"人生の主人公として「100年ライフ」をワクワク、楽しめる社会を創る"をビジョンとして、「人生100年時代」の個人のライフデザイン支援をテーマとしたコンテンツ開発やワークショップ、1on1型ダイアログなどを提供するライフシフト・ジャパン(株)。

同社が開発した独自のフレームワーク「ライフシフトの法則」に沿って、40代・50代のためのライフシフト実践講座をお届けします。

※本稿は、『THE21』2023年7月号〜11月号に連載した「40代・50代からのライフシフト実践講座」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。


「人生100年時代」と聞いてどう感じますか?

「人生100年時代」という言葉は、日本社会に広く定着し、誰もが知る言葉となりました。しかし私は、この超長寿社会への変化に向けて、日本人の考え方や行動が大きく変わったかというと、まだまだ心許ないのではないかと感じています。

ライフシフト・ジャパンでは昨年、「人生100年時代 マインド調査」を実施しました。「人生100年時代と聞いて、あなたはどう感じますか?」という問いに対して「ワクワクする」と答えた人はわずか6.1%。「どちらかというとワクワクする」人を加えても"ワクワク派"は38.8%という結果でした。

また、「人生100年時代に向けた備え」を聞いた問いに対して「特に活動・行動はしていない」という人が全体の34.0%もいました。つまり、全体の3分の1の人は、経済的な準備や健康を維持するための活動などを含めて、「人生100年時代」に備えた行動を何も起こしていないということです。

しかし、これからやってくる「人生100年時代」には、働き方や学び方、結婚する時期や相手の選び方、子どもをつくるタイミングや家事・育児の役割分担など、日々の生活(ライフスタイル)や社会全体の構造に関わる大きな変化が起こることは間違いありません。

企業、教育機関、社会保障制度など、多くのものが変化することを求められますが、最も変わらなければならないのは、私たち一人ひとりのマインドセットであり、それこそがライフシフトを実践するための第一歩と言えるでしょう。


「3ステージ型モデル」が定着する日本社会の仕組み

ライフシフトの実践を考えるにあたり、最初に知っておくべきポイントは、「3ステージ型人生モデル」から「マルチステージ型人生モデル」への変化です。

「3ステージ型モデル」とは、人生を「学習→仕事→引退」という3つのステージで捉えるモデルです。この意味で、これまでの日本は、まさにこの「3ステージ型モデル」が徹底的に社会システムに組み込まれた社会だったといえます。

"新卒一括採用"によって、多くの学生が毎年4月1日に一斉に「学習のステージ」から「仕事のステージ」に移行し、「仕事のステージ」では流動性の低い構造の中で、"年功序列"によって人事や処遇が決定され、"定年制"によって60歳の誕生日の月末に強制的に「引退のステージ」に移行するといったシステムが定着してきました。

このシステムでは、人生のステージは暦年齢と完全にリンクしていました。つまり、「20歳=学生」「40歳=会社員」「60歳=間もなく引退する人」といったように、年齢を聞けば、その人が今どのステージにいるのかが、ほぼ推測できたわけです。

「3ステージ型モデル」は、皆が一斉行進のように横並びで一緒に進む、わかりやすく変化の少ないモデルだったといえます。

しかし、「人生100年時代」と言われる超長寿社会において、 この「3ステージ型モデル」は限界を迎えています。

個人の視点に立てば、「長過ぎる老後」という問題があります。仮に経済的な不安がなかったとしても、40年にも及ぶ長い"引退"期間を活力を維持してワクワク生きることは、かなり難しいことでしょう。

「仕事のステージ」におけるキャリアを会社に委ねてしまい、自分自身で人生を選択し、人生を創る経験をしてこなかったビジネスパーソンが、定年後にやりたいことを見つけられずに「濡れ落ち葉」と呼ばれるような状態になってしまう──そんな話を耳にした方も多いと思います。

社会全体という視点では、少子高齢化がさらに進行することで、年金などの社会保障制度を維持するための様々な懸念点が指摘されています。日本老年学会は、高齢者の定義を75歳以上にすべきとの提言を行なっています。

「長過ぎる老後」を"支えられる人"から"支える人"に変えていく必要性については、社会的ニーズが今後さらに高まっていくことが予想されます。

私たちが超長寿社会の恩恵を享受するためには、これまでの「3ステージ型モデル」から抜け出し、新しい人生モデルに変化していく必要があるのです。


「マルチステージ型モデル」への変化が求められている

「マルチステージ型モデル」では、それぞれの人のステージは暦年齢とはリンクせず、様々なステージを移行する変化の多い人生を歩むことになります。

若くして起業する人やミドルの時期に大学院などで学び直しをする人、60歳を過ぎてもフリーランスで仕事を続けて生涯現役を目指す人など、一人ひとりがロールモデルとなる、変化とオリジナリティーに溢れる社会が想定されます。

日本では、これまでの定年制の影響で、"60歳"という年齢は、様々な意味で大きな区切りを意識する年齢と言えるでしょう。65歳までの雇用延長が義務化され、21年には「70歳就業法」が施行(努力義務)されるなど、年金の支給開始年齢の引き上げとリンクするかたちで高年齢者の雇用確保を促す施策が行なわれてはいます。

