ヤマト運輸ら4社が日本で初めて、水素を使う燃料電池大型トラックの走行実証を開始。充填時間のほか、6本の大型水素タンクがスペースを占めるなどの課題もあり、「そもそも使えるのか」から検証を行います。

25トン大型FCEVトラックを公開 物流4社が使いやすさを検証

 電動化に続き、水素を燃料とする物流のカーボンニュートラルへの挑戦が始まっています。アサヒグループジャパン、西濃運輸、NEXT Logistics、ヤマト運輸の物流4社は「日野プロフィア」をベースとする燃料電池大型トラック(大型FCEVトラック)を実際の業務に使って、水素燃料活用の可能性と実用性について検証を開始しました。日本初の実験のテーマはズバリ、“そもそも使えるのか”です。

 ヤマト運輸は2023年5月17日、同日夜から稼働するFCEV大型トラックを、東京都大田区にある国内屈指の物流拠点「羽田クロノゲート」で公開しました。同社はFCEV大型トラック1台を使って、羽田クロノゲートから群馬ベース(群馬県前橋市)までの往復約300kmを、週6日のペースで幹線輸送します。

 水素はクロノゲート周辺にあるステーションで毎日、充填します。この大型FCEVトラックの航続距離は約600km(都市間市街地混合モード)。万が一の場合に備えて輸送ルート周辺に水素ステーションがあることと、大きな渋滞に巻き込まれた場合でも充分な航続余力があることを見込んで、実証実験のコースが選定されました。

 ヤマト運輸は2050年までにCO2排出量ゼロ、その中間の目標で2030年までに48%減を掲げています。水素燃料を燃やしても水しか出さないFCEVはCO2の排出削減に役立ちます。同社グリーンイノベーション開発部の上野 公(いさお)シニアマネージャーは、実証実験の意義をこう語りました。

「(削減の)主はラストワンマイル領域の集配車の排出量削減だが、ここだけを取り組んでもカーボンニュートラルには行きつかない。(大型トラックを使った)幹線領域の脱炭素をどのように図るか。この実証実験で第一歩を踏み出すことができた」

 同社は実証実験の期間を明確には定めず、最短でも数か月間は続ける予定です。

「サステナブル経営を進める中で、環境に配慮したトラックは大前提だが、同じように重要になるのが、こうした車両が(業務に)本当に使えるか」(上野氏)

 また、西濃運輸も名古屋市でヤマト運輸と同じ大型FCEVトラックを公開。6月から東京支店(江東区)と神奈川県の支店を結ぶ実験を、FCEV1台を使って開始します。

水素タンクがドーンと6本! スペースどう確保

 トヨタと日野が共同開発した大型FCEVトラックは、車両総重量25t。開発段階からヤマト運輸をはじめとする物流事業者が関わっています。

「開発段階から関わらせてもらっているのは、非常にありがたい。物流運送業界に普及する上で重要なこと」(ヤマト運輸・上野氏)

 例えば、FCEVはディーゼル車と比較すると、同じ総重量でもディーゼル車より大きな燃料タンクが必要となるため、人や荷物を積むための容積や重量をいかに確保できるかが第一の課題です。この大型FCEVトラックの場合も、運転席のあるキャビンと荷室の間にディーゼル車にはない空間があります。車両開発に携わったトヨタの真鶴敦志主査は、こう説明します。

「大型高圧水素タンクをキャビンの後ろに積んでいる関係で荷室の長さが800mmほど短くなっています」

 大型FCEVトラックの水素タンクは合計6本。この800mmのすき間に2本。これとは別に床面に寝かせた形で4本が取り付けられています。重量は1本50kg。トヨタ「ミライ」のタンクが1本7kgなので、かなり大型です。

 それでも、この大型FCEVには充分な荷室が確保されました。ヤマト運輸の独自輸送規格であるロールボックスパレット(宅急便の個々の荷物をまとめて収納するボックス)では16本積むことができます。同社が使う幹線輸送のディーゼル車では16本積みと18本積みがありますが、積載量では遜色はありません。

 また、水素を大気中の酸素を反応させて発電する燃料電池スタックは、現行のミライのものを大型トラック向けに、出力や耐久性を高めて最適化しました。

EVとは違う、FCEVの長所とは 未来志向の「充填口2つ」

 大型トラックのCO2削減対応では、たとえばアメリカでテスラ社が「セミ」で、コンテナを牽引するトレーラーヘッドのEV化を実現しました。一方、日本ではFCEVによる対応が先行しました。FCEVの長所は何でしょうか。

「航続距離と積載量で、BEV(バッテリー式の電動車)に対して優位性があると考えています」(前同・真鶴氏)

 FCEVの運行では検証すべき課題があります。実証実験に使われる大型FCEVトラックには、水素の充填口が2口装備されました。充填口は1口が一般的です。これが実証実験の課題にもつながる点です。ヤマト運輸で輸送実務を担当する輸送オペレーションマネジメント部の堰向(せいむかい)直彦シニアマネージャーは、こう話します。

「ディーゼル車と比較して大型FCEVの運行管理上の違いは、充填に係る時間です。水素の充填には20〜30分程度とみていますが、実際の走行後にどれくらい必要なのか。ここが大きな実証が必要な部分です」

 堰向氏の話す充填時間は1口の充填口を使った場合に必要な時間です。2口の充填口を使った水素の補充は規格が定まっていないため、現状ではできませんが、あえて次世代規格に備えました。2つの充填口を活用できれば、充填時間はさらに短縮できます。

 しかし、モビリティのカーボンニュートラルは、車両メーカー、エネルギーインフラ事業者、ユーザーである事業者の3者が、需要をにらんでいわゆる三すくみ状態にあります。「今のところ、いつ新しい水素充填規格が決まるかは未定です」(資源エネルギー庁新エネルギーシステム課担当社)。せっかく実証へと踏み出したわけですから、新しい水素充填規格で実現性を高めてほしいものです。

 実証実験では、運転者の労働環境向上も注目されています。大型FCEVはエンジンの振動がなく静かなので、ドライバーの疲労軽減に役立つことが期待されています。また、荷物を満載した場合にも、EVと同じモーターの力強さがあるので、操縦性の高さもあります。コスト面から考えると市販化はまだ先ですが、実際の輸送での活用データが、さらに大型FCEVの性能向上に役立てられることはまちがいありません。