写真はイメージです(東京・大手町のビジネス街)

上場企業の海外M&Aが好調に推移中だ。2024年第1四半期(1〜3月)の件数は60件(適時開示ベース)で、前年を6件上回った。前年の海外M&Aはアフターコロナの到来を追い風に、年間216件と2016年(207件)以来7年ぶりに200件台に乗せたが、今年も増勢を保っている。

インバウンドが高止まり傾向

上場企業に義務付けられた適時開示情報をもとにM&A Onlineが集計したところ、1〜3月のM&A総件数は前年比40件増の315件で、国内、海外の案件がそろって件数を伸ばした。

内訳をみると、日本企業同士の国内M&Aが255件(前年221件)、外国企業を取引相手とする海外M&Aが60件(同54件)だった。

海外M&Aは日本企業が買い手のアウトバウンド取引と、外国企業が買い手のインバウンド取引に区分される。

1〜3月の全60件のうち、アウトバウンドは38件(前年30件)、インバウンドは22件(同24件)。アウトバウンドが2割以上増え、日本企業の買収意欲の旺盛さを示す一方、コロナ禍をきっかけに増加したインバウンドは高止まり傾向にある。

※2024年は1〜3月、適時開示ベース

海外M&Aは外国との行き来が困難になったコロナ禍初年の2020年に153件と25%近く落ち込み、内容的にもインバウンド比率が急上昇した。日本企業が海外事業の選別にアクセルを踏み込んだ結果、外国企業への売却が増えたうえ、海外投資ファンドと連携したMBO(経営陣による買収)案件が広がったことが理由だ。

インバウンド比率は2021年、2022年と2年連続で40%を超え、コロナ前の2019年22%からほぼ倍増し、アウトバウンドと拮抗しつつあったが、2023年は32%に低下した。

足元の2024年1〜3月のインバウンド比率は36%。日本企業の海外M&Aでは過去、アウトバウンドが70%以上を占め、インバウンドを圧倒していた姿には程遠いのが実情だ。

米国関連で“異変”も

1〜3月の海外M&Aの全60件を国・地域別にみると、米国関連が15件でトップ。ルネサスエレクトロニクスはプリント基板設計ソフトウエア企業のアルティウムを約8900億円、積水ハウスは戸建住宅メーカーのMDCホールディングスを約7300億円で買収するメガ案件を発表した。

ただ、内容をみると、日本企業が買い手のアウトバウンドが7件に対し、米国企業が買い手のインバウンドが8件と半数以上を占める“異変”が起きた。8件のうち、4件が米投資ファンドなどが主導するMBOを含むTOB(株式公開買い付け)案件だった。

2位の中国は6件中4件が日本企業による売却。中国事業の見直しに伴い、現地子会社を合弁相手に売却するといったケースが引き続き目立つ。

対照的に、オーストラリア(5件)、シンガポール(4件)、ベトナム(3件)はいずれも全件が日本企業による買収案件だった。

KPPグループ、ラトビア企業を買収

バルト3国の一つ、ラトビアの産業・食品用パッケージ製品販売会社「PAKELLA SIA」を買収することになったのは紙専門商社首位のKPPグループホールディングス。ラトビア企業の買収は適時開示情報を調べたところ、少なくとも過去10年で例がない。

◎2024年1〜3月:海外M&Aの金額上位(HDはホールディングスの略)

社名内容金額
1 ルネサスエレクトロニクス プリント基板設計ソフトウエア企業の米国アルティウムを子会社化 8900億円
2 積水ハウス 米国の戸建住宅メーカー、MDCホールディングスを子会社化 7320億円
3 セブン&アイ・HD 米コンビニ大手のスノコから追加で事業を取得 1374億円
4 三浦工業 同業の米国ボイラメーカー、クリーバーブルックスを子会社化 1161億円
5 ローランド ディー.ジー. 米投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズと組んでMBOで株式非公開化 620億円
6 カゴメ トマト加工品大手の米国インゴマー・パッキングを子会社化 360億円
7 スノーピーク 米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOで株式非公開化 340億円
8 ペイロール 米投資ファンドのTAアソシエイツと組んでMBOで株式非公開化 240億円
9 サワイグループHD 後発医薬品メーカーの米国子会社アップシャー・スミス・ラボラトリーズなどを台湾社に譲渡 227億円
10 コニカミノルタ 創薬支援子会社の米国Invicroを現地社に譲渡 173億円

文:M&A Online

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