尹大統領のコミュニケーション不全の原因は、検事一筋で政治経験ゼロのまま大統領になったゆえの限界だとみる向きが強い。

2017年の大統領選挙における保守陣営の大統領候補で、現在は大邱市長の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏は、SNSで今回の総選挙では「政治的な視点と法曹的な視点の違い」が尹政権と与党への逆風につながっているとして、こう読み解いた。

「法曹界では証拠をもとに有罪か無罪を争うだけだが、政界では有罪無罪を超えて国民感情が優先される」

「政治は法曹界とは違う」

実は洪準杓氏もかつては検事であった。同じ検事出身の者からみて、尹大統領はまるで今も検事として法廷で有罪を立証するかのように政策の必要性を一方的に述べるだけで、国民感情に訴える姿勢に欠けるというわけだ。

対照的に、さまざまな罪で起訴されても今回の選挙で自ら新党「祖国革新党」を設立した曺国(チョ・グク)氏や、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が、まるで起訴は不問にされたかのように一定の支持を集めるのは、ひとえに国民感情を味方につけているのだ、と。

もう1つ、尹政権が国民とのコミュニケーションに問題を抱えている要因があると指摘するのは、韓国のメディア関係者だ。今の大統領室の高官スタッフの多くは、かつて李明博(イ・ミョンバク)政権(2008年〜2013年)のときに若手事務官だったという。

李明博政権から15年ほども経ったのに、政権の運営スタイル、とりわけ広報が当時と同じで、記者から苦言を呈されても「いや、MB(李明博)のときもこうだったけど?」と反応されることが目立つという。

李明博政権の後を継いだ朴槿恵(パク・クネ)大統領は、記者会見を極端に嫌って国民と対話をしない「不通」ぶりが強く批判され、それが弾劾の下地となった。同じ轍は踏まないとばかりに次の文在寅(ムン・ジェイン)政権(革新派)は過剰なまでに国民との意見交換や情報公開を重視し、国民は「風通しがよくなった」と歓迎したのだ。

しかし、保守派は進歩(革新)派のやることを小バカにするという悪い癖が出て、今の尹政権は時計の針を李明博政権の頃にまで巻き戻したかのように、再び国民との意思疎通を軽視しているのだという。