ロート製薬のスキンケア商品

目薬やスキンケア商品を手がけるロート製薬<4527>は2024年6月に、シンガポールの漢方薬製造販売会社のユーヤンサンを子会社化する。

ユーヤンサンの株式を取得する特別目的会社を三井物産<8031>と共同で設立したうえで、ユーヤンサンの株式を100%取得した場合、特別目的会社の株式の約60%をロート製薬が、約30%を三井物産が、約10%をユーヤンサンの創業家がそれぞれ保有する。

取引価格は約880億円(約8億シンガポールドル)で、このうちロート製薬の出資分は500億円強となる。

この金額は2024年3月期に売上高2720億円、当期利益300億円を予想するロート製薬にとっては決して小さくはない。

一方、売上高327億300万円、当期利益20億5700万円(2023年6月期、1シンガポールドル=110円で換算)のユーヤンサンがグループに加わることで、事業規模が大きく拡大することになる。ロート製薬はどのような戦略を描いているのだろうか。

のれんが発生、業績への影響を精査

ユーヤンサンは、シンガポールをはじめ香港やマレーシアなどで170店以上の漢方薬店と、30カ所の漢方薬クリニックを運営しており、同業界では東南アジア最大規模を持つ。

発表資料によると業績は好調に推移しており、2023年6月期は15.7%の増収、25.5%の当期増益で、前年の2022年6月期に引き続き2期連増の増収増益となっている。また純資産も増加しており、2023年6月期は164億8900万円だった。

ロート製薬では、ユーヤンサンの子会社化によって、のれん(ユーヤンサンの純資産と買収価格の差額)が発生するとしており、その金額や業績に与える影響については精査中で、子会社化完了後に公表するという。

ユーヤンサンの業績と純資産の推移

コア事業の一般用医薬品と食品の拡充が必須

ロート製薬は事業の拡大を目指す「事業領域ビジョン2030」を策定しており、同ビジョン実現のためには、売上高の65%を占めるスキンケア事業だけでなく、一般用医薬品や食品などのコア事業の拡充が必須と判断。さらに、地域別売上高ではアジアが全体の30%を占めており、同地域では今後も成長が続くとの見通しを持つ。

ユーヤンサンはアジアで強いブランド力と販売力を持っており、一般用医薬品やアジア地域の増強という目的に合致するため、子会社化に踏み切った。

今後はユーヤンサンの製品力と、ロート製薬の研究技術開発力や販売力を連携し「革新的なビジネスにつなげ、前例のない健康事業の実現を目指す」としている。

2020年代では4社目のM&A

ロート製薬は1988年に米国のメンソレータムを買収したあと、2002年にエムジーファーマを買収し、2007年には目黒化工(現・クオリテックファーマ)を子会社化し事業を拡大してきた。

その後も買収を続け、2015年に摩耶堂製薬を、2016年に南アフリカのAJ Northと、ブラジルのOPHTHALMOSを子会社化。

さらに2020年代に入ってからも、2020年に日本点眼薬研究所を、2021年にオリンパスRMS(現・インターステム)と天藤製薬を、2022年にベトナムの化粧品メーカーナリス・コスメティックス・ベトナムを相次いで子会社化した。

ユーヤンサンはこれに続くもので、同社が発表している沿革と適時開示情報では、2020年代では5社目のM&Aとなる。

また、経営権を取得しない資本提携についても積極的で、2024年3月に医療のDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)化を進める順天堂大学発のスタートアップ InnoJin(東京都文京区)や、韓国の治療用アプリ開発企業のS-Alpha Therapeutics, Inc.(ソウル)、ヘルステックベンチャーのFiNC Technologies(東京都千代田区)に出資した。

いずれも「事業領域ビジョン2030」実現に向けての取り組みの一環で、状況が急変しない限りこうしたM&Aや資本提携は今後も続くことになりそうだ。

ロート製薬の沿革と主なM&A

文:M&A Online