M&A相談、成約とも11年連続で最多更新 伸びは鈍化傾向に

中小企業基盤整備機構(中小機構)は5月30日、47都道府県(48カ所)にある「事業承継・引継ぎ支援センター」の2022年度実績を公表した。第三者承継(M&A)の相談者数、成約件数とも11年連続で過去最多を更新。ただ、成約件数の伸び幅は2年連続で200件に届かず、後継者の確保だけではないM&Aのメリットをどう打ち出すかが問われている。

2022年度の相談者数は前年度比7%、1520者増の2万2361者。新型コロナウイルスの影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー・原材料価格の高騰や急速な円安が進んだ中、事業承継の支援ニーズが高まったとみられる。2011年度のセンター開設以来の累計相談者数は10万者の大台を超える10万3393者に達した。

センター相談者数の推移
令和4年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について(中小機構)より引用
センター成約件数の推移(第三者承継)
令和4年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について(中小機構)より引用

後継者人材バンク登録は累計6962者

創業希望者と後継者不在の中小企業を引き合わせるため、全てのセンターに設置されている後継者人材バンクの登録者数は1345者(前年度比23件減)で、成約件数は48件(同5件減)といずれも前年度並み。累計登録者数は6962者で、うち235者が成約に至っている。

2021年度からセンター事業として実施している事業承継診断件数も、前年度並みの21万4716件(同4%減)だった。一方、親族内承継を中心とする事業承継計画策定支援件数は1270件、承継時の経営者保証解除件数は3222件で、ともに前年度より20%%余り増えた。

事業承継型M&Aから成長戦略型M&Aへ

こうした中、2016年度から5年連続で前年度実績に200件台を上乗せしてきた成約件数は、2021年度に135件、2022年度も167件にとどまった。コロナ禍で企業活動全般が停滞した特殊事情があったものの、2023年版中小企業白書・小規模企業白書には企業の後継者不在率がそもそも減少傾向にあると記されている。

中小機構は「今後も事業承継の促進に注力する」としているが、成約件数の推移を見ればセンターの活動は岐路に立たされていると考えていることもできる。

これまでのように後継者の円満なマッチングに焦点を当てるだけではなく、物価高騰などで厳しさを増す経済情勢を乗り切る手段としてM&Aの有効性を自らアピールしていく必要もあるだろう。

政府・自民党は「成長志向M&Aの促進」を重視

ポストコロナの経済活性化を目指す政府・自民党は「成長志向M&Aの促進」を軸とした政策展開を強化する考えで、戦略的なM&Aの活用による企業の参入・退出の円滑化や中小企業の規模拡大を支援する。センターの活動も企業の新陳代謝を活発化させるM&Aの意義を広く発信し、生産性向上を望む承継ニーズをいかに掘り起こせるかが期待される。

文:M&A Online