4月30日時点で世界ランキングトップ50以内にいるリブゴルフ勢は6名。だが、彼らのランキングも今後は下がり続けることになり、このまま行けば、リブゴルフ選手の全員が世界ランキングでトップ50圏外へ押し出され、ランキングによる資格では誰一人、メジャー大会に出られなくなる日が到来することになる。しかし、マスターズの好成績を受け、SNSではリブゴルフ勢への“同情票”も増えてきているという。

リブゴルフの上位ランカーにはメジャー出場権を与えるべき!?

 4月のマスターズを終えたゴルフ界は、5月の全米プロ、6月の全米オープン、7月の全英オープンと続く本格的なメジャーシーズンを迎えようとしている。

リブゴルフ第5戦シンガポールでチーム優勝したテーラー・グーチ要するレンジゴーツGC 写真:Getty Images
リブゴルフ第5戦シンガポールでチーム優勝したテーラー・グーチ要するレンジゴーツGC 写真:Getty Images

 だが、リブゴルフという新たなツアーが存在している今年は、メジャー大会を語るとき、必ずリブゴルフが話題になる。

 今年、メジャー4大会はいずれもリブゴルフ選手たちの出場を「リブゴルフの選手だから」という理由で拒絶したり制限したりは、していない。

 とはいえ、それぞれの大会の出場資格には、世界ランキングに基づく条件が設定されており、どこのツアーの選手であっても、マスターズと全英オープンはトップ50以内、全米オープンはトップ60以内に位置していることが求められる。全米プロはトップ100以内の選手が出揃うことが慣例化している。

 新興ツアーであるリブゴルフには世界ランキングのポイント付与がいまなお認められていないため、リブゴルフ選手たちの世界ランキングは下降の一途だ。

 4月30日時点でトップ50以内にいるのは、キャメロン・スミス(8位)、ホアキン・ニーマン(26位)、エイブラハム・アンサー(38位)、ブルックス・ケプカ(39位)、パトリック・リード(46位)、トーマス・ピーターズ(49位)の6名。

 だが、彼らのランキングも今後は下がり続けることになり、このまま行けば、リブゴルフ選手の全員が世界ランキングでトップ50圏外へ押し出され、ランキングによる資格では誰一人、メジャー大会に出られなくなる日が到来することになる。

 リブゴルフは昨年7月、世界ランキングをつかさどるOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)に対し、「リブゴルフを世界ランキングの対象ツアーと認定してほしい」と願い出たのだが、OWGRからは「審査中」「検討中」という以外に何の返答も得られてはいない。

 そんな中、リブゴルフへ移籍したメジャーチャンピオンのバッバ・ワトソンやフィル・ミケルソンらは、独自の持論を主張し始めている。

「リブゴルフのランキング上位にいる一定数の選手は、メジャー大会に出場できるという新たな規定を作るべきだ」とワトソンが提案すれば、それを受けてミケルソンも「その通りだ。僕もそう思う。リブゴルフのトップ5とか、トップ10とか、あるいはリブゴルフの各大会の優勝者とかを、メジャー大会の新たな出場資格として追加するべきだ」。

 リブゴルフ選手のこうした主張を耳にしたとき、昨年まで、いや今年の春ごろまでだったら、「大金に目がくらみ、PGAツアーやメジャー大会に出られなくなることを覚悟の上でリブゴルフへ移ったくせに、いまさら身勝手なことを言うべきではない」といった批判の声が噴出していたはずである。しかし、今年のマスターズでリブゴルフ選手のケプカとミケルソンが2位になり、トップ6のうちの3名がリブゴルフ選手という「好結果」を生んだことが、リブゴルフに対する世間の見方を少々変えつつある様子だ。

「メジャー大会を世界のベストプレーヤーが集うベストなフィールドにしたいのなら、メジャー大会はリブゴルフ選手を出場させるべきだ」と胸を張りながら訴えかけるワトソンやミケルソンの主張に対して、SNSでは「そうかもね」「そうだよね」といった肯定的な反応が増え始めている。

世界ランキングがじりじりと下がり追い詰められるリブ勢

 ところで、今年あるいは来年のメジャー大会への出場資格とリブゴルフとの関係を語るとき、テーラー・グーチという31歳の米国人選手のケースが、しばしば言及されている。

 グーチは2021年11月にPGAツアーのRSMクラシックを制して初優勝を挙げ、22年も5月末までは上位フィニッシュを重ねたため、昨年6月にリブゴルフへ移籍した時点では、彼はフェデックスカップ・ランキング10位につけていた。

