建設業のM&Aは加速するか?(写真はイメージ)

2023年度(2023年4月〜2024年3月)の建設業を対象にしたM&A(適時開示ベース)は、件数が前年比13.2%減の33件(前年度は38件)で2年連続の減少となった。一方、取引総額は同16.5倍の655億9900万円と、2年ぶりの増加となった。前年度になかったTOB(株式公開買い付け)は1件あった。

低調だった前年度の反動で取引総額は急増

国内M&A市場全体が成長する中、件数は過去5年間で2019年度の29件に次ぐ低い水準だった。取引総額は2450億600万円だった2021年度、1620億7600万円だった2019年度に比べるとはるかに低いが、前年度が39億8000万円と極めて低調だった反動で大幅増となっている。

2022年度は取引総額を公開したM&A案件が7件だったのに対し、2023年度は13件と2倍近かった。それに加えて10億円を超える案件が2022年度はたった1件だったが、2023年度は8件あったことで、取引総額を押し上げている。

金額トップは唯一のTOB

金額トップは、大成建設がピーエス三菱に対して子会社化を目的に実施したTOB(株式公開買い付け)で、買付代金は最大で240億2800万円と公表。過半数をわずかに超える株式50.2%の取得を目指した。ピーエス三菱は国内土木事業のうち、成長が見込まれる高速道路の大規模リニューアル(更新・修繕)分野やコンクリート橋梁新設工事などに強みを持つ。ピーエス三菱の筆頭株主であるUBE三菱セメント(東京都千代田区)は保有する33.46%、第2位株主の太平洋セメントは保有する9.48%の株式を、すべてTOBに応募した。ピーエス三菱はTOBに賛同を表明した。ピーエス三菱の東証プライム市場への上場は維持されている。

2位は大林組が米国現地法人を通じて、水処理関連施設を主力とする大手建設会社の米国MWH US Acquisitions, Inc.(MWH、コロラド州)の株式90%を取得し、子会社化した案件。取引金額は約194億円。大林組は米国の水関連インフラ建設市場をめぐり、都市部の人口増加や施設老朽化を背景とした公共投資の増加が見込まれるとして、本格参入の機会をうかがっていた。MWHは傘下に事業子会社MWH Constructors, Inc.(コロラド州)を持つ。MWH Constructorsの前身母体企業は1993年に設立され、大型水処理関連施設建設工事で実績を積んできた。

3位は高島が地盤改良工事の岩水開発(岡山市)の全株式を取得し、完全子会社化した案件。取引金額は51億8000万円。地盤改良工事で培った施工機能を取り込み、高島が手がける壁材、基礎杭工法をはじめとする建材事業との相乗効果を見込む。岩水開発は1965年に創業し、小規模建築物件の基礎補強・地盤改良分野では中四国地方トップクラスの実績を持つという。

帝国データバンクによると、建設業界では2023年1-12月に倒産が前年比38.8%増の1671件に急増した。資材高が主な要因。悪化する経営環境に対応するためには規模拡大が急務で、2024年度は中小・中堅を中心に「売り手」側からのM&Aの動きが活発化しそうだ。大手も人手不足から「人を買うM&A」に積極的で、M&Aの件数、取引総額ともに増加するとみられる。

文:M&A Online

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