文政権の5年間で「ソフトで国民の話に耳を傾ける大統領」がスタンダードになったことを、尹大統領とその周囲にいる人たちは理解していないようだ。

「今回の総選挙は本当の韓日戦」とリュックに書き付けた、新党「祖国革新党」の支持者(写真・筆者撮影)

このように尹大統領から民心が離れているのは、日韓関係にとっては地雷のようなものだ。こちらの写真は、曺国氏の支持者がリュックにつけていたメッセージ。

4月10日の投票を呼びかけたうえで、「今回の総選挙は本当の韓日戦」「親日売国政権を『大破』しよう」と書かれている。「大破」は、文字ではなく、例の長ネギだ。

なかなか激しい言葉に私も身構えてしまったが、尹大統領の英断といえる徴用工訴訟問題の解決策についても多くの国民にその意義が伝わっていないことを端的に示す。

対日・対北朝鮮政策でも反感募る

もう1つ、韓国メディアで大きなイシューにはなっていないものの、今回の総選挙で注目に値するのは、「共に民主党」の李在明代表が北朝鮮と「近すぎる」人物たちに当選への道を用意したことだ。

具体的には、比例代表用のミニ政党である「共に民主連合」に、左派少数政党である「進歩党」や「新進歩連合」などを合流させ、それぞれ3人ずつ、当選圏内である比例名簿上位に載せたのだ。

とりわけ「進歩党」は北朝鮮からの指令を受けて韓国のインフラ施設を破壊する計画を練っていたとして憲法裁判所から解散を命じられたかつての極左政党「統合進歩党」の流れを汲む。

与党「国民の力」はこうした動きに「従北(親北朝鮮)勢力が国防省の重要な資料に接して、北朝鮮に流す恐れがある」と声高に警戒する。北のスパイではないかというわけだ。これに対して「共に民主党」側は「時代錯誤のレッテル貼り」と反論する。

スパイ云々はさておき、「進歩党」や「新進歩連合」から当選しそうな候補たちの過去の発言をチェックすると、「北朝鮮の核・ミサイル開発が加速するのは尹政権の強硬姿勢のせいだ」などと主張をして北朝鮮を擁護する色合いが濃いのは確かだ。

総選挙を経て、韓国国会、ひいては社会全体で北朝鮮をめぐる理念対立がさらに激しくなりそうな雲行きだ。

著者:池畑 修平