いまやドラマ作品におけるアカデミー賞と言われるエミー賞で最有力候補の一つとも注目されている、ディズニープラスで独占配信中の「SHOGUN 将軍」。「関ヶ原の戦い」前夜を舞台に、徳川家康、三浦按針、細川ガラシャら、歴史上の人物にインスパイアされた登場人物たちが日の本の覇権をめぐり争う戦国スペクタクル・ドラマシリーズだ。『トップガン マーヴェリック』(22)の原案者が製作総指揮、真田広之がプロデュース、主演を務める本作は、物語が後半に差し掛かったいまでも映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家レビュー99%を維持するなど(4月2日時点)、世界から高い評価を受けている。

MOVIE WALKER PRESSでは、本作の魅力を発信する特集企画を展開。本稿では第7話を、ライターの相馬学がレビューする。

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■虎永史上、最大の危機が到来か!?

「時は来た!えい、えい、おう!」という虎永のコールで勇ましく締めくくった6話の結末を受け、次はいよいよ合戦か!?と思っていたら、いやはや、そんなに簡単には事は運ばない。この第7話は、虎永さらなる危機編というべきか。いや、ひょっとしたら虎永史上最大の危機となるやもしれない。

発端は、同じく大名である異母弟、佐伯信辰(奥野瑛太)に援軍を頼もうとしたこと。なにしろ真田演じる虎永の軍は震災でダメージを受けており、大坂の宿敵、石堂和成(平岳大)と戦うには心もとない。そんなワケで虎永は信辰の軍勢を伊豆に招くのだが、信辰の態度は兄を立てているという雰囲気ではなく、むしろ横柄に見える。夕の宴の席では、虎永の家臣の前で、兄が子どものころに人質として他城に移送される際に馬上でクソを漏らした…という話を、マウントをとるかのように語る。家臣だけでなく、観ているこちらも、どうもイヤな気分になってくる。

それもそのはず、信辰は本話におけるヴィランと言っても過言ではないのだ。実は彼はすでに石堂と通じており、虎永の後釜として大老職を与えられていた。軍勢を率いて伊豆にやって来たのは虎永に協力するためではなく、降伏を迫り石堂の待つ大坂に送るため。信辰の軍はすでに関所を固めており、虎永も家臣たちも伊豆から逃げられない。絶体絶命とは、まさにこのことだ。

信辰への返事の期限が迫るなか、さすがの虎永も苦悩を隠せない。降伏して大坂へ行けば間違いなく死罪になる。側近も切腹を命じられるだろう。第6話まで観てきたファンとしては、虎永ならきっと秘策を胸に秘めているに違いないと思いたいところだが、どうもいつもの殿とは様子が異なるようだ。虎永はイラつくようになり、按針(コズモ・ジャーヴィス)や鞠子(アンナ・サワイ)に対してさえ当たりがキツくなるのだが、これは心に余裕がなくなっている表われだろう。そう、本エピソードにはつねにプランBやプランCを用意しつつ、堂々と自信満々に振舞っていた虎永の姿はない。

主君がそんな状態だから、側近たちもなす術がないし、頼りなく見えてくる。和睦のために石堂に送っていた使いの首を届けられた藪重(浅野忠信)は苦笑いするしかないし、その甥の央海(金井浩人)は温泉につかりながら昔に戻りたいと弱音を吐く。文太郎こと戸田広勝(阿部進之介)にいたっては、妻、鞠子に按針が向ける目つきが気に入らないからと、虎永に按針の首を切らせて欲しいと懇願する始末。そんなことを考えている場合ではない虎永は当然、却下する。文太郎と按針の間のテンションはここでマックスになるのだが、文太郎に嫉妬心があらわになるのは、重苦しさも感じられる物語の中では人間くさく映り、単にイヤなヤツだと思っていた彼がちょっと好きになってしまった。

■いまひとたび長門が巻き起こす、衝撃すぎるラスト…

そんな男たちに対して、女性たちは肝が座っていること!虎永に先の件を申し入れた文太郎の前で「私の命は夫の思うがままでござりまする」と言い切る鞠子、「我らはできる時にできることをいたすもの。あとはそれで足りるよう、祈ることしかできませぬ」と有事に備えて槍の練習をする藤(穂志もえか)、そして歳を取った遊女たちのために江戸で店を構えることを虎永に懇願する茶屋の女主人、吟(宮本裕子)。その吟はいう「宿命は刀と同じ。それを操れる者にのみ助けとなります」。これまでのエピソードでは虎永が多くの金言を放ってきたが、本作に限っては女性たちの名言が目立つ。

“宿命”は本エピソードのキーワードでもある。46年前にさかのぼる冒頭の逸話では、初陣を飾った虎永に敗れた武将が「勝ち目のない戦に挑んだのは我が宿命」と言って切腹する。この時の体験はいまも虎永の心にしみついているようで、しばし回想として挿入される。吟に対しても、「我が宿命はすでに定まった」と諦め気味につぶやき、その後には信辰に降伏する旨を伝える。逆に按針は「覚悟はできている。どんな宿命が待ち構えていようと」と言うが、このような意思的な姿勢は吟のいう“刀”につながるような気がしないでもない。だとすれば、この窮地を突破するキーマンは、やはり按針なのだろうか?

この第7話、物語の舞台がほぼ伊豆限定であるという点で、第4話と似ている。そしてもうひとつ、第4話と共通するのは最後の最後に虎永の血気盛んな息子、長門(倉悠貴)がまたもやらかしてくれることだ。遊女と遊んでいた信辰の不意を突き、切りかかる長門。その後の展開はぜひ観て驚いて欲しいので、あえて詳細は伏せる。これが長門の宿命だったのだろうか?この大事件は虎永にどんな影響をおよぼすのか?虎永の元を離れることをになった按針の宿命とは?次エピソードへの興味がどんどん沸き起こってくるに違いない。

文/相馬学