バカ売れしすぎて、まったく入手できず、もはや実在するかどうかさえ巷で疑われている菓子「シャインマスカットボンボン」。菓子メーカーも供給できない状態のなか、メルカリでは定価の100倍で転売されるなど、大ヒット商品をめぐって激しい争奪戦が各地で繰り広げられている。近年、このマスカットボンボンのようなレア商品をめぐり、“転売ヤー”が暗躍しているが、今回は果たして――?
 

「賞味期限があるものは必ず価格が下がる」

「シャインマスカットボンボン? 俺らはそんなのやらないですよ」

こう話すのは、ふだんメルカリなどの転売で生計を立てている転売ヤーのA氏だ。

A氏をはじめとする転売ヤーはポケモンカードやレアスニーカー、高級ブランドの限定商品など、なかなか手に入りにくい商品を大量購入し転売することで利益を得ている。だが、今回のシャインマスカット騒動は「眼中にない」という。

「そちらの記事がSNSで拡散されて、ネットでは『どうせ値をあげてるのは転売ヤーの仕業だろ』ってアンチコメントがずいぶんとあがっていますが、俺たち本業(プロ)はまず食品には手を出さないことが多いですね。

俺らみたいに転売を生業にしている人間は、大量に購入して事務所や倉庫に保管する。けど食品は賞味期限があるからすぐに売らなきゃいけないので、在庫として抱えるリスクが高いわけ。その点、スニーカーとかレアカードとかって何十年も寝かせておけるでしょ」

ある程度の期間抱えておけないモノは売れなかったときに不良在庫となり、利益どころか損失を生むためプロは手を出さないというのだ。A氏は続ける。

「賞味期限があると必ずその直前で価格が下がります。それにメルカリを見てもらうとわかりますけど、全部売れているわけではない。高値で売れたものは目につくので話題になりますけど、実際にちゃんと計算してみると薄利なパターンもあるんです」

さらにシャインマスカットボンボンは「費用対効果が悪い」とA氏は話す。

「これって関東のファミマ限定発売で、特にそれ以上の情報がない。そうすると足を使って一店舗ずつ回らなくてはいけない。そのためにバイトを何十人も雇い、時間とお金と体力をかけてやるんです。それをやっても集まる量なんてたかがしれてますよ。転売って楽して稼ぐものですから。扱う“商材”として成立してないんです」

では実際にメルカリでシャインマスカットボンボンを出品している転売ヤーは一体何者なのか。A氏はこう見ている。

「コロナ禍で増えた学生や会社員などに多い“副業転売ヤー”でしょう。要はプレミアがつく商品をチェックし、購入できれば利益が出ると甘く考えている人たちです。そもそも転売って買って売ることですから、売れないと意味がありません。でも、こういった安直な副業転売ヤーは着実に増え続けている」

「安易な気持ちで購入するには本当にリスクが高い」

副業転売ヤーが増え続けている背景には、転売ヤーたちが「情報を売る」オンラインサロンなどを立ち上げたことも一つの要因だ。別の転売ヤーのB氏は「副業転売ヤーは俺たちにとって“いいお客さん“ですね」と話す。

「俺たち転売ヤーって常に『何かで利益が出ないかな?』って考えているんです。それで自分が持っている情報が金になると考える人も多くて、数年前からXやラインチャットなどで複数の転売サロンが立ち上がりました。

サロンでは月額会員から数千円ほどいただいて、何が儲かるか、その情報を売っています。さらに自分のサロン生が購入したプレミア商品を、サロン限定の高額価格で買い取り、それを二次転売することもある。

例えば、サロン生が買ったスニーカーを1足7万円で買い取り大量に集め、上乗せして海外に売りさばく、これはルートをもっている本業の転売ヤーしかできませんからね」

Xでは「初心者大歓迎」などと言葉巧みに、転売に関するオンラインサロンやブログに誘導するアカウントが多数見つかる。

「コロナ禍以降、社会に不安を生まれたことから、本業以外の収入源を求めるようになった人たちが転売に目をつけ、ブームに火が付いた。シャインマスカットボンボンは、悪質サロンにのせられた副業転売ヤーが買い漁って、メルカリなどに出品している可能性が高いですね」

このB氏もまた「食品は転売にむかない」と断言する。さらに、今回のブームはこれまでになかった“危険性”があるという

「メルカリには食品を出品する際には、箱や袋から出した個包装食品でも消費期限と食品表示などを確認できる状態での発送がルールとされています。しかし、シャインマスカットボンボンの出品をみてみると、1粒単位で売っているものもあり、安易な気持ちで購入するには本当にリスクが高い。

確かにこれだけ話題になっている商品を食べてみたいという気持ちはわかりますが、再販される可能性もあるので、それを待つのでもよいのではないでしょうか」(B氏)

プロ転売ヤーも副業転売ヤーも“他人のふんどし”で大金を儲けているのにはかわりはない。だが、転売ヤーにまで敬遠される高額グミに、はたしてどれだけの価値があるのだろうか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班