【白井元調教師と学ぶ血統学「温故知新」】
元JRA調教師の白井寿昭氏に指南役をお願いし、様々な角度から血統を考える連載の第113回。愛読者から寄せられた質問に対し、白井氏が一つひとつ答える特別編。本来は有料会員限定の当コラムも、今シリーズは無料開放となっているので、この機会に競馬への見聞を広めていただきたい。
進行は東スポ競馬・関西地区本紙担当であり、白井氏との親交も深い松浪大樹記者。今回も同氏の本音をビシッと聞き出している。
スペシャルウィークの血はダートでも
松浪大樹(東京スポーツ記者=以下、松浪)今回も読者の方による白井先生への質問コーナーです。早速ですが、最初の質問に入りましょう。これもスペシャルウィーク関連で、「母の父スペシャルウィークの馬がダートで活躍しているように感じているのですが、これに関してはどのように考えていますか?」
白井寿昭氏(元JRA調教師=以下、白井)血統的に…ということかな? そのような質問だとすれば、答えは(スペシャルウィークの)母の父にあたるマルゼンスキーやな。これは絶対。
松浪 やっぱりそこですか。マルゼンスキーの潜在的なスピード能力の高さ。
白井 そう。それとパワーね。その部分が秀でていたからこそ、僕は重宝したわけやし。
松浪 先生が管理した馬でいえば、ダート重賞を7勝しているオースミジェット。あれも母の父はマルゼンスキーでした。父はジェイドロバリーだったので、マルゼンスキーだけの影響ではないかもしれませんが。
白井 でも、これの購入を決めた一番の理由も、母の父のマルゼンスキーやからな。さらにいえば、スペシャルもダートの攻め馬でかなり走ったよ。ほら、僕のところではデビュー前に、ダートのEコースでゲートからマイルの時計を出しとったやろ?
松浪 あれ、走る馬かどうかがわかりやすいんですよね。地方競馬の能検みたいなもので。
白井 そうそう。ある程度までは数字でわかるもん。で、スペシャルはそのときの時計が飛び抜けて速かった。
松浪 103秒とか、104秒とか。それくらいの数字でしたよね、確か。
白井 そう。他にもビッグバイキングとか、ビッグダンジグとか。あれらも速かったな。
松浪 そのときから、ダートも問題ない…と思っていたわけですね。
白井 使うつもりはなかったけどな。母の父としてだけでなくて、スペシャル自身もダートの活躍馬を出しとるよ。そのあたりからも適性がわかると思うわ。
松浪 ゴルトブリッツにローマンレジェンドなどがそうですよね。リーチザクラウンはダートを走っていませんが、産駒のクラウンプライドはダートで活躍。このあたりにも適性の高さが見えると思っていますよ。
白井 スペシャルはキングカメハメハと配合することが多いし、それが理由になっとるかもしれんけど、そもそもの話として、スペシャル自身にダートの適性があった。で、その理由を血統面からあげるのであれば、マルゼンスキーの持っているスピードとパワー。これに尽きると思う。
松浪 でも、スペシャルウィークをダートに使う気持ちはなかった(笑い)。
白井 全くなかった。シラオキの血統で、掛け合わせてきた馬にも全く崩れがないんやんか。これはクラシック。最初に馬を見たときから決めていたし、そのように育てようと思っていたからな。ダートを使うなんて、考えもしなかったわ。いまとは扱いも違うし。
松浪 了解です。しかしながら、スペシャルウィーク関連の質問だけで、ここまで話題を引っ張れるわけですから、この馬の認知度というか、奥の深さはさすがですよね。何度も言いますが、もう四半世紀も前の馬。なのに、この人気ですよ(苦笑)。
白井 ホンマになあ。アグネスデジタルとか、他にも人気になりそうな馬はいたんやけど、スペシャルだけは別格なんやな。それを改めて知ったわ。
日本産馬のレベルアップを証明
松浪 では、スペシャルウィークの話から離れ、新たな質問に移っていきましょうか。
白井 そうやね。で、どんな内容?
松浪 次はこれですかね。「最近、海外の種牡馬を父に持つ馬の活躍が、そこまで目立たないように思えます。これに関してはどのように思いますか?」
白井 外国産馬が少なくなった。そういう意味やろか?
松浪 おそらくはそうでしょうね。日本産馬のレベルが上がったから…と言ってしまえば、それまでの質問とも思えますが。
白井 その通りやな。今回のJCでもそうやけどな。海外の出走予定馬の中にハーツクライの子がおったやろ。結局はやめてもうたけども。そういったサンデーの血統が海の向こうからやって来る。昔では考えられんこと。それが実際に起きてる。
松浪 BCターフを勝ったオーギュストロダンはディープインパクト産駒でした。米国に遠征する欧州馬がサンデーサイレンス系統の馬というのも、胸にジ〜ンと来るところがありますよね。
白井 日本の種牡馬がすごく良くなってさ。海外に産駒が出て行っても結果を出しとるやろ。そんな状況にもかかわらず、外国産馬を買うんか…という話で。関税とかもかかるのに。
松浪 現在でも外国で馬を買ってくるオーナー、牧場は少なくないありませんが、それが競走馬としての活躍だけを見ているのではなく、繁殖に上げたときのことを考えているように思えます。
白井 そう。そこまでの流れを見ての購入。昔みたいに能力だけを見てさ。外国産馬のほうがGⅠを勝ちやすい。そういった理由で連れて来ている馬は少ないと思うよ。自前の繁殖がいて、それに合いそうなヤツを連れてくる。そのような形になっとるよな。ほら、この雑誌に載っているアダイヤーにフクムとか。日本で種牡馬をするみたいで、血統のほうもいいけど、それ以上にサンデーとかの繁殖に合いそうやんか。
松浪 日本でサンデーサイレンス系の繁殖に種付けをして、いいのは自分のところに持っていって走らせる。そういうところまで考えているかもしれませんよね。向こうにはサンデーサイレンス系の繁殖が多くないでしょうし。
白井 あるかもな。まあ、少し話はそれてしまったけども、さっきの質問に対しての答えは、松浪君も言っていた「単純に日本の種牡馬の能力が上がったから」。これで間違いないと思います。
☆白井寿昭(しらい・としあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。68年に上田武司厩舎の厩務員となり、78年にJRA調教師免許を取得。79年に開業した。95年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。98年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。
著者:松浪 大樹