MotoGP第2戦ポルトガルGPではマーベリック・ビニャーレス(アプリリア)がスプリントレースで勝利。彼にとっては復活の兆しとなる嬉しい結果だっただろうが、一方でスプリントレースの扱いと勝利記録の問題も注目されることになった。

 2023年シーズンからMotoGPにはスプリントレースが導入され、レースウィークを盛り上げることが期待された。そして、通常の決勝レースの半分の距離で争われるスプリントは、導入時から統計上は“グランプリ勝利”とは別にカウントされるモノとされていた。

 それがある種の頭痛の種となるだろうことは、明らかだった。

 スプリントレースの記録がグランプリ勝利とは別にカウントされることから、ビニャーレスの勝利はあくまでもスプリントにおけるものとされる。つまり、ビニャーレスはMotoGPクラスが始まって以来初めての異なる3メーカー(スズキ、ヤマハ、アプリリア)における勝利という記録を達成したことにはならない。なお現在3メーカーでの勝利記録を達成する可能性があるのは、ビニャーレスとアレックス・リンス(現ヤマハ)、そしてジャック・ミラー(現KTM)の3人で、今後も同じような状況が起きる可能性はある。

 スプリントレースを巡る状況は、チャンピオンシップ関係者ですら、このイベントを“レース”と呼ぶことを躊躇していることが、さらに複雑なモノにしていると言える。

 そして多くのジャーナリストによると、スプリントレースがグランプリやチャンピオンシップ全体に大きな影響を与えない限り、レースウィークに書かれたコンテンツにおけるスプリントレースの割合は少ないというのが、全体としての見解だという。

 そうした中でビニャーレスが達成したスプリントレース勝利は、MotoGPのスプリントレースに対する扱いへ一石を投じ、周囲の見方へ変化を促すものになるかもしれない。

 実際、ライダーにとってスプリントレースと決勝レースにさほど違いはないとみることも可能だ。ビニャーレスはポルトガルGPのスプリントレースを制した後は、チームと共にまるで決勝レースの勝利かのように喜びを分かち合っていた。そして、少なくともビニャーレスはスプリントで勝つために決勝レース以上の努力を注いでいた。

「僕にとっては、(スプリントと決勝で)違いはない。なぜなら結局のところ僕たちは決勝レースよりもスプリントでよりハードにレースするからね」と、ビニャーレスは言う。

「これまで僕はスプリントでかなり苦戦してきたんだ。だからスプリントで勝てたのは、素晴らしいことだよ」

 ただ当然ながらライダーでも意見は別れている。昨年のイギリスGPとマレーシアGPのスプリントレースで勝利したアレックス・マルケス(グレシーニ)は、イギリスGPでのスプリント勝利について、次のように語っている。

「良いレースだったね。でもウエットコンディションでのスプリントレースだ。僕はその点に関して現実的だし、『僕がレースで勝った。僕がベストなんだ』とは言わないよ。まあ、特殊な状況だったと分かっているんだ」

■スプリントレースの勝利は“本当の”勝利なのか?

 スプリントレースでの勝利を、長い歴史をもつこれまでのグランプリにおける勝利と比較することは、気が引けるという向きもあるだろう。2009年のバルセロナでホルヘ・ロレンソを最後の最後で追い抜いて勝利したバレンティーノ・ロッシのあの象徴的なレースと比べれば、その半分の距離でベストを尽くしたとしてもそれには及ばない……そう考えても仕方がないのかもしれない。

 では、短い距離で決着がついた決勝レースではどうなのだろうか? わずか13周で赤旗中断となり決着した2023年の日本GPにおけるホルヘ・マルティンの勝利は、その2週間後に行なわれた短縮無しのレースでマルティンの転倒によって勝利したフランチェスコ・バニャイヤよりも、印象に残らないものだったろうか?

 そして、もっと危険なレースと比べたらどうだろうか? 現代のレースは1990年代よりももっと安全になっているし、1949年から1976年まで今も著名な“あの”マン島で行なわれていたイギリスGPでの優勝についてはどう捉えるのだろうか?

 結局のところ、何が本当のレースで、何がそうでないのかは統計が決めることだ。しかし、それはスプリントレースで勝つために費やされた努力を、裏切ることにもなる。

 同じようにスプリントレースを導入している、WSBKの例を挙げよう。今年3月に行なわれたバルセロナ戦スプリントレースでは、2009年のロッシ対ロレンソの再現かのように、トプラク・ラズガットリオグルがニッコロ・ブレガ(ドゥカティ)を最終コーナーでオーバーテイク……BMWに移籍後初となる、見事な勝利を飾った。この素晴らしい戦いは、WSBK史上におけるベストレースのひとつとして残っていくはずだ。

 WSBKは2019年にスプリントレース(第2レースのグリッドを決めるためスーパーポールレースと呼ばれる)を導入した。その際は、今のMotoGPと同じように、スーパーポールレースとフィーチャーレースの勝利は別々に数えられる予定だった。しかし、開幕後にそれは断念され、10周のスプリントレースも公式に記録されることになった。

 MotoGPも、レースが5周であれ50周であれ、それを受け入れる時が来たのかもしれない。ライダー達はそれらを同じように扱い、自らの力の全てを注ぎ込んでいるのだから。