東京テクニカ本社ビル(東京都中央区)

東陽テクニカ<8151>がM&A攻勢を強めている。2008年から2022年まではわずか2件だったが、2023年に入ってからは4件のM&Aを続けざまに実施した。今期で終了する中期経営計画「TY2024」では「M&Aによる事業拡大」を打ち出しており、アクセルを踏み込んだようだ。

買収には消極的だった

同社の売上高は2023年9月期まで4期連続で増加している。次世代電池関連などカーボンニュートラル関連の研究開発投資に伴う計測装置需要に加えて、情報通信でのセキュリティーやクラウドサービスが牽引(けんいん)した。製品では電気自動車(EV)充電評価システムや、全固体・燃料電池向けバッテリー評価装置の販売が好調だ。研究開発部門向けに納入している製品が多いため、最先端の計測装置の開発を急ぐ必要がある。

東陽テクニカは買収による事業拡大には積極的ではなかった。リーマン・ショック以降で昨年までに公表した2件のM&Aは、いずれも売却案件だ。1件目は2009年2月に米国子会社のパシフィック・ナノテクノロジー・インク(カリフォルニア州。売上高3億1900万円、純資産7300万円)の原子間力顕微鏡(AFM)事業を、米国アジレント・テクノロジーズ・インク(カリフォルニア州)に譲渡した案件。

パシフィック・ナノテクノロジーは、東陽テクニカグループの一員としてAFMを製造・販売してきた。AFM事業の譲渡と引き換えに同製品の供給を受けることにより、ナノテクノロジー分野での商品バリエーションを広げる。譲渡価額は約8980万円。

2件目は連結子会社で畜産酪農機器類販売のトーチク(茨城県取手市。売上高2億5300万円、純資産500万円)の全株式を、同6月に同社大口取引先の北海道乳機(北海道遠軽町)の代表取締役鈴木政光氏に譲渡した案件。トーチクは畜産酪農機器販売を手がけていたが、東陽テクニカはエレクトロニクス関連計測機器販売に集中するため同事業を譲渡した。譲渡価額は1000万円。

怒涛のM&Aラッシュ始まる

これら2社の売却以降、およそ14年間にわたって東陽テクニカはM&Aを実施して来なかった。潮目が変わったのは、2022年9月期からスタートした「TY2024」。ここでM&Aが事業戦略の五本柱の一つと位置づけられたのだ。すると、2023年3月にJSR傘下で医療ソフトウエア開発のレキシー(東京都豊島区)の全株式を取得して完全子会社化した。

東陽テクニカは人工関節置換術など整形外科領域で術前計画を2D(2次元)でシミュレーションするソフトを輸入販売していたが、3D(3次元)シミュレーションは手つかず。そこで同ソフトの実績があるレキシーを傘下に取り込み、幅広いニーズに応じられる体制を整えた。取得価額は非公表。

同11月にはダイナモメーター(動力計)開発・製造のスウェーデンRototest International AB(売上高6億5100万円、営業利益1億5100万円、純資産6億1100万円)の全株式を取得し、完全子会社化した。東陽テクニカは2016年から販売代理店としてRototest製品に自社のレーダーシミュレーターなどを組み合わせて「ドライビング&モーションテストシステム」として展開してきた。

子会社として傘下に取り込むことで、自動車業界向けの試験・計測事業を拡大する。取得価額は14億5710万円。ダイナモメーターはエンジンやモーターの動力性能や燃費、耐久性などを評価する計測設備。Rototestは簡単に据え付けられ、持ち運びもできるハブ結合式シャシダイナモメーターシステムを手がけており、米国のほか中国や欧州でも豊富な販売実績を持つという。

今年はすでに2件の買収が決定

2024年は、すでに2件のM&Aが決まっている。1月1日にEMC(電磁両立性)試験受託サービスなどを手がけるトーキンEMCエンジニアリング(川崎市。売上高7億2400万円、営業利益6100万円、純資産4億4400万円)の全株式を取得し、完全子会社化した。主力事業の一つであるEMC分野で、電波無響室など両社施設の有効運用、多様なEMC(電子機器が放出する電気的ノイズが他の機器へ影響を与えないことや、外部からのノイズにより電子機器の正常動作が妨害されないことを評価する)試験ニーズへの対応、新たなサービス開発などにつなげる。取得価額は4億6000万円。

3月29日には流体制御装置の開発・製造などを手がけるエル・テール(兵庫県川西市。売上高5億1900万円、営業利益9680万円、純資産2億5800万円)の全株式を取得して完全子会社化する予定。取得価額は3億3000万円。東陽テクニカは水素関連事業として、燃料電池や水電解の電気化学反応の計測・解析ソリューションを展開している。協力会社として燃料電池評価システムの装置製造に携わってきたエル・テールとの間で、知的財産やノウハウを共有して水素関連事業の拡大を目指す。

4件の買収案件のうち、Rototestとエル・テールは、すでに取り引きがあり互いの事情を理解し合っている企業だ。それだけに「買収はしたものの、期待と実態が全く違った」というミスマッチが起こりにくい。PMI(経営統合プロセス)もスムーズに運ぶだろう。買収金額も3億円台から最高でも15億円未満となっている。

今後の同社のM&Aだが、同社の主力事業のうち、通信の品質や安全、快適な運用をサポートする「情報通信」、洋上から海底までの測定ソリューションを提供する「海洋・特機」、ソフトウェア開発支援や品質・生産性向上を支援する「ソフトウエア開発」、測定技術をサイバーセキュリティサービスに活用する「情報セキュリティ―」などの分野が手つかずだ。東陽テクニカは、こうした分野でのM&Aを進めていくことになるだろう。

東陽テクニカの沿革

出来事
1953年 工作機械の輸入販売を主業務とする光和通商株式会社(英文名 Kowa Trading Co., Ltd.)を設立、設立早々にキーザリング社(ドイツ・製鋼二次加工機械メーカー)などと総代理店契約を締結
1955年 イギリスのイー・エム・アイ・ファクトリーズ社と総代理店契約を締結して電子計測器分野に進出、東陽通商株式会社に商号変更
1967年 「エレショップ」(現在の技術各部に発展)を新設
1970年 大阪出張所を支店に昇格、厚生コマーシャル株式会社(保険代理業、厚生施設管理)を設立
1973年 名古屋営業所設置
1984年 株式会社東陽テクニカに商号変更
1985年 電子技術センターを開設、東京証券取引所第二部に上場
1990年 株式を東京証券取引所第一部に指定替え
1998年 本社、電子技術センター、エレクトロニクス事業部営業本部を中央区八重洲に移転統合
2004年 中央区日本橋本石町の旧本社跡地に東陽テクニカテクノロジーインターフェースセンター竣工
2007年 電子技術センター内にキャリブレーションラボラトリー開設
2010年 中国上海市に販売拠点として東揚精測系統(上海)有限公司(現連結子会社)を設立
2014年 東揚精測系統(上海)有限公司の北京分公司設立
2015年 米国カリフォルニア州にTOYOTech LLC設立
2016年 社内カンパニーとして「セキュリティ&ラボカンパニー」を設立、慶應義塾大学理工学部と産学連携室「ナノイメージングセンター」を開設
2017年 テクニカルリサーチラボを開設、社内カンパニーとして「ワン・テクノロジーズ・カンパニー」を設立
2019年 葛西サービスセンターを開設
2022年 株式を東京証券取引所の「プライム市場」へ移行
2023年 R&Dセンターを開設

文:M&A Online