大谷選手の通訳が解雇、自身の「ギャンブル依存症」を告白

大リーグで活躍するドジャース・大谷翔平選手の通訳である水原一平氏が、2024年3月20日(水)、ドジャースから解雇されました。違法なギャンブルに手を染めていたと見られ、多額の使い込み等が発覚したことが連日報道されています。説明の中で、水原氏は「自分はギャンブル依存症」と告白したそうです。

私は元アルコール依存症を患った者で、現在は心理カウンセラーをしています。この記事は、依存症について、広く知っていただきたいこと、そして依存症に苦しむ本人や家族の方々への応援メッセージになればとの思いから執筆しました。決して、特定の人を悪者にすることや誹謗中傷が目的ではありません。そして、大谷選手のますますの応援を心から願っております。(※2024年3月22日の段階で発表されているニュースに基づき執筆)

ギャンブル依存症とは?診断基準は?

 ギャンブル依存症とは「パチンコや公営競技のような賭け事にのめり込むことにより日常生活に支障が生じ、治療を必要とする状態」(出典:一般財団法人・ギャンブル依存症予防回復支援センター)を言います。診断のポイントは次の2点です。

・日常生活に支障が生じるかどうか
・のめり込むかどうか

この2点は、他の依存症においても見分ける際の分岐点となります。

 まず、「日常生活への支障の有無」についてです。例えば、酒を飲んで記憶をなくしたり暴れたりする。タバコであれば、かたときもタバコが手放せない状態などは、支障が生じていると言えます。

 今回の報道から推察すると、億単位の負債を抱えたこと、さらに仕事を失ったと報道されています。さらに、大谷選手の口座を利用していることなどを考えるのならば、支障に該当するのではないでしょうか。

 米国精神医学学会が作成したDSM5では、次の9項目を診断の基準としています。

1.ギャンブルでの負けを取り戻そうとする(負け追い)
2.より強い興奮を味わおうとする
3.イライラや憂鬱感をギャンブルで解消する
4.ギャンブルをしていると落ち着く
5.ギャンブルに関することが頭を離れない
6.ギャンブルを上手に加減できない
7.ギャンブルについての嘘をつく
8.大切な人間関係の危機を招いている
9.ギャンブルを原因とする借金がある

 この9つのうち4つ以上当てはまる場合、ギャンブル依存症と診断されます。なお、病気かどうかの診断は、あくまでも医師の範疇です。私が軽々に断定することではありません。思い当たる方は専門の病院等の受診をおすすめします。

多くは幼少期に要因

依存症の要因「機能不全家族」とは?

 依存症の診断基準に 「のめり込む」とありました。例えば、パチンコや競馬が大好きであっても、「今日はここまで」と切り上げることができれば「のめり込む」状態ではありません。ところが、依存症の場合、好きなだけお金を賭け、セーブすることができなくなります。まさに、のめり込む状態。他の言い方をすれば 「ギャブルに飲み込まれた状態」です。

 では、のめり込ませる要因はなんでしょう? 一般的に依存症者の場合、幼少期の育った家族に要因があると言われます。依存症者のほとんどは、機能不全家族に育ちます。機能不全家族とは、保護する側(特に親)がその機能を果たしていない家族のことで、大きく次の3つです。

A 虐待・ネグレクト・行き過ぎた躾(躾が厳しい場合、子どもから見れば拷問にもなります)
B 超過保護・超過干渉
C 親が子どもに過度に期待をかける(ヤングケアラーも含まれます。結果的に親の期待に応えることになるからです)

このA〜Cの3つですが、厳密に分類できないケースが多いです。例えば、父親が暴力を振るう(Aに該当)が母親は子どもを溺愛(B)するパターン。期待し過ぎた結果、行き過ぎた躾となるケース。この反対に過保護になるケースなどもあります。ただ、子どもが親をどのように捉えるのか、この観点から捉えると、概ね3つのタイプの見分けが可能です。

a.虐待を受けた子どもは親を「毒親」と捉え、嫌います。基本的に「他者不信」のため、他者との接触を避ける傾向があります。

b.超過保護に育つ場合、さらに次の2つに分かれます。
(1)ハリボテの自信過剰、ただし内心は小心者。失敗した経験が無いため 「自分はできる」と思い込んでいます。しかし、実際は経験が少ないためオドオド、ビクビク状態です。この場合、親を何でもしてくれる 「召使い」と捉えます。そして、ビクビクがばれないよう外面は良い人でいようとします。しかし、外での失敗を親や妻に転嫁するため、家庭内暴力(DV)を振るいます。
(2)怖がりで誰かがそばにいないと何もできない小心者。幼少期から常に親がそばにいてくれるため、一人になると「怖いよ。誰かそばにいて」となります。この場合、親は見守ってくれる 「永遠の保護者」となります。そして(1)と同様、何もできない点は同じです。

c.親の期待を背負う子どもは、何かと自分を責め自分が悪いとなります。そして、自分さえ我慢すればいいとも。基本的に親は好きですが、時々「重たい存在」と捉えます。期待に応えようと何でもソツなくこなすのですが、自信がなく、自己犠牲もいとわないタイプです。

