子どもに対して、強い口調で「早く!」などの言葉をぶつけてしまう親御さんは多いでしょう。これらは子どもにどのような影響を及ぼすのでしょうか。福井大学子どものこころの発達研究センター教授の友田明美さんが解説します。

※本記事は『PHPのびのび子育て』2021年5月号より一部抜粋・編集したものです


大人の何気ない言葉が子どもの脳を傷つける

学校へ行く準備や宿題などの勉強の取りかかりが遅いとき、お子さんたちに「早くしなさい!」とついつい怒鳴ってしまうことはありませんか?

日々、子どもに何気なくかけている言葉、とっている行動が過度なストレスとなり、知らず知らずのうちに、子どものこころ(脳)を傷つけてしまうことがあります。

親から言葉の暴力を受けることで、子どもの脳の大事な部分に「傷」がつく、つまり、「マルトリートメント(避けたい子育て)」が発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に変形させていることが明らかになりました。

そして、これまで生来的な要因で起こると思われていた子どもの学習意欲の低下を招いたり、引きこもりになったり、大人になってからも精神疾患を引き起こしたりする可能性があることが分かったのです。

実際に、親から暴言を浴びせられるなどのマルトリートメントの経験を持つ子どもは、過度の不安感や情緒障害、うつ、引きこもりといった症状・問題を引き起こす場合があります。


「しつけ」のつもりでやった行為が、子どもの脳を傷つけることも

子どもの脳が傷つくのは「暴行」のケースだけにとどまりません。

「マルトリートメント」は、80年代からアメリカなどで広まった表現です。日本語では「不適切な養育」と訳され、子どもの健全な発育を妨げるとされています。

虐待とほぼ同義ですが、「子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称」であり、大人の側に加害の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それはマルトリートメントと言えます。

例えば、ニュースで報道される「児童虐待」は、ひどい暴行や性的虐待などが伴った極端なケースであることが多いでしょう。

しかし マルトリートメントには、しつけと称して脅したり、暴言をぶつけたりといった、心理的な虐待も含まれます。つまり、日常生活の場面において起こりうるものなのです。多くの大人が、自分は児童虐待と無関係だと思って見過ごしている可能性があるのです。

【これらもマルトリートメントに当たります】
・ 言うことを聞かないのでつねる
・ 他の子やきょうだいと比べる
・ 常に親に従うことを強要する
・「うちの子は××もできない」と人格否定する
・ 親がスマートフォンに夢中で、子どもと関わらない