3月27日、公明党の山口那津男代表(71)が都内で講演し、次の衆院選は今年の秋を希望するとともに、来年夏に予定されている参院選や東京都議選との同日選挙や接近した日程での衆院選には反対の意を示した。その真意とは?

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 山口代表は講演でこう語った。

「衆参ダブル選挙のように大きな選挙が重なると、やはり公明党の選挙に注ぐエネルギーが分散されます。一緒に戦う自民党としても、あまり大きな選挙を重ねないほうが、協力がうまくいきますよ、お得ですよっていうことを申し上げてきたわけで、そういう意味では(次の衆院選は)来年の参議院選挙と都議選とは少し離したほうがいいと」

「お得ですよ」ってバーゲンでもあるまいし……。一体どういうことなのか、公明党の支持母体である創価学会の元会員に聞いた。

「選挙にエネルギーを注ぐのは公明党ではなく創価学会です。学会員が知り合いの非学会員に投票を呼びかけ、いわゆるF(フレンド)票を集めるわけですからね」

 2013年の参院選の選挙特番「池上彰の参院選LIVE」(テレビ東京)で、インタビューに答えた学会員が「選挙をやると功徳が出る」と答えたことがある。

減少する公明票

「彼らにとってはまさしく、信心と選挙は同列です。信心深い学会員ほど熱心に選挙活動を行なってF票を集めるのです。ですから、電話の相手から嫌な顔をされるのがわかっていてもお構いなしです。とはいえ、ダブル選挙、トリプル選挙といった同日選挙となると、投票をお願いしなければならない候補者が増えてしまう。都議選だけなら地域の公明党候補1人だけをお願いすればいいのですが、参院選が加わると比例の公明党候補、地域によっては選挙区の公明党候補、もしくは連立を組む自民党候補を推さなければなりません。さらに、衆院選も加われば、計5人もの候補をお願いしなければなりません」

 電話がかかってくるほうもなかなか大変である。

「加えて、学会員の高齢化が進んでいます。学会員の中で最も多いのは終戦直後に生まれた団塊の世代ですから、若くても今年75歳です。かつての参院比例区は党名を書けばよかったのですが、現在は個人名も書けるようになりましたから、複数の候補者の名前を覚えるのは大変。その学会員の知り合いだって高齢者でしょうから同じことです。だから票に繋がりにくい。そのため山口代表は、選挙はずらしたほうが自民党にとってもお得ですよと言いたいわけです」

 実際、国政選挙での公明党の比例区得票数は、2005年の衆院選の約898万票をピークに減少している。19年の参院選は653万票、21年の衆院選は711万票、22年の参院選は618万票 。創価学会の信者数は公称827万世帯だが、このままでは600万票を割りかねない。

「898万票を取った05年の衆院選は、小泉純一郎首相が突然、衆議院を解散した、いわゆる“郵政選挙”でした。急遽の陣頭指揮が入った時、学会は団結します。一気呵成にみんなが動いたことが票に繋がったのでしょう。一方、あらかじめ選挙時期が決まっている参院選などは、前々から準備を行って選挙活動をするのですが、高齢化が進んだほか最近では旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題もあって、そもそも折伏(新信者の獲得)も思うように進まないと聞きます。これでは組織は弱体化するばかりでしょう」

 昨年11月15日には池田大作名誉会長も死去(享年95)した。

“常勝関西”で全敗も?

「その影響も少なくないと思います。学会から離れた人ですら池田名誉会長の死にはショックを受けています。そもそも公明党は池田名誉会長が作ったものですし、最も選挙に熱心な方でした。特に地域に根ざしている婦人部(現・女性部)は『池田先生が言われるから頑張ろう』を合言葉に選挙活動を行ってきましたから大変ですね」

 デイリー新潮は今年1月11日に配信した「池田大作氏が亡くなっても創価学会は例年通り『新年勤行会』を盛大に…会員から『喪に服す気はないのか』、そうせざるを得ない事情も」で、総選挙が近いため喪に服すこともなく学会員を鼓舞する上層部を嘆く信者がいると報じた。

「創価学会も公明党も、長いスパンで見ると学会員も公明党票も減っていくことを覚悟していると思います。大量得票が望めなくなりつつある比例区よりも、今後は選挙区で公明党議員を当選させるようにシフトしているのはその焦りの表れです」

 衆院選で連続10期当選の公明党幹事長・石井啓一氏(66)は、中選挙区だった1993年の旧東京5区での初当選を除いて、すべて比例東京ブロックでの当選だったが、次期衆院選では埼玉14区から出馬すると発表。また、参院選の比例区で連続4期当選の山本香苗氏(52)は、次期衆院選で鞍替えして大阪16区から出馬する予定だ。ただし、公明党の現職がいる大阪と兵庫の衆院6選挙区(大阪3、5、6、16区、兵庫2、8区)は、次の選挙で全敗するかもしれないという予測が永田町では流れている。

「“常勝関西”といわれるように、大阪と兵庫の6選挙区では公明党が長く議席を獲得してきましたが、民主党政権が誕生した09年の衆院選では全敗したこともあるので、意外に脆いところもある。学会員の選挙活動の弱体化に加え、次期衆院選では関西で勢力を伸ばす日本維新の会が6選挙区に候補者を立てる予定なので、確かに公明党が全敗する可能性はあるでしょう。そのため山口代表にすれば、自民党総裁戦後の内閣支持率が上向いた時に、なんとしてでも衆院選をやってもらうしかないということでしょう」

デイリー新潮編集部