17本あった冬ドラマが全て終わった。全作品の最終回まで観た筆者が、ベスト5を選んでみたい(※各ドラマのストーリーのネタバレを含みます)。
◆5位『君が心をくれたから』(フジテレビ)

 永野芽郁(24)が主演し、山田裕貴(33)が相手役を演じたラブストーリー。キーワードは究極の自己犠牲だった。それが払える相手は肉親以外だと深く愛する人のみだろう。しかも若いうちだけではないか。

 なので、世代によって受け止め方が異なるドラマだったはず。若い世代をターゲットとする月9だから、制作者側はこの物語を紡いだのだろう。

 永野が演じたのは逢原雨。パティシエになる夢が破れた挫折の人だった。山田が扮したのは花火職人・朝野太陽。しかし、視覚障がいがあり、職人を続けるのは難しかった。この2人が10年ぶりに再会するところから物語は始まる。雨にとって太陽は高校の2年先輩であり、大切な人だった。

◆ホラー調の作品になるかと思いきや

 2人が再び顔を合わせた直後、太陽は交通事故に遭い、死の淵に立つ。雨が泣きじゃくっていると、あの世からの案内人(斎藤工)が現れ、心(五感)を差し出したら、太陽を助けてやるという。心は五感を差し出すことを約束する。こういった出だしのドラマや映画は過去になく、ホラー調の作品になるのかとも思ったが、実際には違った。

 雨が犠牲を決心したことで太陽は生還する。一方で雨は五感を次々と失うが、太陽には案内人との約束を隠す。恩に着せるような言葉を口にした途端、自己犠牲は自己満足になってしまうからだ。同時に太陽にとっては重荷になる。

 太陽は五感を次々と失う雨を支え続けた。最後になって、自分の命を差し出せば雨の五感が戻ると案内人から伝えられると、躊躇せずに自分の死を選ぶ。太陽もどんな犠牲も厭わぬほど雨を愛していた。

 ラブストーリーにも実際の恋愛にもミーイズムが当たり前になっている時代だから、このドラマが提示した愛の解釈には意義があったと思う。

◆4位『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』(TBS)

 こちらのキーワードは再生。主演の西島秀俊(53)が演じた夏目俊平は世界的マエストロ(指揮者)だったが、音楽に没頭するあまり、5年前に娘でバイオリニストだった響(芦田愛菜)を深く傷つけてしまう。それが基で父娘の関係は崩壊。俊平は憔悴し、マエストロを辞めた。

 壊れた4つのモノの再生までの物語だった。まず俊平と響の父娘関係、バイオリニストとしての響、帰国した俊平が率いたポンコツ楽団「晴見フィルハーモニー」、そして世界的マエストロとしての俊平。よくぞ再生ばかりを混ぜ合わせたものである。

◆西島秀俊の演技力が光った

 父娘関係はなかなか改善されず、一方で響はバイオリンを再開しようとしないので、物語の中盤では焦れそうになった。しかし、制作者側にとっては計算ずくだったのだろう。父娘関係が早々と元通りになり、響が簡単に音楽を再開していたら、都合が良過ぎた。そもそも世界的マエストロの俊平が、地方オーケストラを率いることが現実離れしているのだから、ほかの部分は回り道を繰り返すくらいで良かった。

 海外での評価も高い西島の演技はやはり出色だった。誰にでも限りなく優しく、高校球児から音楽界に転じながら大成功を収めるという奇跡のような人物を、実在するかのように見せた。こじらせ系の芦田には少し違和感もおぼえたが、女優として大成するには溌剌とした役ばかりをやっているわけにはいかないだろう。

 最終回には俊平がマエストロとして再び世界に羽ばたく。父娘関係が回復した響は立て直された晴見フィルハーモニーに加わった。タイトルはきれいに回収された。

◆3位『厨房のありす』(日本テレビ)

 門脇麦(31)が演じた主人公の八重森ありすは天才的料理人。自閉スペクトラム症というハンデがあり、その特性から頑固でこだわりが強い。コミュニケーションも苦手だ。一方で純粋かつ努力家。他人を思いやる気持ちも強い。

 まず、ハンデを個性と捉えたところが光った。日本のドラマはハンデのある人は不幸な存在と決めつけがちだが、それは思い込みと物語上の都合に過ぎない。

 ありすはレストラン「ありすのお勝手」で料理の腕を振るう。並外れた化学の知識と驚異的な記憶力によって、訪れる客の健康状態に最適な料理を提供し、喜ばれた。「どれだけ食材を用意しているの?」とも思ったが、そこはファンタジー。