 通訳の水原氏は、どのタイプになるのでしょう?情報が少ないので明言は避けますが、もし、負債を 「誰かが肩代わりしてくれれば、それでOK」と思っていたのならば、その過信や甘えはbの(1)の特徴となるでしょう。そして、このタイプの場合、外では 「良い人・できる人」を演じます。内心のビクビクを悟られないようにするためです。

 なお、親がインナーチャイルド(幼少期の家庭環境にてトラウマとなった負の感情)を抱える場合、その子どももインナーチャイルドとなりがちです。これは遺伝ではなく、インナーチャイルドで育った場合、結局似た育て方しかできないからです。そして、インナーチャイルドを抱える状態が、病的に悪化すると各種の依存症(ギャンブル・アルコール・薬物など)や愛着障害などのメンタルの病として発症します。

依存症者に共通する特徴

依存症者に共通の特徴はある?

 ギャンブル依存・アルコール依存・薬物依存など、表面的に表れる症状は異なります。しかし、内面で考えた場合、共通項を見出すことができます。それは、

(1)周囲の視線を過剰に気にすること
(2)心地良さではなく、「正しさ」が判断の基準であること
(3)愛情不足を何かで補うこと
この3点です。

(1)周囲の視線を気にする

 周囲の視線を気にするのは、幼少期に親から自分がどのように見られているのか、評価されているのか、この基準で生活しているからです。結果的に周囲の視線を過度に気にするようになります。一般的には「周囲の顔色をうかがう」と言います。しかし、実際には「自分がどう見られるのか」です。そして、周囲に合わせようとするため、自分軸ではなくなってしまいます。

(2)正しさを優先する

 厳密には「正しいことをする」ではなく、「間違ったことをしてはいけない」です。なぜかというと、幼少期に間違ったことをすると親から注意されたからです。そして、正誤の判断基準を外部に置きます。自分では判断できずに、常に周囲に情報やアドバイスを求めます。間違えてはいけない感覚が強くなると「自分の心地よさ」が影を潜めます。そして、心地よさが分からなくなってしまいます。自分の気持ちがわからない状態です。気持ちにフタをすると言ってもいいでしょう。コロナ禍の際 「自粛警察」が流行りました。これなども「間違ったことをする者はダメなヤツ」という発想が根底にあります。

(3)愛情を何かで満たす

 幼少期に親から与えられるはずの愛情が満たされないことから、心の中にモヤモヤを抱えたまま大人になります。何かしら空洞を抱えた感じです。この空虚感を満たすための行為、これが依存に走らせます。そして、「心地よさ」の加減がわかりません。そのため「もっと欲しい、もっと寄越して」となります。しかし、自分軸ではないため、良い感覚の頃合いがわからないのです。

 本来、この空虚感は自分で満たすべきものです。「自分探し」が上手くいく人と上手くいかない人の違いにも通じます。他人の軸で生きている限り、満たされることはありません。そして、依存症は進行性の悪化する病です。愛情を求める行為が、気が付くとどうにもならない状況に陥ってしまいます。依存症者の内面の特徴についてお伝えしました。根っこの部分では、どの依存症者もほぼ同じなんですね。ということは、回復への道のりもある程度は共通の方法が取られるということが分かります。

まとめ

 メンタルの病はどれも「早期発見・早期治療」が大事です。これは依存症も同じです。ただ、依存症は「否認の病」とも呼ばれます。本人が依存症と認めたがらないことが治療の遅れを招きます。ただ、アルコール依存症の場合、健康診断等で発見することは可能です。また、酒や薬物の場合、心身に異変が起きるので自覚症状が生じます。

 この点、ギャンブル依存の場合、本人も認めないまま、ズルズルと病が進行(悪化)しがちで、気づくと巨額の負債を抱えているケースが多いです。

 薬物をはじめ、依存症は再発しやすい病です。そもそも回復率も低いです。しかし、冒頭でも述べた通り、私は元アルコール依存症者です。しかし、今年(2024年)で断酒歴25年を迎えます。後半では、“依存症から回復するためにどうすれば良いのか?”本人や家族ができることを解説します。

※記事の一部を修正しました。(2024年03月22日 19:54)

(佐藤城人(さとう・しろと))