◆今週は弥生賞ディープインパクト記念
 2019年にディープインパクトが亡くなり、今年で早5年。何を隠そう筆者はディープインパクトを見て競馬を始めた事もあり、まさにヒーローと呼ぶべき存在でした。そのため、数々の衝撃を与えてくれた彼の最後の衝撃にはとても悲しみました。

 そして、翌年の2020年より弥生賞が弥生賞ディープインパクト記念に名称変更。重賞初制覇の舞台であり、その後は無敗で三冠を達成したため「この一戦こそがディープの冠を付すにふさわしい」と決まったとそうです。ちなみに、競走馬の名前を冠したJRA重賞の誕生はセントライト記念、シンザン記念とともに3つ目。それだけ日本競馬界にとって偉大な存在であったことを物語っています。

 今回の記事では、大好きなディープインパクトについて筆者の見解も含めて解説していければと思っています。そして、記事の最後にはディープインパクトを超えるかもしれない? 素質馬が今年の弥生賞ディープインパクト記念に出走するため、そちらについても解説していきます。

◆日本競馬界の至宝ディープインパクトとは

 父サンデーサイレンスは日本で種牡馬となり、一時代を築き上げた歴史的な種牡馬。そして母ウインドインハーヘアはアイルランドで生まれ、ドイツG1のアラルポカルというレースを勝利しています。近親にはミルフォードやナシュワン、ネイエフといった名馬もおり、さらにディープインパクトの兄は後にキタサンブラックの父となるブラックタイド。まさに超がつく良血馬です。

 とはいえ、セレクトセールでの落札価格は7000万で、上場されたサンデーサイレンスの産駒14頭のうち9番目と当時の評価はそこまで高くありませんでした。理由は現役時代もそうであったように小柄だったことが挙げられます。それでも落札した金子氏は「瞳の中に吸い込まれそうな感覚に襲われた」とコメントされており、その衝撃からディープインパクトと名付けたそうです。

 新馬戦は武豊騎手が騎乗し、単勝オッズは1.1倍の圧倒的な1番人気に。その支持に応え、レースでは上がり3ハロン33.1秒を記録して4馬身差の圧勝。続く若駒ステークスも9馬身差と大楽勝で、三冠は確実と言われる存在になりました。

 まさかのクビ差辛勝となった弥生賞を経て、無敗で挑む皐月賞。G1という事もあり新聞やスポーツニュースでも取り上げられ、筆者もここでディープインパクトの存在を知って競馬の世界へとハマっていきました。レースは落馬寸前の出遅れから始まりましたが、徐々にポジションを押し上げて2馬身半差の差し切り勝ち。武豊騎手が指を1本立てて「まずは一冠」とアピールしたのもかっこよかったですね。

 続く日本ダービーは大外から5馬身差をつける圧勝。当時のレースレコードタイとなる2分23秒3を記録しています。そして、秋初戦の神戸新聞杯を制して迎えた菊花賞。京都競馬場には菊花賞の入場動員レコードとなる13万6701人が入場しました。京都に住んでいた筆者は菊花賞を見に行きたかったのですが、当時はまだ高校生だったので自重。「世界のホースマンよ、見てくれ!これが日本近代競馬の結晶だ!」という名実況と共に、見事三冠を達成しました。

◆凱旋門賞では厳しい結果に…

 古馬と初対決となった有馬記念ではこちらも名馬ハーツクライと名手ルメール騎手の好騎乗に阻まれて2着となりましたが、古馬になり阪神大賞典と天皇賞(春)、宝塚記念と3連勝。そして凱旋門賞に挑みます。結果は3着に入線(後に失格)。夜中まで起きていた筆者も伸びきれないディープインパクトの姿にショックを受けました。

 帰国初戦はジャパンカップ。単勝オッズは1.3倍で単勝支持率61.2%は日本国内で走ったレースの中では最も低くなりました。凱旋門賞のレース振りから世間もやや不安視している様子でしたが、レースではその不安を払しょくする、いつものディープインパクトの姿がありました。そして引退レースの有馬記念は武豊騎手が「生涯最高のレースができた」と語る走りでG1 7勝目を記録しました。

◆最大の強みはトップスピードの持続力にある

 ここまでディープインパクトの戦歴を振り返りましたが、筆者が最も衝撃を受けたレースが天皇賞(春)でした。道中はいつものように後方から競馬を進めていましたが、向正面で一気にスピードを上げて3コーナーでは3番手。4コーナーでは早くも先頭に立つ驚愕の競馬で、そのままリンカーンを3馬身半差突き放す圧勝でした。

 勝ちタイムの3分13秒4は当時のレコードタイム。そして何よりも衝撃なのが上がり4ハロンのタイムです。競走馬の持続力はレースの上がり4ハロンに表れると筆者は考えており、ディープインパクトが勝利した天皇賞(春)の上がり4ハロンタイム44.8秒は、芝3000m以上のレースにおいて今なお破られていない歴代最速タイムとなります。

 ディープインパクトといえば上がり3ハロン33秒台を記録するようにトップスピード性能も非常に優れていますが、それを維持する持続力こそが最大の強みであったと考えています。産駒としてジェンティルドンナやコントレイルなど中〜長距離馬を多く輩出していることも、自身の持続力を遺伝させている結果といえるでしょう。最強馬論争で必ず名前が挙がるディープインパクトですが、少なくとも長距離部門では歴代最強馬だと筆者は確信しています。

◆ネクストディープ? ダノンエアズロックに注目!

 ディープインパクトの強みはトップスピードの持続力と語りましたが、今年の弥生賞ディープインパクト記念に出走する馬の中で、ディープインパクトを上回る衝撃のパフォーマンスを見せた馬がいました。それがダノンエアズロックです。

 アイビーステークスで記録された上がり4ハロンは45.1秒。時計の出やすい新潟競馬場を除いて、2歳戦の芝1800m以上のレースで上がり4ハロン45.4秒以下が記録されたレースはディープインパクトの新馬戦、ジオグリフの新馬戦、そしてダノンエアズロックのアイビーステークスと歴代遡ってもわずか3件しかありません。そしてこの3つの中で最も速いのがダノンエアズロックなのです。

 このレースでダノンエアズロック自身はメンバー最速タイの上がり3ハロン32.7秒を記録しています。そして、後にホープフルステークスを制するレガレイラを降しており、時計的にもレベル的にも超G1級であることを証明しています。

 先ほど紹介したダノンエアズロックをはじめ、今年の弥生賞ディープインパクト記念は素質馬が多数参戦しています。今年のクラシックを盛り上げる「衝撃」に期待しつつ、レースを観戦したいと思います。

文/安井涼太



【安井涼太】
各種メディアで活躍中の競馬予想家。新刊『安井式上がりXハロン攻略法(秀和システム)』が11月15日に発売された。『競走馬の適性を5つに分けて激走を見抜く! 脚質ギアファイブ(ガイドワークス)』『超穴馬の激走を見抜く! 追走力必勝法(秀和システム)』、『安井式ラップキャラ(ベストセラーズ)』など多数の書籍を執筆。