4月21日、ラ・リーガ第32節。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はヘタフェのホームに乗り込み、1−1と引き分けている。打ちひしがれるような内容でも、暗くなるような結果でもない。残り6試合で6位をキープ。(5、6位で)ヨーロッパリーグ(EL)出場権を得られる状況だ。

 ただし、今後はレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、さらに7位ベティスとの試合を残す。ラクな相手ではない。やはり"足踏み"と言えるだろう。

 ラ・レアルの久保建英は、そのチーム状況を象徴するように、停滞感のあるプレーになっている。

「この日のプレーは振るわず、おそらく疲労の蓄積によるものだろう。(筋肉系の)フィジカル面の小さな問題を抱え、ゴールライン奥深くまで侵入できたのは一度だけだった」(スペイン大手スポーツ紙『アス』)

 最悪の状態ではない。しかし、前半戦の華々しいまでの輝きは失っている。

「創造的なプレーだった。それほど多くは活躍しなかったが、ボールを呼び込み、ファウルを誘い、守りを崩した。(ウマル・)サディクへのアシストは、まさに"ゴールのパス"だったが......」(スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』)

 捉え方によって、ふたつの評価に分かれるプレーだった。


ヘタフェ戦に後半から出場した久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 好意的に見れば、久保は健闘していた。アルセン・ザハリャン、ミケル・メリーノとのパス交換でボールを運び、右サイドから決定的なクロスを折り返すシーンもあった。CKのキッカーとしても脅威を与えていた。

 なかでも、77分の崩しは真骨頂だった。スローインから左を駆け上がってボールを受けると、ふたりを完全に外した。その抜け目のなさ、一瞬の素早さ、高速で落ちない技術力、どれも出色だった。そして得意の左足で折り返したが、サディクのシュートは枠を捉えることができなかった。

 もしこのゴールが決まっていたら、久保は称賛されていたはずだが......。

 そんな久保を取り巻くチームの現状とは?

【負けてはいないがプレーレベルは?】

 2024年の年明けを、ラ・レアルは最高の状態で迎えている。チャンピオンズリーグ(CL)ではベスト16に進出していたし、スペイン国王杯でもいいスタートをきっていた。ラ・リーガで、CL圏内入りも夢ではなかった。

 ところが、エースである久保が日本代表の招集を受けてアジアカップで離脱後、チームは手詰まりになっていった。その直後、ラ・リーガでは5試合で1勝2敗2分け。日本代表がベスト8で敗退し、久保はスペインに戻ってきたが、疲れが出ているのは目に見えていた。

 2月14日、CLラウンド16でパリ・サンジェルマン(PSG)にファーストレグで2−0と敗れると、悪夢の1カ月が始まった。国王杯準決勝ではマジョルカに2戦合計で並び、PK戦の末に敗れ、タイトルには届かなかった。ラ・リーガでもビジャレアル、セビージャに敗北。CLは遠のき、EL狙いが精いっぱいになった。そして3月5日、PSG戦とのリターンマッチでも敗れ、欧州での夢がついえた。

 その後、チームは3勝2分けと奮闘。実は負けていない。しかし、プレーレベルは目に見えて下がった。

 久保は出場時間が限られ、体調不十分が影を落としている。明らかに足が重い。代表活動を含めた過密日程の影響を受けているのだ。

「久保がチームをけん引している」

 そう言われるほどの存在感を出していただけに、彼自身の苦境がそのままチームに投影されている、とも言える。

 一方で現地では、ここ1、2年で久保とアマリ・トラオレ以外の補強が不調なことへの不満が高まっている。

 左利きアタッカーのモハメド・アリ・ショはすでに戦力外で移籍し、ストライカー候補サディクは迫力満点だが、戦術や技術に難があってフィットしていない。レアル・マドリードで出番がなかった右サイドバックのアルバロ・オドリオソラは、周りから浮いている。ポルトガル代表FWアンドレ・シルバは「ミステリー」と言われるほど、正体が見えないまま。ロシアの天才アルセン・ザハリャンはキックの質が高いし、センスも感じさせるが、90分間を通して戦えない。

 アーセナルから来た左サイドバックのキーラン・ティアニーはスペインの水に慣れず、ケガもあって苦労している。シーズン途中で獲得したジェラルド・ベッカーはヘタフェ戦でアシストしたように、プレーひとつを切り取るとすばらしいが、波が激しい。左サイドバックのハビ・ガランは唯一、確実な戦力になっているが、これでは劣勢になるのも必然だ。

 4月26日のレアル・マドリード戦は、来季を占う試金石にもなる。

 久保にとっては、"古巣"との対決になる。ラ・リーガだけでなく、CL制覇も照準に捉えたレアル・マドリードを相手に、実力を見せつけられたら、新たな道も開ける。その価値は、ヘタフェやアルメリア戦で得点することの数倍のインパクトになる。現在もリバプールなどの触手が伸びていると言われるが、また周りは騒がしくなるだろう。

「これまで(感得就任から6年)指揮してきて、最高のシーズンだ」

 イマノル・アルグアシル監督が言うように、悪いシーズンではない。CLでベスト16に進み、国王杯でベスト4、ラ・リーガでも現在6位。ラ・レアルの戦力で、異なるコンペティションを同時に戦うのは至難の業である。EL出場権を得られたら、最高到達点と言ってもいい。

 レアル・マドリード戦での久保の戦いが注目される。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki