「日本GPのような結果を残し続けて来季のシートをつかみ取ってほしい」。母国GPで初入賞を決めたRB角田選手への期待を語る堂本光一
「日本GPのような結果を残し続けて来季のシートをつかみ取ってほしい」。母国GPで初入賞を決めたRB角田選手への期待を語る堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE6

初めての春開催となった鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)での第4戦日本GP。3日間で22万9000人の観客を集め、大いに盛り上がった。レースはホンダのパワーユニット(PU)を搭載するレッドブルが圧倒的な強さを見せ、ワンツー・フィニッシュを決めた。

日本期待の角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手は10位で完走し、自身3回目の母国GPで初入賞を飾った。日本人ドライバーが日本GPで入賞するのは、2012年に3位表彰台を獲得した小林可夢偉(こばやし・かむい)選手以来12年ぶりの快挙だった。

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■フェラーリのマシンは確実によくなっている

春の鈴鹿はサーキットに桜が咲いていて、決勝は天候もよく、現地で見ているファンの方にとっては最高だったと思います。鈴鹿は車体とPUの総合力が試されるサーキットで、各チームの実力はもちろん、弱点も露呈します。ですから、シーズン序盤の4戦目にして勢力図がはっきりと見えたレースでした。

春開催となった鈴鹿サーキットでの日本GPは3日間合計で昨年(22万2000人)を上回る22万9000人の観客を集めた。2025年の日本GPは第3戦として4月4日〜6日開催されることがすでに決まっている
春開催となった鈴鹿サーキットでの日本GPは3日間合計で昨年(22万2000人)を上回る22万9000人の観客を集めた。2025年の日本GPは第3戦として4月4日〜6日開催されることがすでに決まっている

今シーズンもレッドブルが頂点に立ち、続いてフェラーリ、さらにメルセデス、マクラーレン、アストンマーティンの3チームが団子状態になっているという構図です。上位5チームの顔ぶれは昨シーズンから変わっていません。

鈴鹿でも、レッドブルとマックス・フェルスタッペン選手は異次元でした。金曜日のフリー走行から圧倒的な速さを披露し、その時点で「勝負あったな」という印象でした。鈴鹿ではセルジオ・ペレス選手も安定して速く、日本GPでレッドブルは早くも今季3度目のワンツー・フィニッシュを達成し、盤石の強さを見せています。

春に移行した日本GPですが、予選が行なわれた土曜日は涼しかったのですが、レース当日は気温が20度を超え、路面温度は40度を超えるなど昨年秋の日本GPよりも高かった。メルセデスやマクラーレンのマシンは温度変化の影響を受けて、決勝ではタイヤをうまく使うことができませんでした。両チームの弱点や課題も見えたレースだったと思います。

タイヤの使い方に関して、フェラーリは昨年に比べると明らかによくなっています。前回のコラムで、鈴鹿でフェラーリの本当の実力がわかると話しましたが、間違いなくマシン開発はいい方向に進んでいるように見えます。今シーズンのチーム戦略も悪くなく、これからが楽しみです。

■再びタッグを組むアロンソとホンダに期待!

上位5チームの中ではアストンマーティンがやや遅れをとっている印象ですが、日本GPではフェルナンド・アロンソ選手がメルセデス2台とマクラーレンの1台をおさえて、6位に入賞しました。そのアロンソ選手は日本GP終了後にアストンマーティンと複数年契約を交わしたと発表しています。

アストンマーティンは2026年からホンダのPUの供給を受けることが決まっています。つまり、アロンソ選手が再びホンダのPUで走るということになりますが、日本のファンにとって忘れられないのは2015年の日本GPです。当時のマクラーレン・ホンダは信頼性とスピードに欠き、マシンをドライブしていたアロンソ選手は無線でホンダのPUのことを「(F1の下位カテゴリーの)GP2エンジン」と叫んでいた。

でも今度こそはホンダのPUを「最高のF1エンジン」と言ってほしい! 2年後、44歳になったアロンソ選手がホンダのワークスマシンをドライブするというのは本当にすごいことです。今年の日本GPでもキレッキレの速さを見せてくれたアロンソ選手が、26年からホンダと共にどんな戦いを見せてくれるのか、今から楽しみです。

日本GPでは、トップ5とそれ以下のチームの間に、大きな差があることも見えてきました。そんな中、RBの角田選手がトップ5のチームに割って入り、10位入賞を果たしました。今回の日本GPで、角田選手は予選、決勝を通して「これ以上はない」という100点満点の走りを見せてくれたと思います。

チームのピットストップ作業も見事でした。レース中盤の22周目に角田選手を含む5台のマシンが一斉にピットに入りました。このピットストップをしっかりと決めて角田選手はポジションを3つ上げることに成功。それが母国GPでの入賞の大きな後押しになりました。

RBのピットクルーは最高の仕事をしましたが、彼らを引っ張り、チームに勢いをもたらしているのはドライバーの角田選手でしょう。「角田ならきっとやってくれる」という気持ちがスタッフの中に芽生えて、チームがひとつにまとまっているからこそ、クルーたちはピットストップをミスなく決めることができたのだと思います。

そのチームの頑張りにドライバーの角田選手が応えて結果を出すという、いい流れがここ数戦のRBには生まれているように見えます。今年の角田選手は、チームにとって昨年以上に頼もしい存在になっているのだと感じます。

■RBとハースの入賞争いは複雑な気分

RBは今、角田選手が中心となっていい形で戦えているからこそ、マシン開発をさらに進めて、もっと競争力を高めていってほしい。日本GPで角田選手は、自分とマシンのすべてを出し切ったと思いますが、それでも10位に入って1ポイント獲得するのが精一杯というのが現実です。

現在のRBの実力ではトップ5チームの後ろ、11位や12位が現実的なポジションになります。トップチームの数台がリタイアして、なおかつ自分たちがミスなく完璧なレースをして初めてポイントを狙える状況になりますが、ライバルのハースやキック・ザウバーも接近しているので、入賞圏内の10位以内でフィニッシュするのは簡単ではありません。

特にハースは、新代表に就任した小松礼雄(こまつ・あやお)さんが非常にクレバーで、日本GPでもニコ・ヒュルケンベルグ選手が角田選手の後ろでいい走りをしていました。中団グループの争いは昨シーズン以上に接戦で、小松さんが率いるハースが入賞圏内に入ってくると、角田選手がポイント圏外に弾き出されてしまうという図式になっています。日本人としては複雑な気分にもなります。

これからのレースでも、RBやハースなどの中団勢がポイントを取るのは大変だと思います。ミスが許されない、過酷な戦いがシーズンの最終戦まで続いていくでしょうが、角田選手は来シーズンのシート争いもあるので、頑張ってほしいです。

ルイス・ハミルトン選手が来年からフェラーリに移籍し、アロンソ選手の残留が決まるなど、シート争奪戦が例年よりも早めに動いている印象です。ハミルトン選手が抜けたメルセデスのシートには誰が座るのか? フェラーリからの離脱が決まったカルロス・サインツ選手はどこに行くのか? 各チームのシートの動向も気になります。

3回目の挑戦にして初めて母国GPで入賞を飾ったRBの角田裕毅選手。「やっと日本のファンの前でポイントを獲得できました。正直ホッとしています。ファンの声援が大きなパワーになりました」と笑顔で語る
3回目の挑戦にして初めて母国GPで入賞を飾ったRBの角田裕毅選手。「やっと日本のファンの前でポイントを獲得できました。正直ホッとしています。ファンの声援が大きなパワーになりました」と笑顔で語る

角田選手としてはレッドブルのセカンドシートを狙いたいけれど、レッドブルとホンダのパートナーシップは25年シーズン限りです。そうなるとレッドブルとホンダのどちらの関係性を優先するのか、角田選手にとっては難しい状況にあると思いますが、日本GPのような結果を残し続けることでシートをつかみ取ってほしい。

でも今のF1はシートが少なすぎますよね。RBとレッドブルのリザーブドライバーを務めるリアム・ローソン選手や、病気欠場したサインツ選手に代わって第2戦サウジアラビアGPに出場し、7位入賞したオリバー・ベアマン選手のような若く才能のあるドライバーにシートがありません。ゼネラルモーターズ(GM)のサポートを受けるアンドレッティはF1へのエントリーを拒否されてしまいましたが、新規チームが参入してほしいと強く願います。

☆取材こぼれ話☆

日本GPで10位入賞を飾った角田選手。RBのピット作業に感銘を受けたと光一は語る。

「RBはピットストップで3つポジションを上げましたが、各チームのピットクルーの作業タイムを見てみると、実はRBがそんなに速いわけではなかったんです。普段通りの仕事をしただけなんです。むしろ一緒のタイミングで入ったハースやザウバー、ウイリアムズなどの他チームが失敗していました。入賞がかかった緊迫した場面で、いつも通りの仕事をいつも通りにやることは簡単ではありません。その大切さを改めて感じました。

でも「平常心で臨む」ということはなかなかできないことです。ましてや入賞のチャンスがあったり、ドライバーの母国GPとなると、どうしても力が入ってしまう。でもRBのクルーたちはいつも通りの仕事をしたことが結果につながりました。この場面は、自分にとってもいい教訓になりましたね。

帝国劇場で主演ミュージカルの『Endless SHOCK』が開幕するにあたって、『ラストイヤーでどんな心境ですか?』と、メディアの方に聞かれましたが、僕は『いつも通りに』と答えました。そういう気持ちが大事だと、RBのピット作業を見て感じました」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)

構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(対談) 写真/桜井淳雄