミスで点数がそこまで出なかったので葛藤していました。私がそこで跳んでいれば、と。

木原 僕は自分のジャンプを全部飛んでいたので、気にしていなかったんですけどね(笑)。出しきれるところは全部出しきったので、終わった瞬間は6週間よく頑張ったなあという気持ちでした。(三浦選手が)すごくいい練習をしているのをずっと見てきましたし、サルコウが抜けてしまうというのも、練習でもないものだったので。

 もちろん悔しい思いもありましたし、自分たちが求めていた完全な演技はできなかったんですが、やりきったなって思いが強かったです。なので、終わった直後から「よくやったよね」という話は......してたっけ?

三浦 (笑)。

木原 何を話したかは覚えていないんですけど(笑)、僕もちょっときつかったので。でも終わった直後は......あ、思い出しました! 終わった直後に「来シーズンはシーズンオフから絶対ケガをしないで、必ず今年できなかったものを取り戻そう」という話をしました。キス&クライに行くまでの間に(笑)。

ーーキス&クライに着く前にすでに来シーズンの話を?

木原 もうしていました(笑)。シーズンオフから生活を見直して、ケガをなくして、今年できなかったものを絶対に全部取り戻そうという話をしていました。

ーーその直後、まさか(木原選手の体調不良により)表彰式に出られないことになるとは。

木原 ご心配をおかけして、本当に申し訳ありません。運動で誘発されるぜんそくを発症したんじゃないかと、チームドクターからお話がありました。以前から試合後に咳が出る症状は何度かあって、過去にも一度過呼吸になってしまったことがあったんです。

 でも、今回は今までいちばん酷い症状で咳が止まらなくなってしまい、そこから過呼吸で呼吸困難になってしまったので、酸素マスクをつけていただいて。帰国して、しっかりと病院で検査したところ、スポーツ喘息というよりも普通の喘息になっていたので、もう少し早く気づけばよかったな、と。

 トレーニング不足からくるスタミナのなさが、呼吸の苦しさになっているのかなと自分が勘違いしていたので、今回病院でしっかり検査できて原因も判明しましたし、改善できるということだったのでよかったかなと思います。

ーーメダルセレモニーの時におっしゃっていた日本での"病院ツアー"はもう終わりましたか?

木原 まだ続いています。カナダに戻るぎりぎりまで病院のツアーは入っていますね。シーズンオフにしっかり治したい思いが強いので、今回治療の時間がしっかりとれたのでよかったなと思います。

【自分たちのイメージを変えていきたい】

ーーそして、フリーのプログラムを直前に2シーズン前の『Woman』に変更されましたね。

木原 今年はショートプログラムをシーズン途中で変更したので、どうしても2つのプログラムの滑り込みが足りない。それだったら滑り慣れている2シーズン前のフリーに戻して、滑り慣れてない分のショートにフォーカスしようかと。

三浦 うん。

ーー過去のプログラム再演するにあたり、昨シーズンのフリー(『Atlas: Two』)の方が振付けなどを思い出しやすいのではと思うんですけど、あえて2シーズン前のものにしたのはなぜですか?

三浦 昨シーズンのプログラムに戻す案も出ていましたが、コーチと話し合って、2年前の『Woman』のほうが私たちらしい滑りもできますし、ラストがアップテンポで終わるので、終わり方がすごく素敵だということで『Woman』に決まりました。

ーーたしかにあのラストは素敵ですよね。いろいろなことがあった世界選手権ですが、楽しかったことや学びになったことはありますか?

三浦 やはり先ほど話に出た四大陸選手権から世界選手権までの6週間の練習を、来シーズンのスタートから始めていけば、絶対結果もついてくるだろうというワクワク感が今はすごくあります。

木原 世界選手権は自分たちが自信を持って臨めた試合だったので、「自分たちの実力を見せるぞ」という楽しみはありました。やっぱり四大陸選手権の時はフリーをまだ2回しか通して練習できていない状態で、3回目が本番だったのでどうしても不安な思いが強かったんです。

 でも、世界選手権の時はリンクに立った時、自分たちには自信があるという思いを感じられました。自分たちが戻ってきたこと、自分たちの力をまた証明できると思えたので、ものすごく楽しかったなと思います。

ーー来季について計画していることなどがあれば教えてください。

木原 今はすべてが未定なのでどうなるかわかりませんが、今シーズンはプログラムを完成させることがほとんどできなかったので、来季に向けては今までと違うものをしっかりとつくり上げていきたいなと思います。技術的にトライしたいこともいろいろあるので、まずはケガをしっかり治したいですね。

ーー全然違うものというのはどんなものになりそうですか?

木原 自分たちのイメージを変えていきたいと考えています。今回、2シーズン前のフリーを滑ってみて、このオーダーが自分たちに合っていることが再確認できたので、オーダーは変更しないと思いますが、(演技面では)違うスパイスも必要かなと思っています。

後編<りくりゅうの関係性に変化? 木原龍一「だんだん尻に敷かれるように...」 三浦璃来「違う、違う(笑)」>を読む

【プロフィール】
三浦璃来&木原龍一 みうら・りく&きはら・りゅういち 
2001年兵庫県生まれで2015年にシングルからペア転向した三浦と、1992年愛知県生まれでソチ五輪、平昌五輪に出場した木原が2019年にペアを結成。2022−2023シーズンはグランプリファイナル、四大陸選手権、世界選手権で初優勝し、年間グランドスラムの偉業を達成。2023−2024シーズンは、3年連続で世界選手権の表彰台に上がる。カナダを拠点に活動中。木下グループ所属。

著者:山本夢子●取材・文 text by Yamamoto Yumeko