それでも、多くの働く人にとって、「60歳まで」と「60歳から」の間には、個人の意識のうえでも社会的な扱いにおいても、まだ大きな"壁"があると言えます。

40代・50代の世代がライフシフトを考える際にも、この「60歳の壁」をどのように促えるかによって、その後の選択肢は大きく変わることになります。「60歳=引退」という従来の"常識"にとらわれず、まずは「人生100年」という時間軸を意識し、60歳のその先にもまだ人生は続いていくという"事実"を知ることが大切です。

もちろん、「ライフシフト」は、長く生きること自体を目標として目指すものではありません。人生が長くなる可能性を知り、その時間を健康でより幸福な人生とするために、自分自身が大切にしたい価値軸に沿った人生を自分自身の判断で選択していくこと。まさに自分自身の人生の"主人公"になることが、ライフシフトの本質的な意味だと言えるでしょう。


「会社はいつか卒業する。だけど人生は続く。」

※↑(株)博報堂 ネクストキャリアデザインチームが開発し、社内のシニア研修等で活用しているコピー

100年という「時間軸の拡張」を意識することと共に大切なのは、仕事のために所属する「組織(会社)」の中に閉じることなく、「空間軸を拡張」することです。

かつて「就職」は、「結婚」になぞらえられる時代がありました。終身雇用がまだ信じられていたこともあり、就職先は、"生涯、添い遂げる"相手として、相思相愛を理想として語られていたものです。

しかし今や、終身雇用は幻想となり、仮に定年まで"勤め上げた"としても、まだその先に人生は続いていく時代になりました。

私がかつて所属していたリクルートは、ほとんどの社員が定年を待たず、新たなステージにチャレンジすることが当たり前の組織でした。リクルートを去っていくメンバーの多くは、その行動を「退職」とは言わず、「卒業」と称していました。

「結婚」は、生涯を添い遂げることを前提としているので、「卒業」することはありません。しかし、今や個人と会社の関係は、いつか「卒業」するものに変わってきたと言えるでしょう。それは、新卒で入社した会社で定年まで勤め上げる人も、転職などによって複数の会社を経験する人も同じです。「会社はいつか卒業する」のです。

そうした変化を意識すれば、40代・50代の世代の皆さんも今の会社の中に閉じた、狭い空間にとらわれることなく、会社の外の広い世界に目を向けていくことが求められます。

空間軸の拡張とは、仮に定年まで勤め上げたとしても、まだ人生が続いていくことを認識して、定年までの会社員としての人生をその先の人生につなげていくために、会社の内と外を含む、広い空間的な視界を持つことの大切さを示唆するものです。


フレームワークとしての「ライフシフトの法則」

ライフシフト・ジャパンでは、これまで数多くのライフシフターにインタビューを行なってきました。そのインタビューを通じて紡ぎ出したある種の共通項が「ライフシフトの法則」です。

「ライフシフトの法則」は、4つの法則で構成されています。

第1法則は、「5つのステージを通る」。これは、ライフシフターたちの変化のプロセスを表すものです。

①このままでいいのか、何かおかしいと「心が騒ぐ」ステージ。
②目的地は定かではないけど、何かをやってみようと「旅に出る」ステージ。
③自分が大切にしたいものに気づく「自分と出会う」ステージ。
④目的地を目指して、インプットや試行錯誤を重ねる「学びつくす」ステージ。
⑤過去を活かし、過去を捨てて新たな自分になる「主人公になる」ステージ。

ライフシフトの旅は、こうしたプロセスを通って、進んでいきます。

第2法則は、「旅の仲間と交わる」。ライフシフトの旅には、様々な「旅の仲間」が登場します。

①主人公に、自分が大切にしたいものを気づかせてくれる「使者」。
②目的地を目指して一緒に旅をしていく「ともだち」。
③前に進むために力を貸してくれる「支援者」。
④ものの考え方やあるべき姿を説いてくれる「師」。
⑤未来の社会や目指すべき生き方を唱える「預言者」。
⑥目的地にたどり着くヒントやアイデアをもたらしてくれる「寄贈者」。
⑦前に進もうとするときに、その想いや意思の強さを問う「門番」。

こうした「旅の仲間」との交わりを通じて、ライフシフトの旅は前に進んでいきます。

第3法則は、「自分の価値軸に気づく」。ライフシフト・ジャパンのワークショップでは、

①誰かのために役に立ちたい、何かに関わりたい、という「社会価値」。
②自分の志向や価値観、能力を活かしたい、という「個性価値」。
③生きていくうえで大切なことを起点としたい、という「生活価値」

の3つの領域の価値軸と向き合い、「これまで大事にしてきた価値軸」と「これから大事にしていきたい価値軸」の変化を考えることで、自分自身の価値軸への気づきを促します。ライフシフトとは、まさに「価値軸のシフト」なのです。

第4法則は、「変身資産を活かす」。抽象的な概念だった変身資産を具体的に把握するために独自開発した「変身資産アセスメント」により、変化を前に進める「心のアクセル」と変化を押しとどめてしまう「心のブレーキ」という両面から変身資産の状態を"見える化"。

それによって自分自身の「心のアクセル」と「心のブレーキ」の活かし方を見出していきます。ライフシフターたちは「心のアクセル」を活かし、「心のブレーキ」をコントロールすることで、ライフシフトの旅を前に進めているのです。