◆ミステリー要素が濃くなった終盤戦

 やがて、ありすの母親の死の真相究明と実父探しというミステリー要素が色濃くなる。レストランのホール担当・酒江倖生(永瀨廉)の父親を死に追いやった理由の解明もあった。もっとも、全体の作風は一貫してハートフルコメディ。門脇、永瀨、ありすの父親役の大森南朋(52)らの演技が巧みだったから、ミステリー要素が無理なく溶け込んだ。

 門脇のコメディエンヌとしての才能がいかんなく発揮された。セリフを口にしないときも動作で笑わせてくれた。まるで小動物のような小走り、うろたえ方、おびえが傑作だった。

◆2位『正直不動産2』(NHK)

 前作は山下智久(38)が演じる主人公の不動産営業マン・永瀬財地が、嘘が吐けなくなってしまい、仕事で四苦八する物語だった。今回の永瀨は新入社員の十影健人(板垣瑞生)の教育に頭を抱え、ライバル社の大嘘つき営業マン・神木涼真(ディーン・フジオカ)に苦しめられた。

 毎回違った家族が登場し、その幸せを永瀨が懸命に守ろうとしたところは前作と一緒。たとえば第2回では父親が妻を家から追い出し、そのために病死させてしまったと思い込んだ息子が、父親が住んだままの家を売ろうとする。

◆続編の可能性も!

 永瀨はそのまま売ったほうが儲かるのだが、部下の月下咲良(福原遥)と一緒に息子の誤解を解き、売却を思いとどまらせる。1円の利益にもなかったものの、家族は和解。永瀨らは満足そうな表情を浮かべた。

 よくあるお仕事ドラマとは違い、働くことの意味を考えさせてくれた。好評だったのでパート3があるとも聞く。

◆1位『不適切にもほどがある!』(TBS)

 脚本家のクドカンこと宮藤官九郎(53)と磯山晶プロデューサー(57)の才能とセンスが炸裂した。2人の作品は14作目だが、おそらく最高傑作だろう。

 主人公は1986年から現代にやって来た中学教師の小川市郞(阿部サダヲ)。公衆マナーをわきまえず、精神論を振りかざす典型的な昭和男だったが、徐々に現代の良いところを見習う。一方で現代人側も人情味がある市郞が憎めない。

 評判の良いドラマも最終回には不満を残してしまいがちだが、このドラマは最終回がピークであり、それまでの疑問点や謎も一掃した。全体のテーマも明らかにした。

 最終回で特にポイントだった場面は4つ。まず、市郞の孫である渚(仲里依紗)が1986年に訪れ、母親の純子(河合優実)と喫茶「すきゃんだる」で会う。純子は渚が5歳だったとき、阪神・淡路大震災(1995年)で亡くなった。このため、渚には純子の記憶があまりない。しかし、この場で渚の職場での部下との衝突の話を聞いてくれて、励ましの言葉も与えてくれた。

「その子、今ごろ後悔しているよ」(純子)

 母とのふれあいに渚は涙し、食べていたナポリタンのケチャップを口の端に付けてしまう。それを純子はやさしく拭う。映像は若き日の純子、幼いころの渚に変わっていた。

◆昭和も令和も全否定せずの最終回

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度上期)もそうだったが、悲劇を売り物にすることを避けるクドカンは、今回も純子が震災で絶命するかどうかを曖昧にした。しかし、渚には母の思い出が加わった。

 一方、市郞は令和での経験でバージョンアップし、1986年の教育現場に戻る。そこでは校長が理不尽にも女装趣味が理由で辞職に追い込まれていた。後任(宍戸開)の昭和的教育論に市郞は猛反発する。

「どっかで聞いてきた精神論を当てはめて、それで終わりでいいの? あの子たちが30年後、40年後の未来をつくるんだよ」(市郞)

 自分の考え方を押し付けるなというのは当時の教員たちだけに向けられた言葉ではなかっただろう。

 ミュージカル場面ではハナ肇とクレージーキャッツによる「ドント節」(1961年)を下地にした歌を全レギュラー陣で歌った。この歌詞がドラマに通底するテーマをほぼ全て網羅しているという趣向だった。

♪もっと寛容になりましょう――♪どんと許しましょう――♪ちょっとのズレなら グッと堪えて 多様な価値観 広い心で受け入れて――

 昭和も令和も全否定せず、正しい生き方も提示しなかった。ただ、価値観の違う人間同士が同じ時代で暮らすためには寛容が肝要と呼び掛けた。

 そして市郞は卒業していく教え子たちに対し、令和から1986年に潜り込んだCreepy Nutsによる「二度寝」を聴かせる。主題歌である。

♪エスケープしてみたい このバスに乗って未来へ いや はるか昔 まぁどっちもとんでもない――

 この歌は文字通りの主題歌だった。同時に生きづらさをおぼえる人たちへのエールでもあった。

<文/高堀冬彦>



【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 放送批評懇談会出版編集委員。1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立