今年の1月から2月にかけてパリで開催された「レトロモビル」。48回目を迎えた今年は、シトロエンとプジョーが不参加だったが、それでもフランス車を愛する出展者は……。

欧州市場で絶好調のMG

今回、主催者が予告ポスターで謳っていたばかりか、会場でも大きな存在感を放っていた特集が「MGの100年」だった。この英国の名門スポーツカー・ブランドを2007年より傘下に置いているのが中国の上海汽車集団(SAIC)。フランス法人で広報を務めるクレモン・ルフェーブル氏は「かつてMGはフランスでもエモーショナルな車の代名詞だった」と語る。ブースには多数のオープン・モデルを含むヒストリック・カーが展示され、年末発売予定の新型EV『サイバースター』もあわせて置かれていた。

「MGの100年」ブース。半分に切られて展示された1965年MGB GT。“プアマンズ・アストン・マーティン”の異名を取り約12万5千台が造られた。

欧州市場で絶好調のMGは、昨年12月に隣国スペインでもSUV「ZS」が新車登録台数1位を記録。レトロモビルにおける存在感は、そんな欧州における躍進ぶりを象徴しているかのようであった。

出展料はクラブのメンバーで

その一方で今年、レトロモビルのファンを驚かせたのは、ステランティスが参加を見送ったことである。そこには、近年イタリアから出展してきたフィアットやアルファ・ロメオだけでなく、常連のシトロエン、プジョーももちろん含まれる。あるフランス人の来場者は、「中国資本のMGが参加しているのに、自国のブランドが不参加とは……」と落胆の色を隠さない。

そんな中、会場に居合わせた知人から、シトロエン系の4クラブが、別のパピリオンに自主出展していることを教えてもらった。メーカーの全面支援があった昨年までとは異なり、車両展示に最低必要な15平方メートルの出展料2500ユーロ(約39万円)は、クラブのメンバーたちで拠出しなければならなかったという。シトロエンの保管庫から、展示車両の提供があったのが唯一の救いだったようだ。

ルノーも先駆者精神を強調すべく、歴代の速度記録車を展示。加えて1933年に買収した航空機製造会社による単発機(複製)も。

夜間に入場ができる恒例のノクターンが行われた2月2日、シトロエン系クラブが集まるその一角を訪ねてみた。すると彼らは、テリーヌやパテを並べ、ワインで祝杯を上げていた。そこでは、同様に自主出展していたプジョーの愛好会メンバーも加わり、クルマ談義に大きく花を咲かせていたのだ。

今年で48回を迎えたレトロモビル。参加するブランドは変わっても、クルマを通して育まれた強固な友情は変わらない。それだけでもこの催しは、フランスの自動車文化の維持に貢献していることを実感した。

文・写真=大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

(ENGINE2024年4月号)