【白井元調教師と学ぶ血統学「温故知新」】
 元JRA調教師の白井寿昭氏に指南役をお願いし、様々な角度から血統を考える連載も第111回を迎えた。これ以降の数回は特別編。当コラム愛読者から寄せられた質問に、白井氏が一つひとつ丁寧に答えていく。長い調教師生活で得た豊富な知識だけでなく、現在も尽きぬ競馬への情熱を感じ取れた貴重な内容。ゆえに本来は有料会員限定の当コラムの無料開放を決断した。ぜひ、この機会に競馬への見聞を広めていただきたい。

 進行は東スポ競馬・関西地区本紙担当であり、白井氏との親交も深い松浪大樹記者。今回も白井氏の本音を掘り起こす重要な役目を担っている。

スペシャルウィークに質問殺到!?

スペシャルウィークでダービー初制覇を成し遂げた武豊と白井調教師(左下)
スペシャルウィークでダービー初制覇を成し遂げた武豊と白井調教師(左下)

 松浪大樹(東京スポーツ記者=以下、松浪)前回の最後でも告知していましたが、これ以降の数回は特別編。読者の方による白井先生への質問コーナーですね。連載100回記念のプレゼント企画のときに合わせて募集したのですけど、これが結構な数で頂いておりまして…。

 白井寿昭氏(元JRA調教師=以下、白井)盛大に募集して、反応がなかったらどうしようか…と思ったけど(苦笑)。うれしいね。しっかりと答えていきたい。

 松浪 募集は9月だったのですが、なんだかんだとありまして、掲載は年末のこの時期となりました。競馬の盛り上がっているタイミングでもありますし、多くの方に読んでいただきたい内容でもありましたので、会社のほうとも相談し、この質問コーナーに限って、普段は有料会員様向けのコラムを無料放出にしたいと思います。このコラムを目的に有料会員になっていただいた方も多く、それに関して本当に申し訳なく思っているのですが…。

 白井 了解。そのあたりのことはオマカセするわ。でも、これが終わったら、元のパターンに戻すんやろ? 競馬ファンの裾野を広げる意味もあるし、理解してもらいたいところやね。

 松浪 そうですね。このコラムをきっかけにして、血統に興味を持つファンが一人でも増えてくれることを願いまして。では、始めていきましょうか。

 白井 わかった。で、最初はどんな質問?

 松浪 実はスペシャルウィーク関連の質問が多いんですよ。一つや二つじゃなくて。

 白井 へえ。どうしてなのかな? 他にも走った馬はおったけど。アグネスデジタルとかさ。

 松浪 見た目が良かった…ということもあるのでしょうし、武豊騎手が初めてダービーを勝った馬であることも大きい要素かもしれませんね。

 白井 ああ、ユタカね。それは絶対にあるわ(笑い)。

 松浪 他で考えられるのはウマ娘の効果でしょうか? スペシャルウィークは主役級の扱いを受けていましたし。

 白井 なるほど。それもありそうやね。理由がどうあれ、関心を持ってもらえるのはありがたいことやわ。

 松浪 ということで、スペシャルウィーク関連の質問から進めていきますね。最初の質問は「スペシャルウィークの好きな食べ物を教えてください。それから厩舎での様子も合わせて教えてください」。

 白井 それ、現役で活躍している馬に対しての質問みたいやな(笑い)。

 松浪 僕も思いました(笑い)。現役時代からでは四半世紀、この世から去って5年もの年月が経過している馬に対しての質問じゃないですよね。

 白井 まだ身近に感じてくれているファンがいる。それがわかる質問とも言えるね。本当にありがたい。

人間に対して信頼感があったスペシャルウィーク

 松浪 このような質問もありましたよ。「これはスペシャルウィークっぽいな…と思えるしぐさがあったら教えてください」

 白井 これも現役馬に聞くような質問やな(笑い)。しかし、スペシャルっぽいしぐさか。なんやろうなあ…。

 松浪 僕もあまり思い出せないんですよね。あの馬、目立った特徴とかはなかったのですか?

 白井 いや、そんなこともないと思うけど。そうやね。これが特徴といえるかはわからんけど、スペシャルはさ、サンデー(サイレンス)産駒でもうるさいところがなかったよ。そういう意味では他とちょっと違った馬やった。

 松浪 人の手がたっぷりとかけられて育った馬と聞きました。そして、それがサンデーサイレンス産駒でも、気性が激しくない馬となった理由であるとも。

 白井 そう。前にも言ったと思うけど、お母さん(キャンペンガール)が早くに亡くなって、スペシャルにはサラブレッドでない乳母を付けた。

 松浪 で、必然的に人間と接する機会が他の馬よりも多くなった。

 白井 うん。常に近いところに人がおって。それが普通のことやったから、人に対する信頼感みたいなもの。それをスペシャルは持っとったね。

 松浪 トレセンに来てからも変わらなかったんですよね?

