宮城県にある東北電力女川原発2号機は、今年9月頃の再稼働が予定されています。放射能漏れなど万が一の原子力災害に備え、周辺の自治体や住民は避難のための備えを進めていますが、課題も残されています。

避難方法は限られているのか

牡鹿半島の東の端、石巻市の寄磯浜です。

TBC

ここでアワビやホヤなどを生産・加工している遠藤仁志さん。女川原発で事故が起きれば、避難方法は限られていると話します。

遠藤仁志さん:
「逃げる際にはやっぱり船しかない。100%船です」

TBC

寄磯浜は原発から直線距離で2キロ余り。事故の際は、50キロ以上離れた大崎市へ避難することになっています。石巻市の避難計画では、住民は原則、自家用車、難しい場合は自治体のバスなどで避難することになっていますが。

遠藤仁志さん:
「誰もわざわざ原発に向かって走っていかないってば」

寄磯浜の住民の避難経路です。まず女川原発方面に向い、そこから一度半島を南下し、また北上するルートになっています。

TBC

車での避難は難しい

遠藤さんは、東北電力の安全対策に信頼を寄せていますが、「万が一が起きれば車での避難は難しい」と話します。

遠藤仁志さん:
「道路も狭いので、なかなか逃げると言ってもかえって事故のもとになる」

牡鹿半島で避難道路として想定されるのは、県道41号「女川牡鹿線」と県道2号「石巻鮎川線」、それに県道220号「コバルトライン」の3本だけです。

TBC

大槻聡記者:
「この辺りの道路は、急カーブが続いています」

TBC

震災後の整備で道幅が広がっているところも少なくありませんが、基本的には片側1車線の1本道が続きます。牡鹿と同じ半島部で起きた能登半島地震で道路の寸断が相次いだことからも、牡鹿半島でも地震による道路の寸断や車の渋滞は予想できます。

大槻聡記者:
「牡鹿半島を走る県道41号線では新しい避難道路の建設工事が進んでいます。この道路が出来れば、一部住民の避難経路は大きく短縮されます」

TBC

2027年度の完了を見込む石巻市の大谷川浜と小積浜を結ぶ避難道路の整備事業。寄磯浜などの住民は避難がしやすくなります。今、国や自治体によってほかにも避難道路やトンネルの整備事業が進んでいますが、中には迅速な避難が難しい住民もいます。

老人ホームが「施設全体をシェルター化」

牡鹿地域の特別養護老人ホーム「おしか清心苑」。介護が必要な高齢者60人が入居しています。

TBC

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「こちらが放射線量を測定するタブレットです。常にここで確認しています」

実はこの施設、原子力災害時に高齢者らが一時的に屋内退避できる「放射線防護施設」のひとつとなっています。

TBC

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「ここのスイッチひとつです。これを入りにすると5分くらいで陽圧化され…」

防護施設は放射線の侵入を防ぎます。施設の隣に設置された建物の中にある陽圧化装置と呼ばれる機械によって、浄化された空気を密閉された施設内に送り込みます。施設内の気圧を高く維持することで外部から放射能が入ることを防ぐ仕組みです。

TBC

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「部分的にではなく施設全体がシェルター化するので、どこにいても1週間は普通に生活できる」

備蓄倉庫も完備。自力避難が難しい入居者らは、まず施設で職員と一緒に最大1週間、屋内退避を行い、その間にヘリコプターなどで仙台市や岩沼市の高齢者施設へと避難することになっています。

清心苑は東日本大震災後、およそ6億円をかけて防護施設としての設備を整えました。

東日本大震災で陸の孤島化を経験

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「(東日本大震災の時は)近くの道路がダメだったので5日間は陸の孤島化した」

TBC

入居者の家族も迎えに来ることはできなかったと言います。

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「入居者、職員、地域の人を守るという安心安全の部分を考えるようになって、(まず施設に)留まってそれから避難する考え方に移行していった」

国が防護施設を全国で約300整備

TBC

福島第一原発事故の後、国は交付金を出してこの防護施設の整備を進め、現在、全国の原発周辺におよそ300の施設があります。女川と石巻でも整備中を含め12の防護施設があります。

ただ能登半島地震では、この防護施設も一部で揺れによる損傷や異常が出ました。

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「大丈夫だ、防護設備もあるし、それから避難だと考えている私にもすごくショックではあった」

TBC

今後も避難訓練やマニュアルの改訂は続けたいと言います。

おしか清心苑 鈴木静江施設長:
「みんなを守るためにはいろいろな選択肢が出てくる。やり過ぎはないと思うが(原子力災害は)未経験の部分があるので、本当に備えていかなければならないと思う」

TBC

避難に課題は残るなか、女川原発2号機を巡っては、安全対策工事の完了が7度延期したものの、再稼働が今年9月頃と決まりました。万全の対策はとっていても100%の安全がない以上、より確実な避難の態勢づくりを続けることが求められます。

再稼働は地域や住民の安全のうえに成り立つものです。おしか清心苑の鈴木施設長が備えについて「やり過ぎはない」と話しているように、避難について少しでも懸念点があるならばとことん対策を講じていくことが必要です。