今週末に控えるF1伝統のモナコGP。モンテカルロ市街地を駆け抜けるこの1戦に限って言えば、たとえ”GP2エンジン”を積んでいたとしても、パワー面での不利を克服することも不可能ではない。

 それは、ドライバーがフルスロットルを踏むのは全長3.337kmのサーキットのうちたった43%だから。全開率43%という数字は、カレンダー上のどのサーキットよりも少ない。

 同様に、空力効率の悪いマシンを持つマクラーレンなどのチームは、モナコでその空気抵抗の多さを気にする必要はない。1周の平均速度は170km/h以下であり、空力効率の悪さからストレートで後れを取ることも少ない。

 こうした条件が揃うのは異例中の異例。今季ここまで全戦全勝を続ける最強レッドブル勢とのマシンパフォーマンス差に苦慮するチームにとっては、一泡吹かせる願ってもないチャンスだ。

 モナコでの”ジャイアントキリング”に求められるのは、19つのコーナーでドライバーが自信をもってブレーキをかけられ、エイペックスから安定してトラクションをかけられるメカニカルグリップの良さ。そして少しの運だ。

 今季大躍進を見せるアストンマーチンのフェルナンド・アロンソは、表彰台の頂点に立つためには、レッドブル勢にピットストップミスや信頼性トラブル、クラッシュが発生する必要があると考えている。モナコGPの決勝日は雨の予報だが、それもまたスパイスになることだろう。

 レッドブルの今季マシン『RB19』は強力なDRS、直線スピード、高速コーナーでの安定性は高く評価されており、現時点で向かうところ敵なし。ただ唯一、厳しい戦いを強いられるグランプリがあるとすれば、それはモナコGPだ。



 これまでのF1では、最終セクターに低速コーナーやシケインが設けられていたスペインのカタルニア・サーキットがモナコでの勢力図を計る指標のひとつになってきた。

 しかし、プレシーズンテストの開催地がバーレーンへ移行され、スペインGPがモナコGP後にF1カレンダー内で移動されたため、今年はその比較ができなくなっていた。

 ただ、今シーズンのカレンダー前半は市街地戦が多くを占めており、アゼルバイジャンGPの舞台バクー市街地サーキットがカタルニアの代わりを務めてくれる。

 バクーのセクター2は、ターン5の90度コーナーから、危険なほど狭い古城セクションを経て、ターン16の進入地点まで下り、そこからセクター3の直線区間へと繋がっていく。ドライバーは低速セクションのセクター2を2速から3速で抜け、ターン16からターン1へ向けて一気に加速する。

 長めの全開区間があるという点においては、モナコのヌーベルシケイン(ターン10)へと続くトンネル区間と比較が可能。オーストラリアやマイアミのコーナーを除けば、バクーはこれまで挙げたサーキットの中で最も適切な比較対象と言える。

 アゼルバイジャンGP予選のセクター2のタイムを抜き出してみると、フェラーリにとっては良い兆候が見られる。

 新フォーマットのスプリント週末となったアゼルバイジャンGPでは、スプリント用予選と決勝レース用の予選両方でフェラーリのシャルル・ルクレールがレッドブル勢に0.15秒差をつけてポールポジションを獲得しており、地元ではツイてないモナコ出身ルクレールにとっては嬉しいニュースだろう。

 ただ、フェラーリはレッドブル勢が1周のペースを犠牲にレースペースを稼いでいると認めており、レッドブルが予選向けにマシンを仕上げてきた場合、予選でのパフォーマンス差に違いが生まれる可能性もある。

 フェラーリのドライバーコーチであるジョック・クレアは、次のように語っていた。

「どうすればレースペースを上げられるのか、我々は充分に理解する必要がある」

「レッドブルはとても賢いことをやっていると思う。あのマシンはレースペースではとても、とても上手く機能している、そのために、彼らは予選ペースを多少犠牲にしているのかもしれない。彼らが予選で最適ではないから、我々は近いところで競えるのだ」

 レースペースに不安は残るものの、ここはモナコ・モンテカルロ。基本的に抜くことはできない。

 もしルクレールが予選でクラッシュすることなくポールポジションを獲得した場合は、レッドブルの1台、もしくは2台を抑え込んでポール・トゥ・ウィンを飾ることも可能だろう。

■フェラーリにチャンスあり?

 アゼルバイジャンGP予選でのセクター2のタイムを見てみると、アストンマーチンはレッドブルから0.3秒遅れとなっている。

 これだけを見るとアロンソがチームにF1初勝利を届けるのはまだ先の話のように思えるが、ブリティッシュグリーンのマシンのパフォーマンスは健在。より正確なGPSデータを見てみると、今季マシン『AMR23』がモナコで速さを見せる可能性があることが分かる。

 アロンソがアゼルバイジャンGP決勝用の予選で記録した自己最速タイムを、ライバルのルクレールやマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)のタイムと重ねてみると、アストンマーチンは加速で最も力強いパフォーマンスを見せていたのだ。

 バクーのターン5から古城セクションへのアプローチと城壁の間を抜けるエリアで、アロンソのAMR23はトラクションに優れ、タイムを稼いでいた。バーレーンGPやサウジアラビアGPでは直線で苦戦していたにも関わらず、彼がこのセクションで最速をマークしていたのは、アストンマーチンが空力重視のセットアップを組んでいたからだろう。

 仮にチームがこの戦法を止め、開幕戦でアロンソにレイトブレーキングを可能にした初期セットアップを施せば、モナコでも低速パフォーマンスを上手く引き出せるはずだ。



 バクーでのテレメトリデータによると、レッドブルはエイペックスの通過スピードはライバル勢から3〜5km/h下回り、ゆっくりとした旋回だったものの、通過タイムは最速であった。また、フェラーリはストレートエンドで伸びを見せていた。一方で、メルセデスはターン15の直角コーナーでのみで速さを見せるに留まった。

 しかし、モナコGPでは、フェラーリ『SF-23』とメルセデス『W14』が重要な役割を果たすかもしれない。

 フェラーリは、洪水被害が発生したエミリア・ロマーニャGPの中止を受けて、リヤサスペンションのアップデートをスペインGPまで延期したが、マイアミGPで既にフロアとディフューザーを改良。モナコでは、アップデートへの理解とリヤ周りのさらなる改善が行なわれることで、タイムを稼いでくるだろう。暴れ馬を手懐けるために考案されたこれらの変更は、ツイスティなモナコのコースによくマッチするはずだ。加速時にリヤが暴れるウェットコンディションならなおさらだ。

 同様に、メルセデスもモナコGPに向けてまだポテンシャルを秘めている可能性がある。アゼルバイジャンGPではフリー走行の時間が少なかったことでメルセデスは充分にセットアップを充分に煮詰めきれず、後手に回った。そのため、メルセデスはセクター2でフェラーリに0.5秒近い差をつけられてしまった。

 モナコという特異性はあれ、より伝統的にあフォーマットがその問題を解決してくれるはずだ。メルセデスはモナコGPでW14に最初の大型アップデートを投入予定であり、サイドポンツーンやフロア、フロントサスペンションに変更が加えられる。

 アップデートは”モナコGP特別仕様”という訳ではないが、風洞シミュレーションと相関関係のあるパフォーマンス向上をコース上でも示すことができれば、マシンバランスに不満を漏らすドライバーたちもタイムを改善することができるだろう。

 メルセデスのトト・ウルフ代表は、これらのアップデートで一夜にしてチームがチャンピオン争いに加わることはないと釘を差してるが、それでもハミルトンとジョージ・ラッセルのふたりは、ライバルとの差を縮めていくことを期待されているはずだ。