 白井 変わらんかったねえ。これがサンデー産駒らしいな…と思うしぐさってあるやろ? 立ち上がったりとか、かみつきに来たりとか。そういうのが、あの馬には一切なかった。

 松浪 その性格、ダンスパートナーあたりとは正反対ですね(苦笑)。

 白井 どちらも同じ人間に担当させてたんやけどな(苦笑)。血統的なことを言えばさ。サンデーはもちろん、マルゼンスキーもうるさい馬やったから、これは気性の激しい馬になるやろうな…と思っとった。子馬のころからね。でも、そうはならんかった。育て方に理由があったとしか思えんね。

 松浪 人間でもそうですが、幼少期の接し方は本当に大事ですよね。

 白井 本当にそう思うね。性格が変わる。

スペシャルウィーク(生後1週間)
スペシャルウィーク(生後1週間)

 松浪 以前、スペシャルウィークの記事を書いときに、「過保護がダメと世間は言うけれど、たっぷりと愛情を注いで育てたほうが、馬も人も素直でまっすぐに育つ。当たり前のことと思うけど、それを教えてくれたのがスペシャルウィークだった」と先生は言っていました。印象的なひと言として、現在も強く記憶に残っているんですよ。

 白井 昔はひどかったからな。馬を蹴ったり、叩いたり…。でも、そんなことをしても、馬は言うことを聞いてくれへんよ。しっかりと手をかけて、大切に育てていかんと。そういう当たり前やけど、大事なこと。これを教えてくれた馬やった。スペシャルはそういう意味でも、特別な馬と言えるかもしれんね。

 松浪 乳母の存在も大きかったと聞きました。

 白井 それもあったと思うわ。スペシャルの乳母に付けたのは道産子みたいなヤツで、大きくてゆったりとしていた。ピリピリしたところがないわけさ。そういう面も大きかったと思うね。

 松浪 人のふり見て我がふり直せ…と言いますが、僕も教えられる部分があります(苦笑)。私生活にも反映させたいですね。ちなみに性格のほかには? 例えば、スペシャルウィーク特有の癖とか。

 白井 日常で目立つような癖はなかったけど、あえて言うのなら、調教をしているときでも、馬房の中でも同じところに立っていたな。

 松浪 それ、名馬と呼ばれる馬に多い特徴ですよね。自分のポジションが決まっていて、そこから動かない。

 白井 そう。よく聞く話やね。スペシャルもそういう雰囲気があった。

 松浪 最初の質問である好きな食べ物については?

 白井 食欲は旺盛な馬やったし、決まったものはなかったと思うね。青草とかは大好きでよく食べとったけども。

 松浪 暑さに弱い馬でしたよね? そこで食いが細くなるとかは?

 白井 全然食べないわけではないけど、食べが悪くなることはあった。京都新聞杯の前もそうやし、翌年の京都大賞典の前も。どちらも涼しい北海道に戻していたんやけど、それでも夏負けになったよ。

 松浪 京都大賞典の前のほうが、夏負けはひどかったんですよね?

 白井 そうやね。宝塚記念の前もそんなところが若干だけどあったし、その状態で競馬をしたこともあって、余計にひどくなった…という感じかな。

 松浪 5月の終わりと6月の最後まで引っ張るのでは、馬に蓄積するダメージが違うということでしょうね。暑さに弱い馬にとっては特に。

 白井 それはあると思う。京都大賞典は夏負けが尾を引き、調教もできなくて太めが残った。天皇賞までの厳しい日程でよく戻せたな…といまさらながらに思うね。

 松浪 文字数的に今回はここまでですが、次回の質問を告知しておきましょう。面白い内容ですから。「もし、スペシャルウィークが凱旋門賞に出走していたら、モンジューやエルコンドルパサーに勝てたでしょうか?」。この難しいクエスチョンに答えてもらいますか?

 白井 僕の中では答えが出とるけどね。でも、来週なんやな?

 松浪 はい、来週です。きっちりと引っ張りますので、よろしくお願いします(笑い)。

 白井 わかった。では、そのときまで答えは誰にも言わんでおくわ(笑い)。

☆白井寿昭(しらい・としあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。68年に上田武司厩舎の厩務員となり、78年にJRA調教師免許を取得。79年に開業した。95年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。98年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。

著者:松浪 大樹