高校野球では今春の選抜大会から反発力を抑えた新基準の金属バットが導入された。埼玉では春季県高校野球地区大会から使用され、計89試合で15本塁打と前年(38本塁打)から約6割減と変更の影響が色濃く出た。従来のバットより高価で費用面の負担増も避けられず、新基準バットの導入は高校野球界にさまざまな変化をもたらしている。

■半世紀ぶりの転換

 高校野球で金属バットが導入された1974年から50年が経過した。当時国内では材料不足から木製バットの価格が高騰。折れやすい木製バットの代用として耐久性に優れた金属バットを採用したが、メーカーの開発が進むにつれて金属バットは想定以上に「飛ぶバット」になっていった。

 2019年の全国高校選手権で打球が投手の顔面を直撃し骨折。投手の障害予防とともにバットの特性が注目を集め、事故防止のための基準づくりが始まった。

■新たな魅力創出

 4月10〜15日に行われた春季県地区大会全89試合での本塁打数は15本。ともに同89試合だった23年は38本、22年は31本で本塁打数の減少が顕著に表れた。長打を放った選手は「芯を捉えれば今まで通り飛ぶ。でも少しでも詰まると本当に飛ばなくなった」と打球の変化を実感する。

 新基準のバットは、最大直径が64ミリ未満と従来より3ミリ細い。金属部分を厚くすることで反発が抑制され、打球の初速は約3・6%減少するという。

 指導者の一人は「飛ばない分、走塁だったり単打でつないだりのスモールベースボールが展開される。頭を使った面白い野球が増えるかもしれない」と言う。緻密な戦略の下、新たな高校野球の魅力創出が期待される。

■約1万円高価に

 新基準バットの価格は従来より1万円ほど高い、1本3万5千円〜4万円程度。硬式野球のグラブは6万円前後で、ユニホームやチームのバッグなどと合わせると、入部時に15万円以上がかかる可能性があると指摘する指導者もいた。

 9本の新基準バットを保有する越ケ谷高野球部の白子敦部長は「(部として)簡単に買える額ではないし、個人でバットを持つのも難しくなった。お金を理由に野球を諦めることがないようにしていきたい」と部の運営にも工夫が迫られそうだ。

 日本高野連は全国の加盟校に昨年11月と今年4月に新基準の金属バット計3本を配布。さらに県高野連が4月に新基準のバット1本とボール1ダースを加盟校に配った。

 県高野連の神谷進専務理事は「これからもやれることをやっていき、各監督、各チームをサポートしていきたい」とし、柔軟な対応が求められそうだ。

【春季地区大会本塁打数】
 2024年 15本/89試合
 2023年 38本/89試合
 2022年 31本/89試合
 2021年 27本/95試合
 2020年 中止
 2019年 34本/100試合