昨年のMoto2チャンピオンで、今季はガスガス・テック3からKTMのマシンでMotoGPに出場するペドロ・アコスタが、最高峰クラス2戦目となるポルトガルGPで3位初表彰台を獲得した。アコスタはウインターテストでトップタイムを争うことも度々で、初表彰台獲得、初優勝も近いうち達成するだろうと多くの関係者が期待していたが、わずか2戦目にして表彰台に上がった。

 アコスタは予選7番手。土曜日に12周で行われたスプリントでは、優勝したアプリリアのマーベリック・ビニャーレスから約5秒遅れの7位だった。このレースでアコスタはオープニングラップにミスをして11番手へとポジションを落としたが、そこから素晴らしいペースで追い上げると、レース中に2番目に速いタイムをマークして7位までポジションを上げた。もし1周目に遅れなければ、このレースでも十分表彰台に立てたが、このときアコスタはこうコメントしていた。

「見てもらえればわかったと思うけれど、オープニングラップにかなりタイムをロスした。トップグループに比べて1周で2.5秒も失い、最終的にマーベリックに5秒も離されてしまった。課題はスタート。もっとスタートに集中しなければいけない。明日の決勝はクラッチのセッティングを変えて挑みたい。今日は悔しい結果に終わったが、まだMotoGPマシンに乗って12日目。自分にはもっと時間が必要なんだ」

 このスプリントでアコスタより速いタイムをマークしたのは、3位になったドゥカティのホルヘ・マルティンだけ。アコスタは優勝したビニャーレス、2位のマルク・マルケス、4位のフランチェスコ・バニャイアよりも速かった。

マルケスをあっさり抜いて上位浮上

 そのアコスタが日曜日の決勝レースではスタートを決めた。オープニングラップはグリッドと同じ7番手でホームストレートに戻って来ると、KTMワークスのブラッド・ビンダー、ジャック・ミラーとバトルを繰り広げ、7周目には6番手に浮上した。

 そして8周目には先行するマルケスをあっさりと抜き去って5番手へ。その後、13周にわたってバニャイアを追撃することになるが、終盤の21周目にバニャイアを抜き去って4番手に浮上。この時点でトップの3人とは約4秒差。どう頑張っても初表彰台、初優勝には届かない距離だったが、最終ラップに2番手を走っていたビニャーレスがコースを外れて転倒し、アコスタは3番手に。最終ラップをなんとか無事に走り抜いたアコスタが、最高峰クラスでは3番目の若さとなる19歳304日で初表彰台を獲得した。

 まだ幼さの残る顔をくしゃくしゃにして喜んだアコスタは、その喜びをこう語った。

「どう言っていいのか、言葉が見つからない。最終ラップ、ビニャーレスが転倒したのを見たとき、これは失敗できないぞと思った」

 このレースのファステストラップの順では4番目に速かったアコスタがバニャイアの後ろを長時間走ることになったのは、ストレートの速さに勝るドゥカティをなかなか抜けなかったからだ。だが、アコスタは状況を打開するため戦略を変え、1コーナーでのブレーキング争いで無理をせず、1コーナーの立ち上がりからの加速とその先のコーナーでのブレーキングで前に出る作戦とした。これは、なかなかルーキー離れしていた。

チャンピオンの後ろで学んだこと

「今日はペコ(バニャイアの愛称)の後ろで何周も走り、本当に多くのことを学んだ。彼がどう身体を使って何をしているのか、タイヤを壊さず温存するために何をしているのかを理解することが出来たからね。プラクティスや予選ではこうした機会を得ることは難しいし、正直、今日は4秒遅れの4位でOKだと思った。それが表彰台に立てるなんて本当に信じられない。でも、まだ始まったばかり、今日はいいレースができたけれど、次のアメリカやその次のヘレスではだめかも知れないからね」

 開幕戦カタールGPの決勝レースで、アコスタは一時4番手に浮上したものの9位に終わった。そのときはタイヤのマネージがまだ出来ていない、経験不足だと指摘されたが、実際はマシンの姿勢を変えるために左手で操作する「シェイプシフター」のレバーの位置が悪かったことが原因だった。これは、加速時にフロントフォークが伸びると連動してリアの車高を下げるシステムで、コーナーによってはそれを解除しなくてはならない。KTMがその対策を講じたポルトガルでアコスタは見事に結果を出してみせた。

 アコスタは2004年5月25日にスペインのムルシアで生まれた。2021年には、16歳でMoto3クラスに出場し、ルーキーながらシーズン6勝を挙げて、史上2番目の若さ(17歳166日)でタイトルを獲得。2023年はMoto2クラスで7勝14回の表彰台獲得という圧倒的な速さで史上2番目の記録(19歳171日)でタイトルを手にした。どちらかといえば寡黙なライダーだが、錚々たる顔ぶれが揃う最高峰クラスのスペイン勢の中では、そうなるのも仕方ないのかも知れない。

 19歳304日で最高峰クラス初表彰台というアコスタの記録は、阿部典史(20歳10日/1995年ブラジルGP)を抜き、エドゥアルド・サラティーノ(19歳274日/1962年アルゼンチンGP)、ランディ・マモラ(19歳261日/1979年フィンランドGP)に次ぐ史上3番目のスピード記録となった。

数々の名ライダーに並ぶ才能

 これまで数々の名ライダーを見てきたが、アコスタがここまで残してきた記録は彼らと遜色のないものだ。2000年に21歳で最高峰クラス(500cc)にデビューしたバレンティーノ・ロッシの初表彰台獲得は4戦目(3位)、初優勝は9戦目だった。そして、初PP獲得は2年目の第2戦で、この年に初タイトルを獲得した。

 ケーシー・ストーナーは20歳の2006年にデビューして、2戦目に初PPを獲得し、3戦目に2位表彰台に立った。そして2年目の開幕戦で初優勝し、この年にタイトルを獲得。ホルヘ・ロレンソも20歳の2008年にデビューして、開幕戦でPP&2位。3戦目に初優勝を達成し、3年目には初タイトルを獲得した。マルク・マルケスは2013年に20歳でデビューして開幕戦で3位初表彰台獲得、2戦目に初PP&初優勝を達成し、デビューシーズンにしてタイトルを獲得している。

 これだけの名ライダーたちと記録上で肩を並べたアコスタだが、これから注目されるのは初PPと初優勝ということになる。すでに今季、ファビオ・クアルタラロが2019年に達成した史上最年少PP記録(20歳14日)と、マルケスが2013年に達成した史上最年少優勝記録(20歳63日)のブレイクに注目が集まっている。そのリミットはPP記録が第7戦イタリアGP、初優勝記録が第10戦ドイツGPである。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo