GENDAのM&A戦略を語る羽原CSO

GENDA<9166>がM&Aを一気に加速している。2023年8月以降に適時開示されているものだけでも、12社の買収が発表された。ターゲットの業種も同業からカラオケ、ポップコーン、映画配給と幅広い。同社はM&Aで何を狙い、今後の成長につなげようとしているのだろうか。

「世界一のエンターテイメント企業」を目指してM&A

公表日内容スキーム
2020/11/4 セガサミーホールディングス<6460>からアミューズメント施設運営子会社のセガエンタテインメントを譲受 株式譲渡
2023/8/31 子供向けアミューズメント事業の米国合弁会社Kiddletonを子会社化 株式譲渡
2023/9/1 破産手続き中のワスドからスタッフ呼び出しサービス「デジちゃいむ」事業を取得 事業譲渡
2023/9/8 遊園地・テーマパーク向けアトラクション企画のダイナモアミューズメントを子会社化 株式譲渡
2023/9/19 レモネード専門店展開のレモネード・レモニカを子会社化 株式譲渡
2023/10/23 プライズゲーム向け景品卸売りのアレスカンパニーを子会社化 株式譲渡
2023/11/20 ポップコーン専門店「ヒルバレー」運営の日本ポップコーンを子会社化 株式譲渡
2023/11/20 ワイ・ケーコーポレーションから東北地区でのアミューズメント施設運営事業を取得 会社分割
2023/11/20 独立系映画配給大手のギャガを子会社化 株式譲渡
2023/12/15 クレーンゲーム用景品企画・販売のフクヤホールディングスを子会社化 株式譲渡
2023/12/19 アミューズメント施設運営のプレビを子会社化 株式譲渡
2024/1/22 「カラオケ BanBan」運営のシン・コーポレーションを子会社化 株式譲渡
2024/3/11 アミューズメント施設運営のサンダイを子会社化 株式譲渡

同社のゴールは「世界一のエンターテイメント企業」になること。そのためには国内外の既存事業での連続的な成長に加えて、M&Aによる非連続な成長が欠かせない。M&Aという非連続な成長を連続することで、成長スピードを加速しているのだ。同社はエンターテイメント全域を対象としたM&Aを進めている。

一般にM&Aには三つの「狙い」がある。一つは「規模を買うM&A」で、同業他社を買収して業界内での規模を拡大するのが狙いだ。二つ目は「時間を買うM&A」で、新分野での事業を一から立ち上げるのではなく、他社を買収することで迅速な進出を目指す。三つ目は人材を獲得するための「人を買うM&A」だ。GENDAでM&Aの指揮をとる羽原康平執行役員CSO(最高戦略責任者)は「わが社の狙いは、その全てだ」と話す。

アミューズメント施設運営のセガエンタテインメントやプレビ、サンダイ、子供向けアミューズメント事業の米国合弁会社Kiddletonなどは「規模を買うM&A」に、レモネード専門店を展開するレモネード・レモニカやポップコーン専門店の日本ポップコーン、独立系映画配給大手のギャガ、カラオケボックス運営のシン・コーポレーションなどは「時間を買うM&A」に、そして全てのM&Aが「人を買うM&A」に、それぞれ該当するという。

「規模を買うM&A」では、2023年7月の東証グロース市場への上場当時と比べても連結売上高は約2倍の1000億円に、社員も約1.6倍の500人(パート・アルバイトを含めると約3倍の1万1000人)以上に増えている。M&Aを駆使して、わずか8カ月で急成長を遂げたのだ。

安定したキャッシュフローの企業なら、規模にこだわらず

M&Aの対象は売上高が1億円未満から100億円を超えるものまで、「安定したキャッシュフローが得られる企業なら、規模にこだわらず買収している」(羽原CSO)。取得金額については明らかにしていないが、「(短期間で連続して買収しているものの)高値づかみはしていない」(同)という。

M&Aの資金調達はすべてデットファイナンス(借入金)で賄っている。「新株発行によるエクイティファイナンスでの資金調達はEPS(1株当たり純利益)を希薄化する可能性があるため、現時点では考えていない。ただ、優良案件があれば将来的にはエクイティファイナンスでの資金調達もありうる」(羽原CSO)という。2024年1月期末の有利子負債は189億円。10倍以下が適正とされるEBITDA有利子負債倍率は1.5倍程度だ。

今後のM&A戦略としては、既存のゲームセンターやカラオケボックス、映画配給ビジネスについてはロールアップ(同じ業界の企業を連続的に買収していくこと)で、スケールメリットによる市場価値の向上や経営の効率化を目指す。併せて新領域進出のためのM&Aも進める。

さらに「チイカワ」や「ポケモン」に続くクレーンゲームの人気プライズ(賞品)を独自開発するためため、100%子会社のトーキョー キャラクター メーカーズのような知的財産(IP)企業のM&Aも視野に入っているという。

ハイペースのM&Aは、これからも続く

羽原CSOは「昨年は15件のM&Aを実行したが、このペースで進めていくことは可能だ。金利上昇も現状では急速に進みそうもないので、特に気にしてはいない」と話しており、今後も同社のM&Aはハイペースで進みそうだ。

M&Aで取得した企業については、グループ全体でのキャンペーンやクレーンゲームでの限定プライズといった具体的な施策によりシナジー(相乗)効果を発揮。同社は上場前にも11件のM&Aを実施しており、2018年5月の創立から30社近い会社をグループに入れたが、「全ての子会社が想定通りの成果を挙げており、成功している」(羽原CSO)という。

どうすれば、そんなに多くの優良企業を探し出せるのか?希望の条件に合致する候補企業を見い出して交渉を進めるソーシングでは、「M&A仲介事業者やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)のほか、銀行や証券会社から案件紹介を受けている。それらに加えて、経営陣の人脈を通じて交渉するケースもある」(羽原CSO)と、幅広く情報を集めている。

羽原CSOは「世界一のエンターテイメント企業というビジョンを一緒に実現するために、ぜひ私たちのグループに参画してほしい」と話す。

文:M&A Online