 移籍後はPGAツアーから資格停止処分を科されたため、以後は1試合も出場できなかった。だが、それでもシーズン最終戦のツアー選手権開幕前の段階ではフェデックスカップ・ランキング20位に位置し、上位30名に限定されるツアー選手権への出場資格を満たしていた。しかし、グーチは資格停止中ゆえ、実際にはツアー選手権には出場できなかった。

 今年のマスターズ出場資格の中には、従来通り、「前年のツアー選手権の出場資格を満たし、出場した選手」という項目があり、実際にはツアー選手権に出場できなかったグーチは、この項目によるマスターズ出場が叶わなかった(注/グーチは最終的には世界ランキング上位50位以内の資格でマスターズに出場した)。

 そうした経緯を傍目にしたオーガスタナショナルは、24年のマスターズ出場資格の当該項目を「前年のツアー選手権の出場資格を満たした選手」へ変更。実際にツアー選手権に出場したかどうかは問わない形に変えた。これは、グーチと同様のケースが再度起こった場合に、その選手がマスターズに出場できるように配慮した変更と考えることができる。

 ところが、今年の全米オープンの出場資格には、今年のマスターズ出場資格と同様、「前年のツアー選手権の出場資格を満たし、出場した選手」という項目が残されたままになっている。

 グーチはリブゴルフの今季第4戦となったオーストラリア戦で勝利し、400万ドル(約5億4528万円)の優勝賞金を手に入れたが、彼の世界ランキングは58位から59位へ下降。続くシンガポール戦でも勝利を挙げ、2週間で800万ドル、約10億円超を稼いだが、世界ランキングは59位から60位へ、さらに下降した。

 全米オープンに出るためには、5月23日の締め切り時点で世界ランキングのトップ60位以内に踏みとどまる必要があり、グーチは再びメジャー大会に出場できるか否かの瀬戸際に立たされている。

 すでに世界ランキングのトップ60圏外になっているリブゴルフ選手の中には、全米オープンの地区予選にエントリーしている選手もいる様子だが、グーチは地区予選にはエントリーすらしておらず、エントリーはすでに締め切られている。

「僕の選択肢は、世界ランキングのトップ60以内に残るか、あるいはUSGAが全米オープン出場資格の項目を変更し、前年のツアー選手権に『出場した選手』という部分を削除・変更してくれるか、どちらかしかない」

 全米オープン開催まで2カ月を切っている現段階でUSGAが出場資格を変更するとは考えにくい。

 そして、グーチが5月23日時点で世界ランキング60位以内を維持するための唯一のチャンスは、来たる全米プロに出場して上位入りして、世界ランキングのポイントを稼ぐという道だ。

 だが、全米プロに世界ランキングのトップ100以内が出揃うのはあくまで“結果的に”であり、トップ100位以内にいること自体が出場条件というわけではない。

 となると、「前年のツアー選手権出場」以外にグーチが満たせる可能性がある出場資格は、PGAツアーにおける一定期間の獲得賞金に基づく「PGAチャンピオンシップ・ポイント・ランキングでトップ70以内」という項目しかないのだが、グーチは現在190位。

 要するに、グーチが全米プロに出場できる可能性は限りなく低い状況だ。

「僕は、全米プロに招待された」

第4戦アデレードでも個人優勝していたテーラー・グーチ 写真:Getty Images
第4戦アデレードでも個人優勝していたテーラー・グーチ 写真:Getty Images

 先週4月26日(米国時間)の夜。グーチがツイッターで発信したこんなツイートが米ゴルフ界を驚かせた。

「僕は、全米プロに招待された」

 真偽のほどは、いまなお不明。全米プロを主催するPGA・オブ・アメリカからも、グーチ本人からも、以後、何の説明も発せられていない。ちなみに、全米プロの出場選手は、現在は未確定、未発表の状況にある。

「招待」という意味では、今年から新設されたインターナショナル・フェデレーション・ランキングのトップ3の選手が「招待」されることが決まっており、日本の比嘉一貴は、その1人だ。

 しかし、それ以外に招待出場がオファーされるという話は、これまでは出ておらず、そんな稀有な招待が本当にリブゴルフ選手のグーチに授けられ、しかも全米オープン出場可否の瀬戸際にいるグーチに対して、世界ランキングのトップ60を死守するための助け舟を出す形で全米プロへ招待出場させるのだとしたら、それはそれで大きな物議を醸すこと必至である。

 とはいえ、招待されてもいないのに、グーチが自ら「招待された」とツイートしたのだとすれば、「何のために?」「なぜ?」という謎が残る。

 全米プロ出場選手の最終リストが発表されるのは5月10日(米国時間)。それまでにコトは動くのかどうか。当面、グーチは「話題の人」であり続けそうな気配だ。

文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

舩越園子(ゴルフジャーナリスト)