世界最大のプロレス団体WWEは、年間最大のビッグイベント『レッスルマニア40』(4月7、8日=ペンシルベニア州フィラデルフィアのリンカーン・フィナンシャル・フィールド)の開催前日、毎週放送しているテレビ番組のひとつ「スマックダウン」終了後に、今年のWWEホール・オブ・フェーム(殿堂入り)授賞式を開催した。

 リングサイドにはカート・アングル、トリッシュ・ストラタス、トリプルHらスーパースターたちがリングサイドを囲む中、トップバッターでポール・ヘイメンがインダクターのローマン・レインズとともに登場。さらにヘイメンが創設したECW時代の仲間であるロブ・ヴァン・ダム、ダッドリー兄弟も来場し、祝福していた。

 ヘイメンに続いて紹介映像が流されたのは、日本の女子プロレス界のレジェンドと言っても過言ではない、ブル中野だ。映像はWWF(現WWE)に限らず、WCW、全日本女子プロレス、そして新日本プロレス・北朝鮮大会の試合に加え、週刊プロレスの誌面も使った珠玉の力作。伝説の金網ギロチンはもちろん、ブルの若手時代にMSG(マディソン・スクエア・ガーデン)のリングに、ダンプ松本とともに上がった映像が綺麗に残っていたのは非常に驚きだった。

 いまやWWEのなかでも、日本人女子スーパースターとして人気を博すASUKAやカイリ・セインがリングサイドで見守る中、インダクターはWWF、WCWで連日対戦し、全女時代から交流のある“メドゥーサ”ことアランドラ・ブレイズが入場。メドゥーサがブルの功績を述べると、往年の青いフェイスペイントをした日本人レスラーが登場した。
  56歳になった彼女は「この賞が取れることを、ずっとずっと待っていた」と喜びを露わにすると、ライバルのメドゥーサと、ブルをアメリカでサポートしてくれた故ルナ・バション、そしてWWEユニバースに対して感謝の意を述べた。

 ブルのスピーチはすべて、「アメリカ時代は話せなかった」と明かす英語でしっかり話しており、集まったユニバースはスタンディングオベーションでスピーチを終えたブルに拍手を贈った。スピーチを暗記して臨み、感情の込もった言葉の一つひとつに重みを感じた。さすがは世界の女帝である。

 ブルのスピーチの後は、モハメド・アリのインダクターでジ・アンダーテイカーが登場。授賞式に出席したロニー・アリ夫人から、ザ・ロックにピープルズチャンピオンシップが贈られた。USエクスプレス(バリー・ウインダム&マイク・ロトンド)には子息たちがインダクターを務め、サンダーボルト・パターソンにはビッグEが、リア・メイビアは逝去しているため、ザ・ロックがスピーチをして、授賞式を終えた。

 ブルは新団体設立が有力視されているロッシー小川氏、スターダムを退団したジュリア、WWEのスティーブン・リーガル、元WWEであるSareeeのマネージャー的な役割を果たしているとされるサイモン・ケリー氏、メドゥーサらとともに『レッスルマニア40』をVIPルームで観戦する姿が自身のインスタグラムでアップされており、受賞の喜びが伝わってくる。 一方、すでにプロレスリング・ノアへの参戦が決まっているジュリアは『NXT』の放送内で名前とともに紹介されたうえ、トリプルHと握手を交わしたことから小川氏の新団体、またはノアとWWEの双方とルートのあるABEMA、そしてWWEが何らかの連携をすることも考えられる。

 今回、ブルがWWE殿堂入りを果たしたことで、日本人レスラーではアントニオ猪木、藤波辰爾、獣神サンダー・ライガー、グレート・ムタに続いて、レスラー部門では5人目。女子では史上初の快挙である。また、レガシー部門では力道山、ヒロ・マツダ、新間寿が受賞しているが、日本人のなかではまだ受賞していない“候補者”が多くいる。

 例えば、NWA世界ヘビー級王者(WCW吸収前)として活躍したジャイアント馬場は欠かせないところ。馬場はWWWF時代にエースだったブルーノ・サンマルチノとライバル関係にあり、サンマルチノは同氏が創設した全日本プロレスにも来日。馬場の引退試合にも出席している。

 他にも候補はいる。世界三大王者と言われたAWA世界ヘビー級王者として、ジャンボ鶴田も資格は十分にあるだろう。同王者だったマサ・サイトーも日本人ヒールレスラーとしてWWFタッグ王座を獲得しているだけに選ばれても不思議ではない。世界初とも言われる本格的なペイントレスラーで、「毒霧」という文化を持ち込んだザ・グレート・カブキもフォン・エリックファミリーのテリトリーだったダラスのWCCWで活躍していたオリエンタルレスラーのひとりだ。息子のグレート・ムタと親子受賞というのも夢ではない。

 そして、忘れてならないのはMSGのメインイベントで、アンドレ・ザ・ジャイアントと激戦を繰り広げただけではなく、ハルク・ホーガンをはじめとする数々の大物たちのライバルを演じてきたキラー・カーン。MSGでダイナマイト・キッドとの試合で、当時マスクマンに対するアレルギーがあったニューヨークのファンを魅了した初代タイガーマスクも外せないところだ。
  男子レスラーだけではない。女子では初めてWWF女子タッグ王座を奪取し、アメリカンドリームを成し遂げたJBエンジェルス(山崎五紀&立野紀代)も欠かせない。インディー出身者からは、白使(新崎人生)、ウルティモ・ドラゴン、カイエンターイ(TAKAみちのく&ショー・フナキ)、TAJIRI、ECW王者だった田中将斗らが今後リストアップされる可能性があるだろう。

 現在WWEで活躍中の中邑真輔、戸澤陽、ASUKA、イヨ・スカイ、カイリ・セイン、そしてレジェンドの里村芽衣子など日本人レスラーの殿堂入り候補がどんどん増えていくことは、日本で活動している選手たちにもモチベーションにつながるはず。スターダムの岩谷麻優は「私はWWEには上がってないですけど、MSGは上がっているし、プロレスは何が起こるのか分からないので、いつか殿堂入りする日が来たら嬉しい」と話していた。

 ブルの殿堂入りで夢をもらった選手たちが、チャンスを逃すことなく、世界に羽ばたいていく時代がやってくるはずだ。前述した選手の中には受賞を拒否した選手もいると言われているが、日本のプロレス界を世界に広めるため、ひとりでも多く受賞してもらいたい。

取材・文⚫︎どら増田

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