4月11日、第88回マスターズ・トーナメントが米ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開幕する。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

開催を待ち焦がれた選手たち

 昨年7月に全英オープンが開催されて以来この9カ月間は、メジャー大会が行なわれない「メジャーレス」の期間だった。多くのゴルフファンは、シーズン最初のメジャー大会であるマスターズを心待ちにしていたことだろう。

 いや、一番待ち焦がれていたのは、オーガスタ・ナショナルの土を踏む選手たちに違いない。リブゴルフが創設されてからというもの、世界のゴルフ界は対立と喧噪が続き、いまなお分断された状態にある。

 そんな中、PGAツアーやDPワールドツアーの選手たちも、世界各国から選び抜かれた選手たちも、そして人数は13名と限定されてはいるもののリブゴルフへ移籍した選手たちも、「従来の出場資格を満たす選手はどのツアーの選手であってもウエルカム」と両手を広げているマスターズは、世界のベストプレーヤーが久しぶりに一堂に会する戦いの場となる。

 今年の大会は近年稀に見るほど優勝予想が難しく、大混戦が予想されている。誰が勝ってもおかしくない混沌とした状況を換言すれば、激しい熱戦が予想される大会ということになる。エキサイティングな戦いの幕はもうすぐ上がる。

松山英樹にとって13回目のマスターズ

 世界中のゴルフメディアが優勝予想に四苦八苦している一方で、出場選手たちはマスターズを迎えるまでの備え方に試行錯誤を繰り返してきた。

 マスターズで優勝したことがある過去のチャンピオンとて、いかに効果的・効率的に毎年のマスターズに備えるかは「永遠のテーマ」だという。2021年大会の覇者の松山英樹 もそれは同じである。

 2010年のアジア・アマチュア選手権(現アジア・パシフィック・アマチュア 選手権)で優勝し、2011年のマスターズに初出場して、見事、ローアマチュアに輝いたあのときが、松山のマスターズ挑戦記の始まりだった。同年のアジア・アマも連覇を果たした松山は、2012年もアマチュアとしてマスターズに出場。プロ転向後は、優勝に近づいては離れた悔しい経験を何度か味わった末、ついに勝利を掴んだのが2021年大会だった。

 今年は松山にとって13回目のマスターズとなる。2021年大会で優勝した際は初めて前週の大会にも出場し、2連戦となる形でオーガスタ入りして勝利を掴んだため、以後はその連戦スタイルを維持している。今年も前週のバレロ・テキサス・オープンに出場。逆転優勝の可能性を感じながら最終日を戦い、7位タイで終えたばかりだ。

 だが、松山は、その連戦のスタイルを「最高」「絶対」とは思っていない様子だ。調子を上げ、意気を上げ、心技体をアップした状態でマスターズに臨める感はあるものの、連戦すると「疲れてしまう」と苦笑。とりあえずゲン担ぎのような形で優勝した年のスタイルを維持してはいるものの、ベストな調整の仕方をいまなお模索している。

戦い方は天候によって左右される

 天気予報によると、今年の4日間は初日の木曜日に一時的に雨が降る可能性があるが、それ以外は好天に恵まれるとのこと。

 降雨でグリーンが少しでも柔らかくなれば、オーガスタでの戦いは激しいバーディー合戦と化し、スコアは「20アンダーぐらいまで伸びる」(松山)。逆に快晴続きとなれば、グリーンは干上がって日に日に固く速く難しくなり、全体的にスコアを伸ばしにくい我慢くらべの戦いとなる。

 松山は「どちらも好き」と言いつつも、自分が勝利できる可能性は超難セッティングとなる後者のほうが高いだろうと踏んでいる。しかし、過去の優勝者である松山をもってしても、多くのことは手探り状態。それがマスターズならではの難しさと言えそうだ。

マキロイは優勝できるのか?

 ラスベガスのブックメーカーによる4月8日付けのオッズを見ると、優勝候補の筆頭は世界ランキング1位のスコッティ・シェフラー で、他選手より若干抜きん出ている感がある。2番手はジョン・ラーム とロリー・マキロイ 、その後ろにはザンダー・シャウフェレ 、ジョーダン・スピース 、ホアキン・ニーマン 、そして松山らが続いている。ただし、2番手以降はオッズにあまり差がなく、いわば「ドングリの背くらべ」状態だ。

 世界ランキングというアングルから眺めてみると、1位の王座にいるスコッティ・シェフラーは、2022の年マスターズ優勝者。彼は3月のアーノルド・パーマー招待とプレーヤーズ選手権で連続優勝、続くヒューストン・オープンも2位タイと絶好調だ。そんなシェフラーが優勝候補の筆頭に上がるのは自然な流れではある。

 しかし、それでもシェフラーは、かつての王者タイガー・ウッズのように圧倒的な強さまでは誇っておらず、だからこそ世界ランキング2位以下の勝利も予想されている。

 世界ランキング2位のロリー・マキロイはすでにメジャー4勝を挙げているが、マスターズだけはいまなお勝てないでいる。2011年、優勝まであと一歩まで迫りながら、最終日のバックナインで大崩れした苦い経験がトラウマとなっている様子だ。

 今年、マスターズを制することができれば、キャリア・グランドスラムも達成される。マスターズ出場は今年が16回目、キャリア・グランドスラム達成に挑むのは今回が10回目。果たしてマキロイの悲願は叶うのか。そこに人々の興味が集まっている。

優勝予想は難しい

 世界ランキング3位のジョン・ラームは、昨年のマスターズ覇者。彼は昨年12月にリブゴルフへ移籍したため、今週はPGAツアーの「旧友たち」と移籍以来はじめて顔を合わせ、ともに戦うことになる。

 4月上旬にリモート会見に臨んだラームは、リブゴルフに移籍してからオーガスタ・ナショナルに戻ってプレーしたことは、今月のはじめまで「一度もなかった」と明かした。だが、「昨年の優勝以来、マスターズ・ウィークに初めてオーガスタを訪れる形にはしたくなかった」という。そのワケは「チャンピオンズ・ロッカールームに行き、自分の名前が付けられたチャンピオン専用ロッカーを見ると、とても興奮してしまいそうだからだ」という。

 マスターズ・チャンピオンになったことを「とても特別なこと」と受け止め、オーガスタ・ナショナルとマスターズにリスペクトを払う姿勢は、PGAツアー選手もリブゴルフ選手も同じだ。

 世界ランキング4位のウィンダム・クラークは、昨年の全米オープン覇者。今年はAT&Tペブルビーチ・プロアマを制し、通算3勝を挙げている。そんなクラークにとって今年がマスターズ初出場であることは、きわめて意外な事実だ。

 そして世界ランキング5位のザンダー・シャウフェレは、ツアー選手権を含む通算7勝の強者。しかし、メジャー大会は未勝利で、マスターズ優勝は彼の悲願でもある。

 それぞれの選手が、それぞれに強い想いを抱いて臨む今年のマスターズ。データや戦績、ランキングから眺めてみても、誰が勝つのかはまったく予想ができないほど混沌としている。だが、サンデー・アフタヌーンが暮れいくとき、グリーン・ジャケットを羽織るのはたった1人だ。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部